第1章14話:戦闘

無残に破壊され、跳ね上がるイカダの残骸。


海のど真ん中で、イカダを失う……


それがどれほどの痛手か。


アリスティの心に、絶望がよぎる。


けれど、振り払った。


今は、戦いに集中しなければ。


アリスティは、さきほどのジャンプによって、10メートルほどの高度で浮遊していた。


が、やがて重力にしたがって海に落ちていく。


そのまま着水……しない。


アリスティが長年かけて身につけた超技術。


水の上を蹴ってジャンプする技術を、ここで使う。


水中に沈む前に、水面を蹴りつけて、その反動で跳躍。


「……!!」


向かう先は、アルヴィケルの顔面である。


「ハァアアアアッ!!」


アリスティは、身体強化魔法を発動しつつ。


拳に、魔力を込めた。


ジャブを繰り出すつもりはない。


この一発で決めてしまうつもりの、本気のパンチ。


アリスティが極限まで魔力を注ぎ込んだ拳。


その、アリスティが出せる最大出力のパンチを。


アルヴィケルの顔面めがけて構える。


「……フシュウウウ!」


対するアルヴィケルが取った行動は、迎撃。


鎌首をもたげていたアルヴィケルが、その首を引っ込め……


次の瞬間、ズンッと押し出してくる。


向かってくるアリスティに、頭突きを食らわそうとする動き。


本来、蛇に頭突きなどという攻撃の選択肢があるわけではない。


アルヴィケルが狙ったのは、頭突きという名の体当たりだ。


――――アルヴィケルは全長、数百メートルに及ぶ巨体。


尋常ならざる重量があり、勢いよく身体をぶつけるだけで、たいていの生物は瞬殺できる。


アリスティが顔面を攻撃することを狙うなら。


アルヴィケルはむしろ自分から当たりにいって、重量でねじ伏せるという戦法だ。


両者、力押しともいうべき対決。


それを制したのは。


「ガグア……!!!!??」


アリスティの超威力のパンチが、アルヴィケルの頭部にめりこむ。


単に表面の皮膚を殴っただけに留まらない。


拳の圧力が、アルヴィケルの皮膚の内部に浸透して、脳天にまで伝わる。


まずは頭蓋骨を粉砕。


さらにパンチの余波が、アルヴィケルの巨大な脳みそを破壊していく。


――――アルヴィケルは海の魔王。


どんな敵も、その巨体と魔力でねじ伏せてきた海洋の覇者。


だから、アルヴィケルは想像だにしない。


まさか人間ごとき、小さき生物が、自分の肉体に致命的な損傷を与えるなど。


それほどまでに極まった個体が、よもや人類の中に存在するなど。


「……」


ズザアアァッ、とアルヴィケルの巨体が大きくノックバックした。


見た目には、ただ殴られて後退したようにしか見えなかったので、アリスティは、少し不安になる。


自分のパンチは本当に効いたのか?


わからぬまま、アリスティは、重力にしたがって海に落ちた。


着水。


海の中の景色が目に入る。


視界に映っているのは、アルヴィケルの巨大すぎる蛇体。


アリスティは水面に浮上して、顔を出した。


アルヴィケルの様子を見上げて、うかがう。


「……ッ、……」


アルヴィケルの蛇体がびくん、びくん、と痙攣した。


その目から、光が消えていく。


次の瞬間。


アルヴィケルの身体が倒れ。


ザパアァァンッ……と音を立てながら、海面に倒れた。


激しい波が起こる。


アリスティは波に飲まれそうになる。


その波をやり過ごし、やがて周囲が落ち着いてきたとき。


アルヴィケルは、海にプカプカと横向きに浮かんでいた。


「勝った……」


アルヴィケルが、絶命した。


倒したのだ。


自分が。


「……!!」


よしッ!!


と、水の中で、思わずガッツポーズをする。


もしも倒せるなら、倒したいと思っていた。


念願の仇討ち。


成功である。


(お父さん、お母さん、ユーナ……!! 私、アルヴィケルを倒しましたよ!)


心の中で呼びかける。


しばらく、アリスティの中に、充足感が満ちた。




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