第36話 サスラの元へ

 俺たちはサスラの元へ確実に進んでいる。軍団の数を減らしながらも、確実に目的地へと近づいている。


 現在、軍団の数は三十といったところ。これが人間と人間の戦争ならば、すでに撤退しなければいけない程度には数を減らしている。しかし、これはサスラというモンスターを討伐するための戦いだ。目的のモンスターを倒すまで戦いは終わらない。そうでなければ全滅しかない。俺たちはVRDを使って戦っているのだ。実際に死ぬわけではない。


「やられることを恐れるな! 死ぬわけじゃない!」

「「「おおおー!」」」


 軍団の士気は高い。皆、やられても死ぬわけではないと分かってる。だから味方がどれだけやられても士気が下がることはない。それには、正直助かっている。


 皆、頑張っているんだ。俺も頑張らないと!


「神滅流胴の型――紅走!」


 ズバアッ!


 襲い来るモンスターたちをまとめて切り払う。俺の剣技にリスナーたちからのコメントも賑わう。


:うおおおおおおお!

:やっぱり師匠は強いな

:師匠に斬れないものは無い!

:サスラの元まで行けるか!?

:他の探索者も負けてないぞ


 コメントの誰かが言った通り、他の探索者たちも俺の活躍に負けていない。


「行きますよ! デイジー!」

「了解デス! マリナ!」


 ズババババッ!


 最前線では俺のように、マリナとデイジーの二人がモンスター相手に剣技を見せていた。すでに彼女たちは神滅流剣術の基礎をマスターしている。一体のモンスターがデイジーの側面から迫る。


「フッ!」


 デイジーはモンスターの攻撃を瞬歩で回避。そのタイミングでマリナも瞬歩を使う。次の瞬間にはマリナの刀が敵の体を切り裂いていた。


「大丈夫ですか!? マリナ!」

「マダマダ余裕デース」


 あの二人は心配しなくても大丈夫だろう。そして、最前線で活躍しているのは俺や彼女たちだけではない。


「うおおおおおおおお! さっきは助けられたが、この新型の力を見せてやる!」


 ドガアアアアアアアアアアアン!


 全長四メートルはあろうかという巨大なロボット型のVRDがモンスターの群れをなぎ倒していく。始めはいまいちの活躍だったモクギリも今は奮戦していた。もしかすると彼はスロースターターなのかもしれない。


 最前線で活躍する俺たちを援護してくれるVRDも居る。マリーは六つの腕を使い、援護の居る場所へ的確に銃弾を撃ち込んでいた。


「ほらほらほら! 皆さん! もっと頑張りなさい!」


 バキュキュキュキュキュキュン!


 彼女の銃さばきは凄まじい。俺とは別方向で、彼女もまた達人なのだろう。剣と銃とで分野は違うが、彼女の確かな実力を感じることができる。


 銃を使う探索者はマリーだけではない。むしろ、多くの探索者は銃を好んで使う。後方から俺たちを支援するリンドウも、その一人だ。


「僕もツルギ君には負けてられないな!」

「それが分かっているのなら、もっと頑張りましょうねぇ! ヨツバ様も頑張っているのですからぁ!」

「うん、頑張ってる! なんとかついていくのが精一杯だけど!」

「ヨツバさんが頑張ってるのはわかるけどさあ! 姉さん僕に当たりが強くない!?」


 バキュン! バキュン! バキュン!


 後方に居る彼らの会話もVRDの機能で拾っている。それにしてもリンドウやリリが活躍しているのは分かるが、ヨツバもよくついてきているな。それだけリリの指導が良かったということだろうか。


:皆頑張れ!

:頑張ってください

:負けるな

:師匠たちなら勝てるよ!

:応援してるぞ


 多くのリスナーが俺たちを応援している。その思いに応えなければ!


 俺たちの軍団は数を減らしながらも、モンスターの群れを倒しながら目的地へ近づいて行く。


 そして。


「師匠、もう少しで黒くてでかい奴と戦闘ですよ!」

「ああ、分かってる」


 出発した時から半分ほどに数を減らしながらも、俺たちの軍団は超大型の黒竜、サスラのすぐ近くまで来ていた。


:うお、でっけえ

:二十メートルはあるか?

:こんなでかいモンスター見たことない

:これ倒せるのか?

:それでも師匠なら! 師匠ならやってくれる!


 サスラの体表からは次々に黒いトカゲが生まれている。このトカゲたちの相手をしつつ、サスラも倒す必要がある。そのことを考えながら、俺は内心わくわくしていた。


 あの黒竜はこれまで戦ってきたモンスターよりもさらに強いと聞いている。俺の剣技がどこまで通用するか、それを試すために申し分のない敵だ。あの黒い竜は、きっと俺に斬られるためにここまでやって来たのだ。不思議と、そう思ってしまった。


 黒竜は、こちらの存在には気づいているだろう。それでも未だに大きな動きを見せないのは強者であることからくる余裕か。面白い。その余裕を崩し、お前を切り倒してやるぞ。


「あの巨体に臆するな! 形があるのなら壊すことができる! 命があるのなら殺すことができるからだ!」

「「「うおおおおおおおおおおお!」」」


 軍団の士気は高い。ならば、黒竜が生み出すモンスターの群れにも遅れをとらないはずだ。考えながら、進軍を阻むトカゲたちを切り伏せていく。


 黒いトカゲの群れを倒しながら、始めにサスラへ攻撃をしたのはモクギリだった。彼のVRDが背負っていたバズーカを手にとり、その砲身をサスラへ向けた。全長四メートルのVRDが使うために製作された専用のバズーカ。その一撃は強力なはずだ。


「くらえやあっ!」


 モクギリの叫びと共にバズーカの弾が放たれる。その弾は、今もトカゲを生み出し続けるサスラの体表へ直撃した。爆炎が発生する。


:やったか!?

:凄い爆炎

:これはダメージ入っただろ!

:やったか

:生物なら殺せるはずだ


 だが、リスナーたちの期待通りにはならなかった。その爆炎は多くの黒いトカゲたちを消し炭にしたが、サスラにはダメージを与えたようには見えない。影のように黒いサスラの体表は、傷を負っているようには見えなかった。


「そ、そんな!?」


 モクギリの愕然とする声が届いた。軍団の士気が下がっていくのを感じる。


 サスラ、聞いていた以上の防御力かもしれない。だが、俺の剣も防ぐことができるかな。


 俺は刀を大きく振りかぶるように構え、地面を強く踏みしめた。そして、全力で刀を振りぬく。


「神滅流風の型――大紅風!」


 大きな風の刃が黒い巨体へ迫り。


 ズバアァ!


 その一撃はサスラの体に深い傷を与える。なんだ、斬れるじゃないか。


 今の一撃が致命傷になったかは分からないが、あのモンスターは殺せない敵ではないぞ。

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