第1章5話:島での生活

一方、母からは、生活に必要な知識を教わった。


たとえば。


島には、塩草しおくさ砂糖草さとうぐさと呼ばれる植物がそこらじゅうに生えている。


これらは水に漬けて熱すると、食塩水・砂糖水に変化する。


塩と砂糖が取り放題というわけだ!


ただし。


「人間は、生きていくために塩と糖を摂らなければいけません」


母は言った。


「しかし、塩草・砂糖草から取れる塩や糖は、人間の栄養にはなりえません。それらの栄養は、別の物から摂取しなければならないのです」


「別の物、ですか?」


「はい。塩については、海水から取れた塩を使います。糖については、このパタパタイモを食べておけば大丈夫です」


「パタパタイモ! いつもご飯の時に出てますよね」


パタパタイモ。


楕円形だえんけいで、もっさりとした味わいのイモである。


甘味があって美味しい。


「はい。パタパタイモは、島のあちこちで採取できます。種をまいておけば、繁殖力が高いので、自然に再生します」


「種まきが必要なんですか?」


「必要です。アリスティ、覚えておきなさい。島の資源は、摂りすぎてはいけません。島の恵みを受け続けられるように、適度に採取することが肝要です。そして、種を植えて、新しい芽も育てるようにしなさい。そうすれば、来年も、再来年も、美味しいごはんを食べられますから」


母は、とても大事なことを言っているのだと、アリスティは思った。


だからアリスティは、今の言葉を、しかと脳に刻みつけた。


「まあ、無限に湧いてくる魔物だけは、例外ですけどね」


と、母は補足するのだった。







それからしばらくの期間、ユーナのもとで、アリスティは修行をおこなった。


内容は、筋トレと戦闘訓練。


身体強化魔法のトレーニングだ。


母からは生活に関する知恵を教わる。


腹を壊さないように生水を濾過ろかする方法や、海水から塩を作る方法など……さまざまな知識を学んだ。




10歳になる。


その日、アリスティはユーナとともに墓参りをおこなった。


【訓練場】の端にある岩壁をぐるりと回ると……


その岩壁の裏手に、一つの墓標ぼひょうがある。


石で作った墓。


アリスティの父テュードの墓である。


土の上につきたてるようにして、墓標が立っている。


この世界は、みんなが長寿なので、毎年のように墓参りをおこなわない。


この墓参りも、5~10年に1度ぐらいの頻度でおこなっている。


「……」


ユーナが膝をついて、テュードの墓へと祈りを捧げる。


アリスティも静かに黙祷もくとうした。

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