第1章9話:魔力病

最初、母は高熱でうなされていた。


しかしアリスティたちの看病の末、容態がいったん落ち着いた。


だが……身体に浮かんだ斑点は消えず。


10日~20日ほどの間隔を経て、また熱がぶり返す。


激しく咳き込んだり、苦しんだりする。


またアリスティたちが看病をする。


治まったと思ったら、間隔をあけて、熱が再発する。


そんなことを2ヶ月ほど繰り返した。







夕方……砂浜で、アリスティとユーナは二人きりになる。


「魔力病は……すぐに死ぬ病気じゃない」


ユーナは言った。


「でも治療しなかったら、病気が進行して、必ず死んでしまうわ」


「そんな……!」


アリスティは目を見開いた。


ユーナは告げる。


「死ぬまでの猶予は5年……ってところかな」


つまり、母の余命は、あと5年。


5年なんて長いようで、あっという間である。


「どうやって治療すればいいんですか!?」


アリスティは叫ぶように尋ねた。


ユーナは答える。


「魔力病は、不治の病じゃない。ちゃんと専門の医者に診てもらえれば、治療できるわ。でも……この島では不可能よ」


悔しそうに顔を覆うユーナ。


彼女は告げる。


「いつかは、こんな日が来るとわかってた。島ではロクな薬もない、医者もいない。病にかかったら、終わりだって……わかってたのに。どうしたらいいの? ミリアをこのまま、見殺しにするしかないの?」


誰にともなく問いかけるユーナ。


「……」


アリスティは、深く黙考した。


島に薬はない。


医者はいない。


ならどうするか?


決まっている。


(島の外に出るしかない……)


以前から、決めていたことではあった。


――――島の脱出。


それを、いよいよ実行するときが来たのかもしれない。


「ユーナ。私、島を出ます」


「……!?」


決然と宣言したアリスティ。


「私、島を出るために、この日まで頑張ってきました。今なら、脱出はできます」


アリスティの言葉に、ユーナが慌てふためく。


「あ、あなたが、島を出るために訓練していたことは知ってるわ。でも……無理よ! アルヴィケルはいまだに、近海をウロウロしているわよ!」


「それでも、出ます。アルヴィケルはなんとかします」


「なんとかって、どうするつもりなのよ?」


「殴打でも、槍投げでも、なんでもいいので、とにかく攻撃して倒します。今の私は、水中でも戦えますし」


「そんな……無茶よ」


机上の空論ですらない、勢い任せであると、ユーナは感じた。


アルヴィケルは、地上で戦っても、竜ほどに強力な魔物だろう。


しかし、アルヴィケルは海の魔物。


地上の生物とは桁違いに厄介である。


人間が倒せるような魔物だとは思えない。

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