第17話

アクルは、死にかけていた。突如現れたフィリップに制圧されていた。


 光で目眩ましをするどころか影も見えない透明になり、自分の5倍のスピードと4倍の装弾数で飛んでくる弾の連射を喰らう。電気も弾も厚い装甲によって全く効かず、自分が防げる攻撃は電気だけ――しかも完全には防げない。


アクルはオーラムに手も足も出なかった。

 壁に寄りかかり倒れていた。フィリップに銃口を向けられながら倒れていた。


「『対象排除』」

「はは、困ったなー。俺ここで死ぬのか。夢もかなえられずに」


 ――まあいいか。別にそんな後生大切にしたい夢でもなかったし。


 走馬灯というやつか、昔の風景がアクルの頭の中を巡る。




 最初の記憶は、だれかに売られたところだ。


自分が元々どんな国に住んでいたのか、本当は何歳で、どんな肌の色で、どんな目の色かは、もう知りようがない。

ただ、俺を売った人間が泣いていたことは覚えている。


 その後の記憶は、ぼんやりとしか覚えてない。

嫌な記憶だったのもそうだが、散々改造されまくって麻酔やら変な薬物のせいでぼんやりしているのかもしれない。

少なくとも、すぐに今の機械の体になったので幼児から青年期までかなりの期間飛んだのは確かだ。


 次のはっきりした記憶は研究所で誰かの悲鳴がしたところだ。

年月は売られた記憶から10年は立っていたと思うがよくわからない。

爆破音が起きた時は、また変な実験か何かやっていると思っていたがそうではなかったらしい。

実はその時も研究体が暴走したと言う話だ。


 その後、緊急で研究体を止めるために戦線に配属された俺は一瞬で殲滅された。

どんな奴になにをされて殲滅したかなんて、そんなことは覚えていない。


 なぜか自分は生きていた。研究所は、完全に瓦礫の山になっていたが、しかし生きていたのは自分だけではなかった。

少なくとももう一人生きていた。それが研究所を破壊した研究体であり、当時まだ少年・・・・・・いやもう『少女』だったエルハだった。


「私なんか死んで、ノルイ君を生き返らせたいニャ」


 そう言っていた。

 そんなエルハが、自分は美しく思えた。

 自分のやりたいことを持っているなんて、

 なんて羨ましい。心からそう感じた。

 自分もやりたいことが欲しかった。人に言えるような目標が欲しかった。夢が欲しかった。

 ふと、研究者は全員死んだのか気になった。

 エルハに聞くと、


「ノルイ君は何人か狩り損ねていたニャ。研究者かどうかはわからないけどニャ」

 と言った。

 ――じゃあ、生きている可能性あるしそれらしい夢だな。

「俺は自分を作ったやつに会いたい」


 俺はそう言った。

 適当に作った夢だった。

 名前は、命令の時に言われていたアクル計画113号という識別番号からとってアクルにした。


移動にはたまたま無事だった車を使うことにした。

車の名前は、プレートに書かれていた車の持ち主のファーストネーム・ミドルネーム・ラストネームからそれぞれ頭文字をとった。


 その後は、多くの人に迷惑をかけて生きてきた。


 適当に決めた自分の夢のせいで、多くの人が死んだ。多くの人を殺した。


 無関係な人も、いい関係を築いた人も、敵対関係を持った奴も、一切関係なく死んでいった。


 きっと、自分があそこで死んでおけば、多くの人の命が助かっただろう。


 生きている意味なんてない。

生きたいわけでもない。

それなら死んだほうが良かった。


 でも、それでも――

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