第34話 第三層の荒れ地へ

 第三層での作戦が始まる少し前、俺たちはカラスマさんの工房に集まっていた。そこにはカラスマさんの他、俺たちのパーティー。そしてリンドウの姿があった。以前カラスマさんが言っていた協力者というのはリンドウのことのようだ。


 そして、工房にはいくつものウインドウ画面が浮いていた。彼らは今回の俺たちの作戦に参加するメンバーだ。カラスマさんが声を書けていた者も居るし、ブレインズ社からの参加者も居る。そんなメンバーが集まり、簡単なブリーフィングが行われた。


 ブリーフィングが終わり、俺たちは第三層へ移動する。


 第三基地のゲートが開き、やってきた第三層は荒れ地、というのが適切な環境だった。草の一本も生えておらず、乾いた土地が続いている。足場はこれまでの層に比べると広く感じるが、場所によっては落下の可能性もある。また、上を向けば、空ではなく深い森が広がっている。そんな場所だった。


 俺たちの後ろに続いてくる人形が多く居た。マリーやリンドウの他、知らない人形たち、補助システムに数えてもらったところ、五十体の人形がここに居るようだ。ちょっとした軍団だな。


 そんな人形たちの中で特に目立つ人形が居た。全長四メートルほど、ダンジョン管理局が所有する大型のVRDだ。操るのはAランク十位のモクギリだそうで、いつも彼が使う物よりも、かなり強力なVRDだという。管理局は最新の実験機を投入してきたし、ここに集まった以上の戦力を用意することはなかなか難しいのではないだろうか。


 そんなことを考えていると俺の横にリンドウが立った。


「ツルギ君。緊張してるかい?」

「まさか」

「そうだよね。でも僕は緊張してる。それにリリ姉さんと一緒に戦うことになるなんて、なんだかなあ。まさか君たちのパーティーに姉さんが居るとは思わなかったよ」


 肩をすくめるリンドウ。彼とリリの関係はよく分からないが、大変そうだ。などと思っていると彼の肩に手が置かれた。彼はびっくりしたように身を震わせる。


「あら、お姉ちゃんと一緒だと、何が嫌なのかなぁ?」

「ひっ!」


 リンドウの肩に手を置いたのはリリだ。彼女は俺に笑いかけ、言う。


「この子、私が銃の扱いを教えたら調子に乗っちゃってぇ、だから、ちょっと分からせた過去があるんですよぉ。あ、ヨツバ様は素直だし、彼女には余計なことはしてませんから、安心してくださいねぇ」


 リンドウにもやんちゃな時期があったということかな。そんな彼と姉は軍団の後方へと下がっていく。


「ほら、私たちは狙撃舞台ですからねぇ。後ろに行きましょうねぇ。可愛いヨツバ様も待ってますからねぇ」

「分かった。分かったよ。行くよぉ」


 彼らの姿はすぐに見えなくなった。


 さて、この軍団を率いるように任されているのは俺だ。俺は人形たちの前に立ち、なるべくはっきりとした声で言う。


「今回の作戦を任せられたツルギだ。まずは目的のポイントへ向かう。行くぞ!」

「「「おおおー!」」」


 いくつもの咆哮が上がる。圧巻だな。


 ちなみに今回の作戦、三つのカメラで配信されている。一つは軍団の先頭を進んで行く俺の撮影ドローン。一つは軍団の上空を飛ぶブレインズ社の撮影ドローン。そして最後の一つは軍団の後方を飛ぶカラスマさんの撮影ドローンだ。その他、今回の戦いの記録を撮るために、カラスマさんや、ダンジョン管理局が所有する何機ものドローンが飛んでいるが、それらは撮影をするだけで配信はしていない。


:うおーツルギ師匠の配信だー!

:なんかすごいことになってるな

:ツルギ師匠とブレインズ社とダンジョン管理局の合同作戦だってさ

:まじやばくね?

:なんか第三層が大変なことになってるらしいな


 軍団の進行が始まる。ほどなくして、前方にモンスターたちの姿を確認できた。だが、これは……数が多いな?


 前方から迫るのは二メートルはあろうかという大きさの黒いトカゲたち。あそこまで大きいと竜、というべきなのかもしれない。それらの数は百はあるだろうか。


「補助システム。第三層とは、こんなにもモンスターが多いものなのか」

『いいえ、異常な数かと思われます』

「なるほど」


 俺と補助システムがやり取りをしている間にもトカゲたちは迫って来るし、コメントは高速で流れていく。


:すげえ数のモンスターだ!

:てか何あのモンスター。誰か知ってる?

:新種っぽいよな

:ともあれ荒稼ぎのチャンスだぜ!

:やっちまえー!


「戦闘開始、前衛のVRDはトカゲたちを迎撃だ!」

「「「おおー!」」」


 そして始まる戦闘。俺たちの軍団のうち前衛のVRDはニ十体ほど。その中でも特に活躍を見せたのは……俺だった。


「神滅流舞の型――斬斬舞!」


 ズババババッ!


:舞うように斬ってるな

:う、美しい……はっ!

:やったれ師匠!

:軍団を率いてても活躍するのはやっぱり師匠なんだわ

:ツルギ最強! ツルギ最強! ツルギしか勝たん!


 そして俺に続けと言わんばかりにマリナやデイジーも活躍している。マリーやモクギリも活躍しているようだが、俺の二人の弟子だって活躍の度合いでは負けていない。


:なんだあのデカブツと多腕のお姉さん!?

:マリナちゃんとデイジーちゃんも負けてないぜ!

:マリナちゃん強くなったなあ

:マナさん頑張ってください!

:やったれやったれ!


 リスナーたちも応援してくれている。なら、頑張らないとなあ!


 ズババババッ!


 高速でモンスターの群れを切り裂き、黒いトカゲたちは全滅した。後には、いくつものクリスタルが残される。その回周は後方部隊の役目だ。


 戦闘の状況、戦闘後の被害などはリアルタイムで俺の視界に届いている。あちこちに目を動かす必要があって忙しい。だが、処理可能な範囲だ。


「こちらの被害は出ていない! 警戒をしつつ進むぞ!」


 俺たち前衛部隊は慎重に、警戒をしつつ前へ。進んでいるうちに異常な事態に気付いた。


 第三層のいたるところに黒いトカゲたちの姿を見ることができる。そして、そのトカゲたちは第三層に元々生息していたであろうモンスターたちを攻撃していた。黒いトカゲの何倍もの大きさの体を持つモンスターたちが、数の暴力によって倒されていく。倒されていくモンスターたちの中には、いつか戦ったことのあるモンスター、バジリスクの姿も見てとれた。


 これは……想像していた以上に大変なことになっているな。

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