第2章33話:キック力

「ガウウウウゥッ」


そのとき、近くの岩陰から魔物が現れる。


ウルフである。


ただ、森で見たのとは色が違う。


赤色の毛並みを持つウルフだ。


「レッドウルフね」


と、レベッカが言った。


――――レッドウルフ。


サイズ的にはそのへんのウルフと変わらない。


しかし魔力の気配が強い。


おそらく森のウルフよりも強力な個体だろうと推察できた。


「ガウッ!!」


レッドウルフが、牙を剥きながら、アリスティに向かって襲いかかってきた。


レベッカやミレーゼが即座に臨戦態勢を取る。


だが。


「フッ!!」


アリスティが、レッドウルフに向かって蹴りを放った。


その蹴りがレッドウルフを下から蹴り上げる。


「!!?」


キックの直撃を食らったレッドウルフは、空中を縦に回転しながら、30メートルもの距離を吹っ飛んでいった。


さらに地面をもんどり打ち、20メートルも転がる。


あわせると50メートルも吹っ飛んだ計算だ。


たった一撃の蹴りで50メートルも吹っ飛ばすなど……明らかに常軌を逸していた。


レベッカもミレーゼも、口をあんぐりと開ける。


「な、なんてキック力なの……? こんなファイター、見た事ないわよ……」


「さすがCランクの大アオドランを倒しただけはある、ということか」


倒れたレッドウルフは動かない。


生死を確認しにいくと、当然、死んでいた。


アリスティは魔石を回収する。


それ以外は放置しようとすると、レベッカが聞いてきた。


「回収したのは魔石だけ? 毛皮や牙は回収しないの?」


「えっと……アイテムバッグ、持ってない、ませんので」


「……ああ」


と、レベッカが納得した。


ミレーゼが言う。


「一時的に、私のアイテムバッグに入れておいてやろう。レッドウルフの素材を丸々まるまる捨て置くのはもったいないからな」


「いいんですか?」


「うむ」


と、答えて、ミレーゼがレッドウルフの死体をアイテムバッグに収納してくれた。

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