第1章16話:疲労

泳ぐ。


泳ぐ。


泳ぐ。


ひたすら、泳いだ。


ときどき遭遇する魔物を殴り殺し、蹴り殺しながら、ひたすら、泳ぎ続ける。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


身体の感覚がなくなっている。


腕にも足にも、力が入らなくなっている。


休憩しても、体力が戻らない。


意識はぼうっとして、何も考えられない。


(もう……無理……)


そう思った。


だけど、手足を止めるわけにはいかない。


気力だけで、がむしゃらに泳ぎ続けた。






夕方になる。


三度目の夕方。


ミユテ島を出発してから60時間ぐらいは経ったか。


そのうちの大半を、泳ぎ続けていた。


まだ、陸地が見えない。


疲労はとっくに限界を突破している。


眠りたい。


陸の上で休みたい。


そんな思いが頭の中でぐるぐると駆け巡っている。


ふと、気を抜けば、このまま気絶してしまいそうなぐらい、疲弊しきっていた。


「……?」


そのとき、水平線の果てに。


何かが見えた。


陸……。


陸だ……!


「あ、ああぁっ……!!」


涙が込み上げてきた。


やっと発見した、陸地。


大陸か、島か、わからない。


もう、なんでもいい。


あそこが、魔物の巣窟でも構わない。


陸に上がりたい。


早く海から脱出したい。


その思いが、アリスティを激しく突き動かした。


「くっ……!!」


最後の力を振り絞って、泳ぎ始める。


泳ぐ。


泳ぐ。


泳ぐ。


力なんて残ってない。


けれど、無理やり体力をしぼりだして、推進力に変える。


あの陸に向かって、必死で泳ぎ続ける。


「う、あああっ!!」


必死で腕を振り回す。


効率の良いクロールの姿勢など、とうに不可能だ。


やけくそな状態で、泳ぎまくる。


陸地の輪郭が、だいぶ明らかになってきたころ。


アリスティは気づいた。


「あ……!」


視界の左に、建物がある。


島なのか大陸なのかわからないけど、その先端部分に位置する場所。


そこに赤い屋根の建物が、密集している。


海の町だ!


はは……


あはははは……!!


やっと。


やっと人里を発見した。


あそこに行こう!


……と、思ったけど。


波が、町からアリスティに向かって流れてきている。


いわゆる離岸流りがんりゅうというやつだ。


つまり、向かい波である。


この離岸流の流れに逆らって、町まで泳ぎきるのは、今の体力では不可能だ。


町は無視して、このまま真っ直ぐ泳いだほうがいい。


直接、町に上陸できないのは残念だな。


でも……


「あと少し……あと少しです……っ!」


陸が見えない絶望から一転。


アリスティの心に、希望の光がともっていた。




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