第15話 ロックドラゴンを斬る
ロックドラゴンが現れた時、広範囲に地面が掘り返され、辺りには大小さまざまなサイズの岩が転がっている。また、ロックドラゴンの周囲は大穴になっていてまともな足場が無い。
一見、剣士には不利な状況にも見えるだろう。だが、地形が多少悪い程度で負けるような神滅流剣術ではない。
俺は刀を大きく振りかぶるようにして構える。足場を強く踏みしめ、もう動く必要を感じない。必殺の構えだ。
デイジーたちは、すでに逃走を開始している。この構えは背後の彼女たちを守るための構えでもある。
:刀じゃロックドラゴンに攻撃が届かないんじゃないか
:そもそも刀で殺せる相手なのか
:ツルギ師匠やっぱり逃げたほうが
:がんばってくれー!
:誰か増援は来ないのか!?
増援なんか必要ないさ。コメント欄の皆には心配は無用だと言っても良いが、ここは神滅流の技を見せるほうが早いだろう。
「行くぞ」
ロックドラゴンの見た目は岩が東洋の龍の形をとったようなもの。手に持った二つの玉は気になるが、弱点は首だろう。ならば首――首を狙う。
「神滅流風の型――紅風」
大振りに一撃を放った。斬撃をまとった風がロックドラゴンの首めがけて飛んでいく。風の刃だ。
ズバッ!
俺の一撃は狙い通りにロックドラゴンの首を跳ねた。宙を舞う首が黒い灰に変わった。これでモンスターを倒した――かに思えたが。
「む!?」
ロックドラゴンの首から下は今も灰にならず動いていた。これはいったいどういうことか。みるみるうちに切断面から新たな首が形成されていく。
:師匠の技は凄い! けど!
:ロックドラゴンが再生していく
:そいつの弱点は首じゃない!
:コアを狙うんだ!
:モンスターが反撃してくるぞ
周囲に散らばっていた岩が浮き上がり、ロックドラゴンの周りを旋回するように飛び始める。これは、相手の首を跳ねれば殺せると思い込んでいた俺のミスだ。だが、それならやり方を考えるだけだ。
「補助システム。ロックドラゴンのデータをくれ。弱点を知りたい」
『了解、データ参照、ロックドラゴンのデータを表示します』
補助システムが視界にロックドラゴンのデータを表示してくれた。それと同時に、浮遊していた岩が動き出す。いくつもの岩が俺を目指して飛んで来た。
そのように攻撃してくるのなら、こちらにもやりようがある。俺は再び刀を振りかぶり、今度は連続で刀を振る。
「神滅流風の型――紅連風」
ズババッ!
連続で風の刃を出現させて、飛来する岩を迎えうつ。斬撃が次々と岩を切断し、俺への攻撃を逸らしていく。
ロックドラゴンの攻撃を凌いでいるうちに補助システムからのデータに目を通す。あのモンスターの弱点は――両手の玉か! それがあの龍の体を構成するコアであり、同時に破壊することで、あいつは再生能力、そして命を失う!
:ツルギ師匠! 危ない!
:ロックドラゴンは岩を自由に操るぞ
:岩を斬っても、それだけじゃ足りないんだ!
:皆よくモンスターのこと知ってるな
:がんばれー!
切断した岩も、そうでない岩も、軌道を変えて俺に襲いかかってくる。全方位から俺を押し潰す気か。だがな、そんなもので俺を倒せると思うなよ。
「神滅流舞の型――昇舞」
ズババッ!
舞を踊るようにして、迫りくる数々の岩を切り刻む。同時に高く跳び上がり、俺は岩の包囲網から脱出した。
「カラスマさんのおかげでよく跳べる!」
高く跳び上がった俺にはロックドラゴンが持つ二つの球がよく見えている。全身に力を込めるための足場は無いが、これからあの二つの玉を壊すだけなら必要ない。
「神滅流風の型――紅連風」
ズババッ!
足場を踏み込んでいる時に比べると、放てる風の量も威力も落ちる。だけども! 先に首を跳ねた時の感覚からわかる。あのモンスターを斬るのに全力は必要ない!
バキバキイィ!
派手な音と共に二つの玉が破壊された。体を構成する二つのコアを失って岩石の龍は黒い灰へと変わっていく。
俺は荒れ放題の地面に着地した。勝つことはできたが、腕の調子が少し悪いか? 反応が鈍くなっている。腕の方もカラスマさんに見てもらわないとな。
龍は空中に飛び上がりもがいていたが、やがて頭の先まで灰に変わった。それからほどなくして、俺の元へクリスタルが落下してきた。キャッチしてみると、それはこの前見たゴールドゴーレムの物より大きく輝きも強かった。
:うおおおおお!
:すげええええええええ!
:師匠! 師匠!
:やったぞツルギ師匠の勝利だ!
:新しい技もいっぱいみられたし、ほんと凄いもの見たわ
その後もコメントが続き、スパチャも大量に送られてくる。まあ、今回の敵には神滅流の基礎技だけでなく発展技も使わされたからな。そこそこ強かったし、皆が盛り上がるのも分からないではない。
ともかくだ。これでロックドラゴンの討伐は完了だ。後でデイジーたちと合流しよう。
しばらくは多くの質問コメントに応えることになった。ほとんどの質問は、俺が新たに披露した技について。たまにロックドラゴンについて訊かれたが俺も先程出会ったばかりの相手なのだ。というか俺はダンジョンのことには詳しくない。その辺のことはマリナにでも訊いてほしい。
「……とりあえず、今日の配信はここまでだ。また、次の配信は来週になると思う」
:了解
:今日もツルギ師匠の伝説が増えてしまったな
:ロックドラゴン討伐は流石にやべーよ
:これ師匠の討伐者ランクめっちゃ上がるんじゃね?
:師匠最上位ランク入り間違いないだろ
ランクとはなんだ? 気になるが、ここでそのことを訊けば配信を終えるタイミングをしばらく失うだろう。後でマリナに教えてもらおうか。
配信を終了し、ドローンを背負う。そして、俺はさっきからこちらの様子を伺っている者に声をかけた。
「岩に隠れて見てなくてさ。顔を出したらどうだ?」
声をかけた方向から、複数の人形たちが現れた。同じような甲冑騎士の姿をした四体の人形。それぞれの手には、長い銃があった。銃のことはよく分からん。分かるのは見た目の特徴くらいだ。
「君と敵対するつもりはないんだ。我々はダンジョン管理局の者だよ」
低い声。俺よりずっと年上の、大人の男だろうか。
「僕は君にシンパシーを感じているんだ。たぶん君は若いだろう。僕は、これでもまだ、高校に通っているんだよ」
大人かと思ったら高校生だった。もしかしたら同学年かもしれない。などと考えていると、彼は胸に手を当てて高らかに名乗った。
「僕はAランク探索者にして天才ルーキー。人呼んで狙撃王リンドウ! 君も知っているだろう?」
知らねえ! というかAランクとか、探索者とか、なんだよ。
「知らん。リンドウって名前も、ランクも、探索者も知らん。誰なんだあんたいったい」
「えぇ!?」
思ったままを言ったのだが、リンドウはめっちゃ凹んで地面に両手をついていた。
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