第35話 マリナの成長

 黒いトカゲたちに倒されていくモンスターたちが居る他に、拮抗した戦いを見せる者や、トカゲたちを返り討ちにする者も見られた。同種のモンスターの中でも個体差が存在するということだろう。


「こちらに攻撃してくるモンスターのみを相手にしろ。目的はサスラの討伐だ」


:サスラ!?

:サスラってなんだ?

:新種のモンスターかな

:この黒いトカゲたちはそのサスラってやつの仕業なのか?

:わからん。なんもわからん


 ブレインズ社からの話では、サスラは巨大な黒い翼竜の姿をしたモンスターだと聞いている。マリーとサスラとの戦闘データは俺も共有しているが、どうにも非常に硬い皮膚を持ち、体表から次々にモンスターを生み出すのだとか。大きな翼はあるが、飛行することはできないそうで、それはなんだか生物として不完全なデザインをしているように思えた。


 そんなことを考えながらも、次々に迫る黒いトカゲたちを切り倒していく。このトカゲたちの親玉はサスラであるはずだ。できれば消耗を押さえつつサスラの元へ到達したい。


:師匠強い!

:まじでこれ戦争みたいな絵面になってるな

:お、おれも加勢したいぞ!

:今、第三層へのゲートはダンジョン管理局に閉鎖されてるな

:てかこの戦いに参加してない上位ランカーたちはなにしてんだよ

:様子見か、そうでなければ漁夫の利を狙ってるのかもな


 まだ、俺たちの軍団から脱落者は出ていない。だが、消耗はしているはずだ。俺はこの程度の相手ならば、いくらでも戦えるが。


「補助システム。広範囲センサーを頼む。サスラを探すんだ」

『了解、スキャン開始』


 VRDに搭載された補助システムの広範囲スキャン。結果はすぐに表示される。


『特大のモンスター反応を感知。マップに表示します』

「助かる」


 視界に表示されたマップにピンが置かれる。確認しながら、俺の目は前方から迫る巨大な姿も見ていた。あれは、バジリスク。以前見たものより大きく、六メートルはありそうだ。さらに、地下から迫って来る気配を感じる。おそらくは八メートル級。こいつは……ロックドラゴンか!?


 どちらを先に対処する!? 逡巡し、地下から迫る敵を先に叩こうと決めた。


 バジリスクがトカゲたちをなぎ倒しながら突進してくる中、俺は叫ぶように号令を飛ばす。


「前方のバジリスクを迎え打て! 地下からの敵に注意しろ!」

「地下!?」


 誰かが困惑したように叫んだ。俺はその声に答える。


「地下からの敵は俺が相手をする!」


 直後、俺たちの足元が割れ、地面から巨大なモンスターが現れた。八メートルはあろうかという巨大な身体。しかし、それはロックドラゴンではない。ぶよぶよとした身体は見る者に嫌悪感を与える。ぬめりけを持った芋虫のようなモンスター。


:うおおおおおお!

:なんかでたあ!

:バジリスクだけじゃないのかよ

:何人も吹っ飛ばされたぞ

:うへえ。気持ち悪いモンスターだ


「補助システム。あの芋虫のデータをくれ」

『了解。データ参照。ヌメルワームです』

「ヌメルワームか。まんまだな」


 俺と補助システムが話をしていた時、大きな激突音がした。バジリスクが前衛部隊とが、ぶつかったようだ。相手をしているのは四メートル級の巨大VRD。モクギリか。


「こっちは俺に任せろお!」


 モクギリが叫んでいる。あちらはあいつに任せ、俺はヌメルワームを倒すことに意識を向ける。


「神滅流風の型――紅風!」


 ザンッ!


 風の刃がヌメルワームに直撃する。巨大な芋虫の体が切断され、ぬめりけのある液体が周囲に飛び散った。芋虫本隊は黒い灰になって消えていくのだが、困ったことに液体が残される。ぬめりけのある液体だ。それはVRDの動きを阻害する効果を持つ。


「う、うお!?」

「しまった!?」

「うごけねえ!?」


 回避の難しいものではなかっただろうに。何体かのVRDに液体が直撃し、まともに動けない状態になってしまった。補助システムからの情報を見るに、助けるには結構な時間がかかる。今、彼らを助けている余裕はないな。


 ヌメルワームの奇襲を受けてやられた探索者も何人かいる。十人ほど脱落したようだ。


「すぐに戦列を立て直せ!」


 崩れた戦列へ次々に黒いトカゲたちが襲いかかる。そこへ俺が割って入った。


「トカゲたちの相手は俺がする! すぐに戦列を立て直すんだ!」


 そんな風に、俺が何度もしつこく同じことを叫んでいた時、少し離れた位置から、何かが倒れるように大きな音が鳴った。そちらに目を向けるとモクギリがバジリスクに押し倒されていた。デカいなりをしてバジリスク相手に力負けか。すぐにあちらの援護にも回らなければ、しかし、こちらの状況を立て直すにも時間がかかる。


 俺が悩み、トカゲたちを斬っている間も状況は動く。押し倒されたモクギリへ追撃を与えようとするバジリスクに飛びかかるものが居た――マリナだ。


「やああああああああ!」


 マリナはバジリスクの目へ刀を突き刺す。あれは――神滅流突の型――紅針!


 バジリスクの瞳から血が噴き出す。だが、浅い! バジリスクがマリナへ反撃する――かに思われた時、その巨体が動きを止めた。よくみると、その巨体にいくつものワイヤーが絡みついている。複数のワイヤーを、バジリスクの背に立つデイジーが制御していた。


「マリナ! とどめを!」

「はい!」


 デイジーの叫びに答えるようにマリナは刀を持つ手に力を込めた。彼女の刀が血を流す大きな瞳に、より深く刺さっていく。バジリスクの巨体がぶるりと震えて、モクギリの上にのしかかるように倒れて動かなくなった。それはほどなくして黒い灰に変わっていった。


 こちらも丁度、戦列を立て直した。それにしても、マリナ。成長したな!


:うおおおおマリナちゃんうおおおおおお!

:やったぜ!

:でもだいぶ探索者がやられたぞ

:ともかくマリナちゃんの勝利だ!

:デイジーちゃんもかっこよかったよ!


 探索者は何人もやられたが、ここから立て直す。それに、今のマリナやデイジーなら、この辺りに生息するモンスターたちや、黒いトカゲたちにも遅れをとらないだろう。


「敵はすぐに迫って来るぞ。戦列を立て直したら、すぐに前進だ。サスラを倒さない限り、黒いモンスターは次々にやって来るぞ! 俺たちでモンスターの群れを押し返し、打ち倒すんだ!」

「「「うおおおおおおお!」」」


 まだまだ戦は始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る