第1章10話:アリスティの想い
そのとき、アリスティは言った。
「私は、お母さんのことだけじゃなくて、ユーナのことも助けたいんです」
「……!?」
ユーナは、アリスティの言葉に、目を見開く。
アリスティが続けて告げる。
「ユーナは、島の外に帰りたいと、ずっと願ってきましたよね」
ユーナが、外の世界について語るとき。
寂しそうな、諦めたような顔をする。
表向きは平静を装っていても、心の底では、帰りたいのだ。
望んでこの島に流れ着いたわけではないのだから、当然のことだと思う。
「だから私が、ユーナを連れ出してあげますよ。大陸から、お母さんを治せる医者を連れて、大きな船で、迎えに来ます」
「そんなの……できっこないわ」
ユーナがうつむいて、そうつぶやく。
「ユーナ」
アリスティが、強く、その名を呼ぶ。
伝えたい想いがあった。
その想いを、アリスティは口にする。
「ユーナも、お母さんも、ずっと今まで、私の前で弱音は吐かなかったですよね。島から出られなくても、明るく振る舞っていました。私が、島の暮らしを窮屈に思わないように、暗い気持ちを見せないようにしてくれたんですよね?」
「……」
「そのおかげで私は、ゆがむこともなく、笑顔で育つことができました。それは、ユーナとお母さんのおかげなんですよ」
アリスティは、思うのだ。
もしもユーナと母が、己の運命を呪うような顔で、毎日の生活を送っていたら。
もしも、そんな彼女たちの背中を見て、自分が育っていたら。
きっと自分はまともではいられなかった。
ゆがんでいたと思う。
だからアリスティは、確信する。
自分がこの島で、正しい呼吸をしていられるのは、ユーナと母のおかげなのだと。
「だから、恩返しがしたいんです。ユーナとお母さんに、私ができる最大限のお礼をしたいんです。それは、きっと、あなたたち二人を、島から大陸へと連れ帰ることだと思います」
ユーナと母が、この島で生きるのを余儀なくされたこと――――
それはいったい、どれほどの絶望だっただろう?
その絶望を覆い隠し、笑って、気の遠くなる年月を島で生きてきた。
でも、もう終わらせてあげるべきだろう。
自分が、二人を解放させてやるのだ。
それがアリスティにできる、最大の恩返しだと信じている。
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