第13話 新たな仲間

 俺たちはARレストランへやって来ていた。雰囲気は普通のレストランともそう変わらない。


「ツルギ。良いのかい? この前助けてもらっただけでなく、こんなに立派なところで、ご馳走になっても」

「配信中にリスナーが言ってたんだ。修理費が余れば美味しいものでも食べてくれって」

「そうか。なら、ご馳走になるよ。ありがとう」


 丸テーブルを囲み、俺とデイジー、マリナ、リリ、そしてヨツバが席に着いた。こうして並ぶと黄、青、ピンク、緑で戦隊ものみたいなカラーリングだ。俺が赤ければ完璧だな。


 給仕と思わしき人形がやってきて、デイジーのガレージで見たような円盤を持ってきた。彼が「前菜です」と言いながらも出てきたのは円盤なのでなんだか変に思ってしまう。


「マリナ。ここでもAR食品は円盤のスイッチを押せば出て来るのか?」

「はい、同じ要領です」

「なるほど」


 そんな会話をしているとデイジーが「デハ」と言って手を合わせた。


「フルコースをいただくとしまショウカ!」


 それから俺たちは会話を楽しみながら食事を楽しんだ。食事といってもそれは味のある映像に過ぎず、お腹が膨れることはない。だが、お腹が膨れないおかげでAR食品はいくらでも食べることができた。単に味を楽しむだけなら、こういう物もありなのかもしれない。


 食事も終わり、少しゆっくりしながら話を続ける。そこでヨツバが俺を見て言った。


「ツルギ。ボクはまだダンジョンに潜り始めたばかりだけど、何かできることがあれば何でも言って欲しい。何か、やってもらいたいこととか……ないかな?」


 彼女は下を向いたかと思うと恥ずかしそうな表情をしながら言う。


「き、君が望むならHなことでも……」

「ホワッツ!?」


 俺の代わりに大きなリアクションを見せたのはデイジーだ。表情の見えない人形のはずなのに、彼女の驚いている様子がよく分かる。


 しかし、Hなことね。


「ヨツバ。俺は女の子にそういうことは望んでいない」

「望んでナイデスカ!?」


 なぜか再びデイジーが大きく反応し、勝手にショックを受けていた。いや、望んでないかと言えば、そういう気持ちはちょっとはあるけど……ここで、じゃあHなことしてくれとか絶対に言えんだろ。そんな俺は最低すぎるだろ。


「だが……君さえよければ頼みたいことがあるんだ。ヨツバ」

「Hなことデスカ!?」

「それは望んでないって言っただろ。デイジー」


 暴走するデイジーのことは無視して話を進めよう。


「ヨツバ。君がこの前、半壊してたように、ダンジョンでは破壊された人形をたびたび目にする。そして、それらを回収して基地に運べば引き取ってもらえるしお金になる。そこでだ。ヨツバ、君には俺たちに同行して荷物を運ぶ役を頼みたい。もちろん、君さえ良ければだが」


 俺の話にヨツバはすぐに頷き。


「もちろん構わないよ!」


 嬉しそうに即答した。


「ほほう、これで私とデイジー、ヨツバ、そして師匠の四人でパーティー結成ですね」


 楽しそうに言うマリナに対し、リリが異議を唱えるかのように手を挙げた。


「あのぉ。私もデイジー様たちについていきますよぉ」

「ごめんごめん。リリも居れて五人だね。結構立派なパーティーになったんじゃない?」


 ふむ。リリもついて来る気なのか。


「これは一応の確認なんだがリリは……なにが得意なんだ?」

「そうですねぇ」


 彼女は指を追って数えるようにしながら話していく。


「メイドとしての家事全般、簡単な機械修理、一通りの銃器の扱いと、その他雑務。くらいでしょうかぁ」


 む、言ってることが本当ならこのメイド、俺が思ってた以上に出来ることが多いぞ。


 デイジーを見る。彼女の暴走もいい加減治まったようだ。


「リリの言ってることに嘘はありまセン。こう見えてスペシャルなメイドですカラ。無駄に胸がでかいだけの女ではないのデース」

「ちょ!? ちょっと言葉がひどくありませんか。デイジー様!」

「ソ、ソーリー。言いすぎました」

「まったく、デイジー様は調子に乗りやすいんですから」


 あ、今なんか素っぽい喋り方したぞ。このメイド、普段はキャラ作ってるのか。そんなことを考えている間に、マリナが二人の仲裁に入っていた。


「まあまあ二人とも。しかし銃のプロフェッショナルとなると剣の達人である師匠とは別方向で頼りになりますね」

「えへへぇ。そうでしょぉ。マリナ様にも銃器の使い方を教えてあげますよぉ」

「あ、それは良いです。私は近接一筋なんで」

「そんなぁ」


 悲しそうなリリにヨツバがおずおずと手を挙げる。


「だったら……ボクが銃器の扱いを教えて欲しいかなあ……なんて」

「あら、ヨツバ様は銃に興味があるのですかぁ。なら、私が手取り足取り教えてあげますよぉ」

「じゃあ、よろしく頼みます!」

「うちの弟みたいで可愛いわぁ」


 ヨツバは銃を使う方が良いのかな。密かに彼女も神滅流剣術へ誘おうと思ってたから、少しだけ残念だ。だが、なんでも本人が学びたいと思ったものを学ぶのが一番良い。もちろん、彼女が剣術を教えてくれといったら、いつでも教えるぞ。


 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、時間を確認すると結構よい時間になっていた。今日の所はここらでお開きにするべきだろう。マリナが眠そうにしているし。


「マリナ。眠いか?」

「実は、ちょっと眠くなってきてます」

「なら、今日はここら辺でお開きにするか」

「そうですね」


 デイジーたちも俺の意見に賛成のようだ。俺はレストランの支払いを済まし、皆で帰る。


 途中、ヨツバと分かれ、俺たちは残りの四人で六十六番ガレージに戻った。ヨツバは今使っている格納庫があるからと言っていたが、彼女が望むなら「いつでもうちのガレージを使ってくだサーイ」とはデイジーの言葉だ。


 俺とマリナの人形は今日も六十六番ガレージの格納庫に泊めさせてもらった。


 その週は夕方から夜になればデイジーとマリナの稽古をした。二人とも、成長速度が速い。これなら、ゴーレムを斬るのも難しくはないだろう。そうして、あっと言う間に土曜日になり、いよいよ俺はデイジーとマリナを連れて第一層のゴーレム出現エリアへやって来た。


「もう土曜日デスネー」

「うぅ……基礎連をやってきただけなんですけど、本当にゴーレムを斬れるでしょうか」

「大丈夫デース。これまでの稽古を信じまショウ!」


 今日の俺は二人を見守る。もちろん二人が危険になれば助けるが、今の二人ならここの魔獣くらいには負けないだろう。


「二人とも行ってこい。大丈夫だ。斬れるはずだ」


 俺は二人にそう言い、そして二人は遠くに見えるゴーレムに向かって進んでいった。

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