第17話 映像を組み立てて

「全探索者の中で二番目の座か」

「どうだい? 悪い条件ではないと思うよ」


 リンドウの口から出てきた条件。まあ、悪い条件ではないんだろうが。そうだな。


「その話……断る。俺を雇いたいなら一番の座を用意するんだな」

「大きく出たね。とはいえ、ツルギ君の実力ならそれでも驚かないよ。君は僕が知る限りでは最強の探索者だ」

「最強か。そうなりたいとは、いつも思ってる」

「ま、良いよ。君が断るというのなら、その通りに伝えよう。ただ、一応これも管理局に頼まれていることでね。君に興味を持ってる企業の説明も簡単にしておくよ」


 そう言ってリンドウはその企業について簡単に説明してくれた。社名は【ブレインズ】VRDの開発を衝動しているところだそうだ。他にも色々と教えてもらったが、興味が無いからなのか、あまり頭に入ってこなかった。


「……と、そんな感じの企業だけど、話を聞いてやっぱり興味が出てきたりしたかな?」

「いや、まったく」

「そうかい。ならば今度こそ僕の役目は終わりだ」


 リンドウは肩をすくめ「でもついでだから」といって残りのAR食品を食べていた。


「……ふぅ。では、僕はそろそろ行くよ。ツルギ君とは、また近いうちに合うことだろう。その時はよろしく」


 リンドウは席を立ち、最後に「じゃあ」と言って出ていった。後には俺一人が残される。


 とりあえず、俺も目の前のハンバーガーを食べたら、ここを離れよう。デイジーたちと合流するのだ。


 その後、急いで六十六番ガレージへ行った。そこではデイジーとマリナが待っていた。


「師匠、無事でよかったです!」

「ツルギ、無事だったデスネ! 一安心デース!」


 ほっとしたような表情をした二人だが、俺が戦っていたところは映像で見ていたようだ。彼女たちの視界にも配信中は撮影中の映像が出ていたはずだからな。


 二人の顔からは安心したような感情と同時に、俺への憧れのようなものが感じられる。俺の勘違いで無ければ、だが。


「師匠、今回使ってた技、色々教えてください!」

「私も気になってたネー。かっこいい技の連続でしたヨー!」


 期待されているようで悪い気はしないが。


「二人にはまだ早い。まずは基礎が完璧にできるようになってからだ」

「ですよねー」

「道のりは険しいデース」


 俺の言葉に対し二人は明らかにがっかりしたようだった。とはいえ、二人とも文句を言ったりはしてこない。


「……二人がちゃんと神滅流の基礎技を完璧に習得したら、その時は発展技も教えよう。約束する」

「そうこなくちゃ! ですね」

「私も頑張るデス!」


 どうしようか。デイジーもマリナもやる気に満ちているし、まだ時間は沢山ある。


「やる気があるなら、稽古をするか?」

「良いですね。やりましょう。師匠」

「やりますヨー」

「分かった。やろう!」

「「はい!」」


 その日は夕方まで三人で稽古を重ねた。日が沈んでくる頃に稽古を終え、その後で俺はカラスマ工房へ向かった。いい加減、腕の調子を見てもらわなくては。


 工房を尋ねると、いつものようにカラスマさんが出てきた。今日も茶髪に赤のメッシュが似合っている。


「どうも、カラスマさん」

「お、英雄の登場だね。ツルギ君ネットで話題になってるわよ」

「へえ、そうなんですね」

「あれだけの活躍をしてたからさ。もしかしたらと思ってツルギ君のランクをダンジョン管理局の公開データから確認させてもらったよ。Aランク入りおめでとう! もう立派なトップ探索者だね!」


 そう言ってカラスマさんは力強くサムズアップした。彼女のそれを見るとなんだか嬉しい気持ちになった。


「ありがとうございます。で、今日もVRDの修理をお願いしたいんです」

「お安い御用よ。あ、ツルギ君。Aランク探索者になったなら、修理費は管理局から支払ってもらうことができるからね。任せてくれるなら私の方から管理局に手続きをしておくわ」

「じゃあ、それでお願いします」

「任された!」


 俺は工房の奥へ通され、修理は者の数分で終わった。念の為、全身の点検もしてもらったが、問題なし。腕意外に修理の必要はないようだった。


 修理が終わり、後は六十六番ガレージに戻って人形を格納スペースに入れれば良いのだが、そうだな……ちょっとカラスマさんに訊いてみるか。


「カラスマさん。人形の改造を頼むことはできますか? 今度は腕を改造しておきたいんです。あと、できれば全身のカラーリングとかも頼めたりしますか?」

「できるわよ。どうせなら飾りもつけちゃう?」

「飾りですか」

「色々あるのよ。例えば」


 カラスマさんが腕を振ると、そこに立体映像が出現した。どうなってるんだこれ!?


「凄いでしょう。店内なら、どこでも映像を出現んさせられるのよ」

「へえー」


 出現した映像をよく見てみると、それはVRDの体につける飾りパーツのようだった。単にかざりというだけでなく、ダンジョン探索に役立つ機能もついてくるようだ。


「ほお、こういう感じですか」

「他にもいろいろあるわよ。せっかくだし、ツルギ君だけのオリジナル機体を設計しよう」

「設計ですか?」

「設計だけよ。別にそれを作れとは言わない。設計だけならお金もとらない」


 本当だろうな。カラスマさんのことは信頼してるけど、一応警戒はするぞ。


「……ふふっ警戒するのは分かるけど、これは私がやりたいから一緒にやろうって誘ってるだけ、もちろんツルギ君がやらないって言うなら、やらないわ」


 彼女はいたずらっぽく笑った。まったく、この人には敵わないな。


「分かりました。設計してみましょう」

「そうこなくちゃ! だね!」


 さっきのマリナみたいな反応。ただ、あっちは可愛いって感じだけど。こっちは美しいって感じがする。


 そうして俺が選び、カラスマさんが立体映像を動かして、人形の映像を組み立てていく。


「こっちのパーツはどう?」

「いや、俺的にはこっちのほうが好きですかね」


 映像を組み立てていき、それが完成に近づくほど、楽しい気持ちが高まっていく。


 そして……気付いた時には夜も遅い時間になっていた。だが、時間をかけた甲斐があり、人形の映像も完成。それは鎧武者とロボットが融合したような、そんな見た目をしていた。


「完成、ですね」

「ええ、完成させた感想は?」

「正直、これめちゃくちゃ実際に組みたいです」


 なんというか少年心を刺激されてしまった。この映像のVRDを実際に使ってみたい。強くそう思わされてしまった。


 これがカラスマさんの狙い通りなのだとしたら、本当に彼女には敵わない。

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