第1章15話:海の恐ろしさ
だが。
すぐに、喜んでばかりもいられないと気づく。
周囲を見渡す。
「これからどうしましょう……」
イカダはぶっ壊されてしまった。
残骸が、近くにプカプカと浮いている。
一度、ミユテ島に戻ろうか?
……いや、無理だ。
方角がわからなくなっている。
「もう、適当に泳ぐしかありませんね」
こうやって、ぼうっとしているのも、よくない。
水というのは、ただ浮かんでいるだけでも体力を消耗する。
ここから泳いで陸地を目指すとするなら、体力勝負となる。
できるだけ、スタミナを無駄に消費することは避けたいところだ。
「では――――」
アリスティは、水の中で構えて。
勢いよく、泳ぎ始めた。
クロールの姿勢で、水をかいて、前進する。
夕陽が落ち、夜になる。
アリスティにとって、夜になればすぐに眠るのが、島での日常だったが……
ここで眠るなんて無理だ。
だから夜通し、泳ぎ続ける。
水の上を蹴って、進むという手も考えた。
しかし、あの移動方法は、思ったより体力と魔力を消費する。
泳いだほうが、より長く、移動できる。
だから、アリスティは、ただ愚直に泳ぎ続けた。
翌日。
休憩を挟みつつ、泳ぎ続ける。
アルヴィケルという、最大の壁をぶち破った。
もう、海に怖いものはない。
アリスティはそう思っていた。
しかし、勘違いだった。
海の真の恐ろしさ。
それが、アリスティの前に具現しようとしていた。
「天気が……悪い」
曇り空である。
海も、少しずつ荒れ始めていた。
そう。
海が恐ろしいのは、魔物だけではない。
嵐も、大蛇に匹敵するほどに恐ろしい。
「……天気が良くなることを祈るしかありませんね」
アリスティは、心の中で祈りつつ、ふたたび泳ぎ始める。
だが、その祈りは届かない。
数時間後。
海は、荒れに荒れ始めた。
天には
稲妻が鳴り響き。
あちこちで
アリスティは、激しく揺れ動く波に、恐怖を覚えた。
彼女の驚異的な
アリスティの身体は、波に巻かれ、右に流れたり、左に流れたり、メチャクチャに動かされた。
(よりによって、どうしてこんなときに
ほんの数日、波が穏やかでいてくれたら、それでよかったのに。
神が、自分を呪っているのではないか……とさえ思った。
(とにかく、やり過ごすしかありません……)
心底、うんざりしながら、アリスティは
その嵐は、一日中、荒れ狂い続けた。
翌日。
波は収まっていた。
静かな海。
アリスティは、そんな海を、ただ泳いでいた。
もはやどこを泳いでいるのかも、わからなかった。
頭が、ぼうっとしていた。
この二日間、眠っていない。
食べ物は、食べた。
適当にその辺で見つけた
通常の獣や魚の肉は、生食すると腹を壊す可能性があるので、危険である。
しかし魔物肉は、その危険がないので、生で摂取することができるのだった。
だから、エネルギーはたくさん摂取できた。
だが、膨大な疲労が、蓄積していた。
海の上では眠れないし……
泳ぎ続けて、身体はヘトヘトだ。
「……はぁ……はぁ……はぁっ……はぁ……はぁ……」
そろそろ、自分の体力が限界に近づいてきているのがわかる。
早く、陸地に辿り着かないと。
アリスティは、無心になって泳ぎ続ける。
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