第1章11話:希望

「もし、それで」


ユーナは、言った。


「もしそれで、アリスティが死んだらどうするのよ?」


アリスティが海に出たら……


無事に帰ってこられるかはわからない。


二度と会えなくなるかもしれない。


ユーナは叫ぶ。


「そりゃ、私だって帰りたいわよ! 島を出られるんだったら出たいわよッ! でも、どうしようもないから、あきらめて生きてきたんじゃないッ!」


それはユーナが、20年以上も心に秘めた想いだった。


島を出たい。


帰りたいに決まってる。


大陸に、故郷に。


でも。


望んでも仕方ないことだったから、胸の奥に封印してきたのだ。


そうしないと、やってられなかったから。


「けど、全部が地獄だったわけじゃない。三人で暮らした毎日は、楽しい事もたくさんあった。幸せな時間もたくさんあって……だから、私は必死で、前向きに生きてきたのに!」


ここにきて、ミリアが魔力病にかかってしまった。


ミリアの病気を放置すれば、三人で暮らす日々は、いずれ崩壊する。


その残酷な現実が、ユーナの心を押し潰そうとしていた。


「どうして、こうなっちゃうのよ……どうして、どうして!!」


髪をかきむしるように、ユーナが叫ぶ。


アリスティはしばし、押し黙ってから。


―――海に近づいた。


夕陽に色づく海。


アリスティは右足を大きく振って。


思いきり、海水を蹴り上げる。


直後――――


蹴りつけられた海の水が、ズバアアァァンッ!!! と音を立てて吹っ飛んだ。


海水が、100メートル先まで、高く高く吹き上がっている。


人間業ではない、有り得ない威力と風圧であった。


「……」


ユーナは、呆然となって、固まった。


アリスティは告げる。


「現在、私のパワーリングは、レベル99です」


「レベル……99……」


「はい。これ以上、上は存在しません。最高到達点に達しました。今の私なら……きっと竜だって倒せます」


水上での戦い。


水中での戦い。


純粋な戦闘能力。


……全てにおいて、鍛えてきた。


完璧に仕上げてきた。


もう、どんな相手であっても、負ける気がしない。


竜であっても、アルヴィケルであっても。


「だから、私に任せてください。必ず、ユーナとお母さんを、島から救出してみせます」


それは希望の言葉だった。


決して出られない、絶海の孤島にあって、唯一の、希望の光。


ユーナは目を見開いて、アリスティを見つめる。


その目の端から、涙があふれ、流れ落ちた。


「アリスティ……」


ユーナは言った。


「お願い……あたしたちを、助けて……」


アリスティは、強くうなずく。


「……はい!」


かくして。


アリスティは、島を出ることを決意した。

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