第1章12話:出発

アルヴィケルが相手でも勝てる――――とは言ったものの。


実際は、戦わなくて済むなら、それに越したことはない。


だから、島を出る日取りを熟慮し……


アルヴィケルが近海にいないであろう日を狙って、出発することにした。





半月後。


日の強い夏のある日。


朝。


いよいよ出発の日だ。


アリスティの衣服は、いつもの庶民服ではなく。


胸と腰を覆う布服。


ラフな格好だ。


今回の旅では水中で戦う可能性もある。


ならば、こういう泳ぎやすく、動きやすい格好のほうがいいという判断であった。


「……」


海を見つめる。


波は穏やかであった。


海面は凪いでおり、とても澄んでいる。


綺麗な海である。


アリスティは砂浜のイカダを持ち上げて。


海に投げた。


イカダが、海に浮かぶ。


イカダの上に、かいを乗せる。


食事を入れた袋。


それから、石の短剣も乗せた。


「それでは、行ってきます」


アリスティが告げると、ユーナが答えた。


「ええ。いってらっしゃい。絶対、無事に帰ってきなさいよ」


「はい。私が戻るまで、お母さんをよろしくお願いします」


「任せて」


アリスティは海に入り、途中まで、手でイカダを漕ぐ。


途中からは、アリスティもイカダに乗り込んだ。


「よし」


イカダが順調に波に乗って、海を進み始める。


少しずつ。


少しずつ。


島を離れていく。


ある程度、沖に進んだところで、アリスティは、ミユテ島を振り返った。


砂浜では、ずっと、ユーナがこちらを見守っていた。


アリスティは手を振る。


ユーナが、手を振り返した。


アリスティは、小さくつぶやいた。


「……今まで、お世話になりました。少しの間だけ、さようなら」


これを今生の別れにするつもりなんか、ない。


絶対に、大陸に辿り着いて。


医者を連れ、母やユーナを迎えに来るのだ。


そう、固く心に誓い……アリスティは前を向く。


もう島を振り返ることはなく。


前だけを向いて、イカダを進めた。

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