第8話 第一層のゴールドスライム
八番ロビーから外に出て、リフトから第一層へ降りてきた。マリナの練習成果を見るのはデイジーと合流した後にする予定だ。
俺は背中のドローンを起動して配信を開始、マリナと一緒に画面に映る。
「神滅流配信道場。今日も始めるぞ」
「師匠、それひょっとしてこの配信のタイトルですか?」
:配信始まった
:タイトルに捻りが無さすぎるw
:覚えやすくて良いんじゃないか
:マリナちゃんだ。可愛いー
:おっす。今日も見に来たぞ
配信が始まって数分も経たないうちに来場者数は四桁を超えた。この前の配信から人気だな。ナオトが言うにはバズったとかいうやつらしい。
「今日は第一層を攻略して第二層の前まで目指したいと思う」
「第二相の直前にある基地が私たちの目的地です」
「え、基地があるのか?」
「師匠!? それを分かってて目指すって言ったんじゃないんですか!?」
:何で早速漫才始めとるねん
:ツルギ師匠基地のこと知らないのかよ
:地上に基地があるみたいに第一層と第二層の境界地点にも基地があるんですよ
:というか師匠。地上にあるのも基地だと思ってなかった可能性あるんじゃないか?
:いやいやそんなまさか
そ、そうか。穴の周りにある建築群って基地なんだな。軍の基地? いや、企業の基地なんだろうか?
「ともかくだ。夕方くらいまでには目的地に到着したい」
「師匠の実力なら簡単に着くと思いますよ」
「じゃあ、出発だ」
「おー!」
俺たちは第一層の探索を開始する。草地が続く第一層には今日も地上から多くの人形が降りてきていた。これだけ人形が多いと、モンスターとの戦闘になるのは、もう少し後になるだろう。
やがて草地から続く洞窟も表れだし、少しづつ各々の目的のために人形たちが分かれ始める。
「師匠。そろそろモンスターと戦闘になると思います」
「だろうな」
人形が減っていき進んでいるうちに、今日初めてのモンスターと遭遇した。以前も見たことがある。緑色の肌をした小鬼、あれはゴブリンだ。
「ゴブリンなら、狩るのはたやすい」
俺はそのままの歩調でゴブリンに近づいて行く。向こうもこちらに気付き、棍棒を振り上げて近づいてきた。そして。
「遅い」
俺は鞘から抜刀し、一撃でゴブリンを切り殺した。緑色の小鬼は黒い灰となり、あとにはクリスタルが残される。
:は、はええ
:速い!
:いつ抜刀したんだ? 見えなかったぞ
:やっぱ近接戦選ぶやつはやべーやつばっかなんですね
:凄すぎて参考にならないシリーズ
「マリナ。君は今の動きが見えたか?」
後方のマリナに尋ねると、彼女は首をぶんぶんと振った。
「あんまり見えませんでした!」
そんなに自信満々に答えるかね。
「……まだまだ目を鍛えないといけないな。マリナ、今日は俺の戦いを見ていてくれ」
「分かりました!」
その後も、スライムやコボルトなど出会ったモンスターを一撃で倒していく。はっきりいって弱敵も良いところだが、たまに破壊された人形を見かけるあたり、こんな敵が相手でもやられてしまう者は居るようだ。
「師匠、破壊された人形を基地へ運べばいくらかの収入にはなりますが、どうしますか?」
「収入といわれてもな。俺たちの装備だと壊れた人形を運ぶのは大変だろう」
「それもそうですね。運び屋でもいれば話は別なんですけどね」
運び屋か。余裕があれば野盗のもありかもしれないな。収入になるというものを、そのままにしておくのも、もったいない気はするんだよな。
なんて、考えていた時だった。俺の視界に金色の物体が映った。それは猛烈な速度で地を這い、草の上で止まった。
あれはなんだ?
「補助システム。その金色の奴をスキャンしてくれ」
『了解。スキャン開始』
俺の言葉を聞いてマリナやリスナーたちもその存在に気付いたようだ。ほどなくして、補助システムがスキャンの結果を教えてくれる。
『スキャン完了。該当データ参照。ゴールドスライムです』
補助システムがゴールドスライムのデータを表示した。俺がそれを眺めている間、コメント欄は高速で動いていた。
:うおお! 激レアモンスターじゃん!
:一体倒せば百万円相当のクリスタルを落とすって聞いたぞ
:倒せば美味いがめっちゃ速いんだよなあいつ。しかも硬いし
:でもツルギ師匠なら
:ツルギ師匠。俺たちとマリナちゃんにかっこいいところ見せて!
「し、師匠。あれ百万。百万ですよ」
「みたいだな」
突然のことにマリナは緊張しているようだ。しかしそうか。百万か……面白い。
「マリナ」
「は、はい!」
「見ていろ。一撃で仕留める」
俺は刀を抜いて突きの構えをとる。呼吸を整えた。そして瞬歩を使い金色のスライムへ接近する。
金色のスライムは俺が動くのに対して逃げようとした。スライムの動きは確かに速い。だが、俺から逃げきることはできないぞ!
神滅流突きの型――紅針。
ドスッ!
突き出された刀は金色のスライムを貫いた。硬いと聞いていたが、実際には大したことはなかったな。
スライムは金色の輝きを失い、黒い灰に変わっていく。そして灰の中に今まで見てきた中でも一番の輝きを放つクリスタルが現れた。
:すげええええええ!
:達人の早業だな
:やばすぎんだろこいつ
:ハヤスギィ!
:動きが全く見えなくて草。俺自信無くすぞ
配信で技を見せるたびにこうなのだが、皆驚き過ぎではないだろうか。俺が使っているのは神滅流剣術の基礎技だぞ。
「師匠! 凄いです! ちょっとしか見えませんでした!」
「君は早く俺の動きが見えるようになれ」
「はい!」
返事だけは良いんだから。
手に入れたクリスタルをポーチに入れ、俺たちは移動を再開する。マリナが言うには、もう第一層を半分くらいは進んできているそうだ。この調子なら、昼くらいには目的地に到着しているだろう。
モンスターを倒しながら進むことしばらく。草地に紛れて白い岩が散見されるようになってきた。こういう地形をなんて言うんだったかな。カルスト台地だったか。よく観察をするとところどころに穴が空いているのもわかった。
「地形が変わりました。もうすぐ第一層の終わりまで来た証拠です。それと同時に、この辺で出て来るモンスターはさっきまでの奴らよりは強いです。まあ、師匠なら問題ないと思います」
「なるほど」
マリナの言葉を聞いて少し警戒を強くする。そうして進んでいるうちに、俺は一つの岩に背を預ける一体の人形を見た。
マリナやカラスマさんの物にも負けないくらいに美しい少女型の人形。ただ、その人形は下半身を破壊されていた。
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