第16話 狙撃王リンドウ
「ツルギ君。君はまだここについて知らないことばかりのようだ。なら、僕が教えてあげよう」
親切心で話しているのだろうが、別にリンドウから教えられなくてもマリナあたりに訊けば分かりそうなんだよな。とはいえ、彼の親切を断ったらもっと落ち込むだろう。彼は今も地面に両手両ひざをつけているし、あまり落ち込ませるのは気分が良くないな。
「分かった。教えてくれ。とはいえ、こんなところで立ち話もなんだろう」
俺の言葉を聞いて、リンドウは明らかに嬉しそうな様子で立ち上がる。
「ならば移動しよう。良い店を知っているんだ」
「ふむ」
良い場所か。前に行ったARレストランのような場所だろうか。腕の調子は良くは無いが、食事をするのに支障はないだろう。断る理由は無いかな。デイジーたちは無事に逃げてたはずだし、後で合流しよう。
「よし、ならばお前たち! ここの調査は任せたぞ! 僕はツルギ君と話があるからね」
「「「はい!」」」
リンドウは周りに立つ騎士甲冑たちに指示を出す。様子を見るに彼らはリンドウの部下……のような存在だろうか。対等な感じには見えない。
「ではツルギ君。行こうか」
「……彼らは君の部下なのか?」
「部下、というよりは弟子だね。君と配信仲間の子たちの関係に近い。先にも紹介したが、僕は狙撃の王、その腕には自信があるのだよ」
「狙撃か……そういえば、リリも狙撃が得意なんだろうか」
ふと思い出した爆乳メイドの名を口にすると、リンドウが明らかにうろたえるのが分かった。え、どうしたんだ?
「ね、姉さんのことを知っているのかい?」
「リリのことか。名前に思い当たるところがあるのか」
「いや……同名の別人だろう。まさかね……ははは」
そう言って平気に見せようとしているリンドウだが、明らかに動揺を隠せていない。彼とリリの関係については気になるが、訊けばもっと話がややこしくなりそうだ。すぐには話題に出さないようにしよう。
「とりあえず移動しないか。リンドウ」
「あ、ああ。そうだね。ははは」
俺たちはその場を離れ、第二基地へと移動する。そして、基地の中を進むこと十分ほど、到着したのは【ARバーガー】という店だった。いかにもチェーン店って感じがする。
「良いところってここか?」
想像してたのとは、ちょっと違った。だが、彼の実年齢を考えると違和感も薄れるかもしれない。声が低くて人形はごつい姿をしているけど、たしか高校生なんだよな。こいつ。
「ハンバーガーが嫌いな男子なんて居ない」
「そんなことは無いと思うが」
俺はハンバーガーは好きでも嫌いでもないが、肉が苦手な男子だっているだろうし、別にそうでなくてもハンバーガーが苦手な男子は世の中に居ると思うが。
「ハンバーガーが嫌いな男子なんて居ない!」
彼の持論ではそうではないらしい。まあ、どうでもいいか。
「分かった。店に入ろう」
「そうこなくては! ここのバーガーは美味いんだ!」
声からしてリンドウが嬉しそうにしているのが分かった。最初に会った印象より、彼はなんというか……ピュアなんだろうか? いや、まだなんとも言えないが。
店に入り、注文をして、すぐに出てきた円盤を受け取る。店内の様子は有名なバーガーチェーン店【M】にそっくりだ。
適当な席に座り、俺とリンドウは対面する。さて、どうしたものか。と考えていると、先に彼が話し始めた。
「ツルギ君。君には本題に入る前に、いくつか説明をしたほうが良いだろう」
「そうだな」
「だが、説明をする前に教えてほしい。君は探索者や、ランク制度や、ダンジョン管理局についてどの程度のことを知っているんだい?」
「知らん。その辺のことは何にも知らん」
「そ、そうか」
俺が円盤のスイッチを押すと、彼も同じように円盤のスイッチを押した。お互いの円盤の上にハンバーガーの立体映像が出現。俺は出てきた映像を一口食べてみる。可もなく不可もなく、そんな味だ。リンドウは強く進めるが、それほどのものとは感じない。こんな時は俺の人形に表情が無くて良かったと思う。
リンドウもバーガーの映像を一口食べた。表情はわからないのだが、彼の反応を見ると明らかに美味しそうにしているのが分かった。
「やはり、ここの料理は美味しい!」
「そうだな」
「と、失礼。あまりの美味しさに話が脱線するところだった」
彼は「では改めて」と言って続ける。
「まず探索者。これは単に僕らのようなダンジョンに潜る者たちのことだ」
「分かりやすいな」
「ダンジョンができた当初は、企業や政府は僕たちのような者たちのことを人形使いと呼んでいた。だが、今ではその名よりは探索者、と呼ぶのが一般的だね。誰かが言い出して、いつの間にか一般化していた」
とりあえず、これで疑問の一つは解決。
「次にランク制度。これはダンジョン管理局が僕たち探索者の活動を調べて、その者に見合ったランクを設定しているんだ」
「俺の活動も調べられてるのか?」
「その通り。管理局がダンジョン活動の配信を推奨しているのには、そういう理由もあるんだよ。ちなみに、高ランクであれば、管理局に申請すれば色々なサービスを受けられる。ここの食事が安くなったりね」
「ふむ。ちなみに俺のランクは今どのくらいなんだ?」
「君の今のランクかい? 補助システムに尋ねてみると良い」
彼の言葉には楽しそうな感情が読み取れた。やってみろと言うのなら、言われたとおりにやってみるか。別に何かが減るようなこともない。
「補助システム。今の俺のランクはどのくらいだ」
『了解。ユーザーのランクを参照します。データ照合――』
ほどなくして視界に、現在の俺自身のランクと思われるデータが表れた。
『Aランク九位』
なるほど、それが今の俺の順位ってわけだ。Aランクってのがどの程度かはわからないが、高くはあるのだろう。
「俺より強い奴が同じランクで、あと八人は居るってことか?」
「いや、僕はそうは思わない」
リンドウは首を振った。そして彼は映像の食品を円盤に置いて言う。
「ランキングの上位には、だいぶ……企業や政府の思惑が絡むんだ。僕はAランクの三位だけど、正直なところ君と戦っても勝てる気はしないな」
「なるほど。不正だらけのランキングってわけだ」
「そうだね。不正だらけのランキングだ」
彼は自嘲するように笑った。
「そんなランキングを設定しているダンジョン管理局だが、一応ダンジョン内での探索者の支援システムとしての役割は果たしている」
「ここまでの君の話は理解した。それで、君は俺に何の用があって来たんだ?」
俺の言葉に対し彼は「そうだね」と言って頷く。ここから先の話は重要なものだろうということは予想できた。
「君を、とある企業が欲しがっている。僕はダンジョン管理局に頼まれて、君をスカウトしに来たんだ」
そして、彼は付け加えるように、こう言った。
「その企業は君にAランク二位の座を約束している。現状の、全探索者の中で二番の座だよ」
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