第18話
「『攻撃精密設定』」
アクルの前ではフィリップが淡々と着々と攻撃の準備がされている。
「ここで諦めないよな。あいつだったら」
アクルはか細い声で、しかしはっきりと呟いた。
フィリップはその言葉に何の気も留めず、攻撃の準備をする。
「最後に、足掻かせてもらうぜ。あいつに負けるのは余りにもダセえ」
そして最後の力を振り絞り、胸のピンを引っ張る。
「アクルウェポン。№5――」
それでも、オーラムは何もしなかった。
オーラムがアクルについて持っている情報では全ての攻撃手段を失っている上に、たとえ何か攻撃があっても、ガンシールドと自分自身の装甲があれば無事だと判断し、攻撃の準備を開始したからだ。
だがこの判断を責めることはSTOPの誰にも出来ない。
暴走していて、機械らしくデータだけでしか判断することしかできない今のフィリップを責めることはできない。
もっともそんなことをアクルは知らなかった。ただ最後に悪あがきをしようと思っただけだ。通じるとも思ってなかった。――ただ彼は、足掻きたかっただけだった。そしてアクルは胸にある杭を引っこ抜き、最後の技の名前を絶叫する。
「――爆音! ――――――――――――――!」
その絶叫が、フィリップの体を止めた。
そのままフィリップの体は震えながら仰向けに倒れる。
もっとも一番大事な心臓は震えなくなってしまったが。
「俺は昔、誰もかれも技の名前を叫ぶのはなぜだろうと思ったわけだ。ある奴は一族の誇りだって言っていた。ある奴は自己顕示欲だって言っていた。エルハはなんかかっこいいからって言っていたっけ。いつもだったらそこから発展して、技名を何か戦闘に役立てたいと思うようになった。そんで考え付いたのが、音を武器にするというアイディア」
アクルは独白する。
「音は、気体、液体、固体。そのどれをも震えさせる。どんなに装甲が頑丈だろうと関係ない。そう考え付いた俺はすぐに研究した。どれだけ拡声器を小さくできるか、すぐに発動させるためにはどうすればいいか、音の音量を武器になるぐらい上げるためにはどうすればいいか。物質に合わせて音をコントロールするためにはどうすればいいか。拡声器を作ったら手術だ、麻酔もなしに三日三晩の手術だった。エルハには頼まなかった。アイツは手先が不器用だからな。任せられない」
だから、と言葉を切って続ける。
「俺が初めて俺の目標で、俺1人で得た力だ。もっとも、ばれたら対策簡単だからうかつに使えないけどな」
操り人形のお前と違って、自分で努力したんだよ、俺は。
そう呟くとアクルは目をつぶり死んだように、大往生したように、昏々と眠った。
満足げな眠り顔だった。
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