第14話 鍛錬の成果

 日曜日。


 第一層のゴーレム出現エリアで配信を始める。もう慣れたものだ。


 配信には早速リスナーたちが来場し、コメントがついていく。


:ツルギ師匠の配信キター

:師匠、お待ちしておりました

:今日も来たぜ

:今日は何を斬るんです?

:そこは第一層か。まだ第二層には行かないんだな


「よし、映ってるな。では、新滅流講座配信を始めていくぞ」


 今日の配信は俺とマリナ、デイジーで行う。今頃ヨツバはリリに銃の扱いを習っているだろう。


「今日もマリナが配信に来てくれている。それともう一人、配信に出てきてくれる女の子がいるんだ。二人とも、来てくれ」


 配信画面に青いメッシュの少女と黄色い女ヒーローが現れ、コメント欄も盛り上がる。


:マリナちゃんだー

:隣の女の子? 女の子誰?

:うおっでっか

:二人ともでかい

:マリナちゃん今日も可愛いねー


「どうも! マリナです!」

「ドウモ! デイジーデース!」


:二人とも元気!

:隣の子外国の人?

:カタコトw

:いつの間にこんな子と知り合ったんだ師匠

:あ、黄色の子も声可愛い


 撮影ドローンに手を振る二人に数々のコメントが寄せられる。予定にはなかったが、少しの時間、雑談タイムをとることになった。そうしてコメント欄は落ち着かないが、時間を見て、今日の企画を進めていきたい。


「……そろそろ良い時間なので、ここからは師匠に今日の企画を発表してもらいます」


 マリナに促され、俺は頷く。そして撮影ドローンにはこちらを向いてもらい今回の企画を発表する。


「二人には新滅流の基礎を教えている。この剣術の基礎を習得すれば岩だって斬ることができる。そこで、今回は二人にゴーレムを斬ってもらおうと思っている」


:いやいやいや!

:岩を斬れるのはツルギ師匠くらいでしょ!

:え、この女の子たちがゴーレムを斬るの!?

:まじやばいって

:どんな鍛錬を積んだら岩が斬れるんや


 懐疑的なコメントが多いが……実は昨日、土曜日に二人の実力は確認している。二人の実力を目にすればリスナーたちも驚くだろう。


「では、早速行ってみましょう! 師匠!」

「善は急げデース」


 二人もそう言っていることだし、ゴーレムを探しに行こう。


「出発だ。まあ、二人の実力を見てもらうのが早いだろう」


:え、まじで二人ともゴーレムを斬れるの?

:そんなまさか

:ゴーレムって硬さだけなら第二層に居るモンスターより上なんだぞ

:でも三人とも自信満々だしやるかもしれねえ

:ど、どうなるんだ!?


 コメントがにぎわう中、歩くこと数分。ゴーレムを発見した。数は二体。丁度良いな。


「二体のゴーレムを発見した。二人とも準備は良いか?」

「準備できてます」

「いつでも行けるネ」


 ならば、今こそ二人の鍛錬の成果を見せる時だ。


「二人とも行ってこい! ゴーレムを斬って見せろ!」

「はい!」

「ヤー!」


 二人がゴーレムに向かって駆けていく。マリナも、デイジーも、まだ瞬歩は習得できていない。だが、他の基礎は叩き込んだ。ゴーレムを斬るのに問題は無い。


 ゴーレムたちは近づいてくる二人に気付いた。そして。


「斬る!」

「斬りマース!」


 二人が同時に抜刀。そのままゴーレムの胴体を斬り裂いた。コメントが欄が高速で流れる。


:うおおおおおおお

:すげえええええええええ

:どっちも天才か?

:やばすぎる!

:二人をここまでにした師匠もすげーよ!


 鍛錬は裏切らない。二人に才能があったのも事実だが、二人が努力を怠らなかったのも事実だ。すでに昨日の実戦で、二人はゴーレムを斬っている。そのことはデイジーだけでなくマリナにも大きな自信を与えた。これから二人はもっと伸びるだろう。


「やりました!」

「やりましたネー!」


 マリナとデイジーがお互いの拳をこつんと合わせていた。切断されたゴーレムたちは灰になって消えていく。


 これで、神滅流剣術を学べば、これくらいのことはできるとリスナーたちにも伝わったことだろう。撮影ドローンにはこっちを向いてもらい、ここぞとばかりに俺は言う。


「神滅流剣術はいつでも門下生を募集しているぞ! 正しく学べばゴーレムだって一刀の元に両断できるのだ!」


 宣伝文句が決まった!


 コメント欄からどっかんどっかん入門希望が出て来るかと思ったのだが……そうはならなかった。


:いや、凄いけど近接はなあ……

:見てる分には良いけど

:凄いけど自分がやりたいかって言われると……

:モンスターと近接で戦えるのは一部の天才だけなんや

:だって剣使わなくても銃あるもん。師匠には申し訳ないけど


 あ、あれえ? 思ってた反応と違う。ううむ……人々の近接戦闘に対する拒否感は俺が思っていた以上に根深い。これは、神滅流を広めるのは簡単ではなさそうだ。だが、凄いということは伝わっている。少しずつ人々の意識を変えていけばいつかは! それを信じてこれからも頑張ろう!


 そうして一人で意気込んでいた時、それは起こった。


 始めは小さな揺れだった。その揺れは次第に大きくなっていき、マリナが立っていられなくなった。デイジーは立っているのがやっとの様子で、今まともに動けるのは俺だけのようだ。


 やがて、地面が裂け、割れ始めた。俺はすぐさまデイジーと真里奈の元へ駆け寄り二人を両脇に抱えた。そして後方へ避難する。


「なんなんですかこの揺れー!」

「ありがとうデス。ツルギ」


 俺が走る後方で地面が割れていく。次第に揺れが治まり、俺たちが先までいた場所には大きな穴が開いていた。そこから現れたのは。


:おいおい嘘だろ

:あれ第四層のモンスターだぞ

:ありえん

:現在確認されてる中でも最高硬度のモンスター!

:ロックドラゴン!


 穴から現れたのは八メートルはあろうかという巨大な龍。全身が岩石のような鱗に覆われ、見るからに硬い。たぶんあれは、俺が今まで出会ったモンスターの中でも最も強いな。


「あわわ……」

「流石にドラゴンタイプは相手にはしたくないデスネー」


 驚き戸惑っているマリナと、困ったように肩をすくめているデイジー。さて、逃げるか。戦うか。


「デイジー、君はマリナを連れて避難してくれ」

「ツルギはどうするデスカ?」

「俺は……竜退治といこう」


:まてまてまて!

:今までのモンスターとは全く違うんだぞ

:いくらツルギ師匠でも一人じゃ無理だ

:師匠も逃げて

:トップクラスの探索者が数揃えて戦うような敵だぞ


 コメント欄からも焦りは伝わるが、どのみち俺が戦わないと、デイジーたちが逃げられない。それに、別にあれを倒してしまっても構わないんだろう?

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