第1章3話:素質

その後。


数々の体力テストをおこなった。


パンチだけでなくキックのテスト。


素早く移動するスピード測定のテスト。


真上に跳んでジャンプ力を測るテスト。


どのテストにおいても、アリスティは、常識外れの結果をたたき出した。


ユーナは逐一ちくいち、その能力の高さに驚かされた。


(だけど……惜しいわ)


アリスティの華々しい才能を目の当たりにして。


ユーナは、しかし、そう思っていた。


(あたしたちは、島から出られない。こんなにもアリスティの才能は素晴らしいのに……世に知られることはない)


ミユテ島は、絶海の孤島だ。


脱出する手段がない。


いや、あったとしても……


"ヤツ"に阻まれる。


だから……出られない。


牢獄なのだ、この島は。


(でも、もしアリスティが外に出ることができたら……)


そのときは、きっと。


誰もが、アリスティの才能を認めるに違いない。


それだけの素質が、彼女にはあると、ユーナは確信していた。






体力テストが終了する。


「お疲れさま。よく頑張ったわね」


ユーナが、アリスティの頭を撫でた。


アリスティは、嬉しそうに頬をゆるめる。


ユーナは言った。


「それじゃあ、今日は帰りましょうか」


「はい」


ユーナが歩き出して、アリスティが後に続く。


掘っ立て小屋に戻った。


母が尋ねた。


「ユーナ。アリスティの体力テストはどうでした?」


「端的に言って、アリスティは天才だったわ」


「まあ、そうなのですか?」


「ええ」


ユーナは、体力テストの結果について、母に説明した。


「――――というわけで、アリスティには【戦士】の適性がある。しかも、並みの戦士ではなく、歴戦の猛者もさにもなれる素質よ。全ての能力において、圧倒的なセンスを秘めているわ」


「あなたがそこまで絶賛するなんて……よほどアリスティには、光るものがあるのですね」


アリスティは、褒めちぎられて、顔を熱くしてしまう。


そんなアリスティの頭を、母は優しく撫でた。


「この島で生きていくために、戦う力は必須です。これから頑張りなさい、アリスティ」


「はい、お母さん」


アリスティはそう答える。


母は優しく微笑んだ。

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