第2章27話:宿屋

街にはたくさんの人々が行き交っている。


街娘。


大工の男。


行商人。


吟遊詩人。


魔法使い。


兵士。


修道士、神官……。


アリスティは、都市が内包する活気と賑わいに、心を奪われてしまった。


「すごい……」


初めて港町ルクスヴェンを訪れたときに近い衝撃――――


いや、それ以上の衝撃を、アリスティは受けていた。


こんなに活気あふれる街があるなんて。


世界の広さを感じさせられた想いである。


「まず、宿を予約しておきましょう。お勧めの宿屋があるから」


と、ベルニーは言った。


どこにどんな宿があるかなんて、アリスティにはわからない。


なので、全てベルニーに任せることにした。







大通りをゆく。


途中で、横道に入り、路地を歩いた。


やがて、一軒の宿屋にたどりつく。


「ここだよ。安いし、料理も美味しいんだよね」


と、ベルニーは言った。


【牛鶏のバルモ亭(うしどりのばるもてい)】という名前の宿。


名前の意味はわからない。


定食屋でもあるらしい。


中に入る。


入り口をくぐったとき、りんりんとベルが鳴った。


「いらっしゃいませ。……あら、ベルニーちゃん」


迎えたのは、一人の女性。


「久しぶり。メリエールさん」


ベルニーが返事をかえす。


――――メリエール。


この人が、宿の店主のようだ。


大人の女性。


ほつれたロングヘアの茶髪が、少しアンニュイな雰囲気をかもしだしている。


瞳の色は黄色。


ロングスカートの庶民用衣服のうえに、ケープを羽織っていた。


耳が長いことから、エルフなのだとわかる。


ベルニーが言った。


「宿泊の予約を、二人ぶんお願いしたいんだけど」


「了解。二部屋ふたへやでいい?」


「うん。それでお願い」


「食事はどうする?」


「つけてもらいたいかな」


「わかったわ」


「ああ、あと」


「ん?」


「一応、ツレのことを紹介しておきたくて。彼女はアリスティ。遠くからやってきたで、まだこっちの言語に不慣れなんだ」


「なるほど」


「まあ、最低限の言葉はわかると思うけど、気遣いをお願いできれば嬉しいかな」


「大丈夫よ。ベルニーちゃんのお連れさんだもの、悪いようにはしないわ」


と、メリエールは言った。


アリスティは一礼する。


「よろしくお願いします」


「ええ。こちらこそ。気軽にメリエールって呼んでね。アリスティさん」


挨拶が済んだので、予約を取った。


宿帳に、名前を記載してもらう。


これで、寝床は確保できた。


アリスティたちは、宿を立ち去る。


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