第12話 新たな課題

 火曜日。


 高校の屋上で俺はナオトやデイジーと共に昼食をとっていた。


「ツルギ。お前いつも野菜炒め弁当だな」

「良いだろ。野菜炒め好きなんだよ」

「私のお弁当も食べマスカ? お肉たっぷりデース!」

「いや、いい。俺には野菜炒めがあればいい」


 そんなどうでもいい会話をしていると、ナオトが「そういえば」と言って続ける。


「この前のツルギの配信も見てたぜ。ゴーレムを刀で斬るってありえねーだろ」

「ありえんと思うから斬れないんだ」

「あれ配信で観てましたけどかっこよかったデース! 私もいつかゴーレムを斬ってみたいネー」


 ん、デイジーはゴーレムを斬ったことがないのか。なるほど、なるほど。


「それによ。人形が壊れた女の子のために修理費も出したんだろ? これはお前のファンが増えること間違いなしだな」

「修理費はコメントの人たちが出してくれたんだ。俺はゴーレムを斬っただけだ」

「それでもツルギの配信での活躍だよ。どうしよう、俺ツルギに惚れちゃうわ」

「気持ち悪いことを言うな。気持ち悪い」


 俺のツッコミに対しナオトは「違いない」と言って笑った。


 ヨツバの修理は無事に終わったと聞いている。カラスマさんの口座に修理費を振込み、ヨツバからはそのことも含めてお礼のメールを貰っている。彼女はぜひお礼がしたいと言うので、今度会う約束をした。琵琶湖でだ。


 そのうち昼休みが終わり、午後の授業も終わり、俺はデイジーと共に神滅流道場へ向かった。道場でデイジーを相手に基礎の型を練習する。


 マリナにも練習をするようには言っているのだが、一人で練習をするのは効率的ではないだろう。そういうわけで夜にはマリナと琵琶湖の第二基地で待ち合わせをしている。


 型の練習をしながら、俺はデイジーに訊いてみた。


「デイジー。基礎の練習ばかりでつまらなくはないか?」

「何事も基礎が大事なのは知ってイマース。ツルギさんが必要だと言うなら、私は練習をするだけデース」

「そうか。実はな、一つ新たな課題を思いついたんだが」

「新たな課題デスカ?」


 俺は頷く。するとデイジーの瞳が輝いたように見えた。


「興味はあるか?」

「もちろんデース!」

「それなら、後で発表しよう。マリナも一緒にいたほうが良いからな」

「分かりマシタ! 気になるケド今は訊きまセンヨー!」


 その後、夕方の稽古を終えて俺とデイジーは別れた。夕食を食べて風呂に入ってから、ベッドの上で横になる。眠るためではない。ヘッドセットを装着し、俺は意識を六十六番ガレージの人形に繋げた。


『遠隔接続完了。カメラオン。通常モードで起動します』


 補助システムのメッセージを確認し、目の前の扉が左右に開く。そうして格納スペースから出てみると、そこにはすでにデイジーやマリナの姿があった。


「どうもツルギさん。夜の特訓を始めまショウ!」

「こんばんは! 私からもお願いします! 師匠!」


 二人はやる気に満ちている。なら、稽古を始めるか。


「あまり遅くなってもいけないから、今日の稽古は一時間ほどにするが、後で重大発表をするからそのつもりでな」

「重大発表! 楽しみデス!」

「いったいどんな発表が……ごくり」


 楽しそうに飛び跳ねるデイジーと、わざとらしく「ごくり」などと言うマリナ。二人の反応はそれぞれだ。


「じゃあ早速二階の道場で稽古を始めよう」

「「はい!」」


 それから一時間、俺はマリナとデイジー二人の相手をする。やはり二人とも覚えが良い。これなら、新たな課題を出しても良さそうだ。


 そうして一時間後。俺は二人に重大発表をする。


「では二人に新たな課題を出す。これをこなせれば、二人ともかなりの成長になるはずだ」


 俺は緊張した様子の二人に言った。


「二人には第一層のゴーレムを斬ってもらう!」

「オウ!」

「まじっすか!?」


 デイジーは嬉しそうにしているが、マリナは驚き戸惑っている。


「大丈夫だ。二人にならできるはずだ。俺はそう判断した!」


 俺は力強く言い切ったのだが、マリナが不安そうに手を挙げた。


「……あの、岩を斬るって普通の剣術では無理なんじゃ……」

「神滅流は普通ではないからな。出来るぞ!」

「この人無茶言ってるよー!?」


 無茶じゃないんだが、どうしたものかな。考えているとデイジーがマリナの肩に触れた。彼女はマリナの型に手を置きながら、もう片方の手でサムズアップした。


「マリナ。ツルギさんは私たちにも出来ると言ってくれているんデス。ここは彼を信じてみまセンカ」

「うぅ……デイジー。できるかなあ?」


 不安気に尋ねるマリナにデイジーは力強く言った。


「少なくとも私はできると思ってマス! 天才ですカラ! これまでにゴーレムを斬ったことはアリマセンガネー!」

「じゃあその自信はどこから来てるのー!?」


 その点は俺も同意する。と思っているとデイジーは手の指を二本立てた。


「理由は二つありマス」

「二つ?」


 訊き返すマリナにデイジーは頷く。


「一つはツルギさんが私たちを信じてくれているカラ」

「それはさっきも――」

「そしてもう一つは人間の成長というのは、なだらかな坂のようなものではないからデス。人はある壁を突破する時、急激に成長しマス。そのことを私は経験上知ってイマース」


 その言葉にはデイジーの確かな自信がこもっていた。それはマリナにも伝わったようだ。


「うぅ……やるだけやってみるっす」

「その意気デスヨ。マリナ!」


 よし、なんとか二人とも課題に挑戦してくれる形で話が進んだな。


 そろそろ、リリがゲストを連れてきてくれる時間になっているが。と時間を確認していたところで下の階に誰かがやってきたのが分かった。気配からすると人数は二人だな。


「ゲストが来たようだ」

「のようデスネ」

「えぇ!? 二人とも何が分かってるんですか!? こわい!」


 マリナが勝手にうろたえているが、気にせず一階へ降りることにした。デイジーがすぐ後に続き、マリナも「置いていかないでよぅ」と言いながらついてきた。


 一階には爆乳メイドのリリと、彼女が連れてきた緑髪の少女の姿があった。彼女は周囲をきょろきょろと見回している。


「どうも、ヨツバ」

「どうも、ツルギ。この間はありがとう。それにしても凄いねここは。立派なガレージだ」


 デイジーがずいっと前に出て「ソウデショウ、ソウデショウ」と得意気になっていた。


 賑やかになってきたところでリリが言う。


「ではぁ。これから皆でARレストランに参りましょうかぁ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る