第8話

ところで、彼――ダックがSTOPに呼ばれた理由は大きく分けて2つある。


1つ目は射撃の命中力。彼は90㎞離れたところから人の耳だけを正確に撃ったことがあること。

そして、2つ目はスノードロップ、遠距離攻撃マシンガンという特殊な武器を完全に操っていることだ。普通の拳銃ですら反動で一般人なら指の骨が折れることがある。


ましてスノードロップは反動だけで軽量車を破壊するほどの反動を持っている。銃自体の重さも重量装填された弾丸含めて150㎏。


そんな銃を片手だけで持ち、一切怪我をしないで使用できる技術を持っているのは、広い世界の中でもダック・ラインダース、ただ一人。

 さらに、スノードロップの弾速は時速43000㎞。1分間に50000発の弾丸を飛ばすことができる。


――この最高の力を持った銃と、最高の技術を持った俺。組み合わさって勝てる者はいない!

彼はそう思っていた。

 その慢心が、勝利の女神に嫌われる。


 スノードロップは、形だけは一般的な(装飾でつけられた宝石を一般的と考えるなら)マシンガン。そのため銃口は1つだけであり、ラスベガス近くの荒野で戦った、サグロック・ガットのように360度全体を一気には攻撃できない。


 そして、相手が技を使ってから攻撃する。これは、相手の出方をうかがってから、攻撃しようという意図があったがその作戦は2対1の状況では悪手以外の何物でもなかった。


 最後に、アクルが全身発光を使った。


 これらの、条件から導きだされる敗北。


それはつまり――

「瞬火小判」


 エルハによる、背後からの迫撃である。光による煙幕を駆使し、ダックに気付かれるまもなく接近し背後に回った。

「ガッ・・・・・・!」


 裂かれるダックの背中。

首を狙われなかったおかげで即死こそしなかったが、これから行われる拷問で情報を全て吐いて、結局死ぬことを考えればここで死んでいたほうが幸せだったろう。


 最もこの状況は

2人にわざわざ必要のない挑発をして、


仕事上必要のない殺しをして、


相手の攻撃が絶対に当たらないところから攻撃をすればいいものをわざわざ近づけさせて、

己の技術と銃の性能に慢心して

こんな単純な策すら破れなかった、ダックの自業自得。それだけの話なのだが。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やっぱあの時、車押してでもさっさと別れたほうがよかったんじゃねーの?」

「結果論ニャ。まさかあってない間にダックがあそこまで白人主義に盲信していたのは予想外だったニャ」


 エルハが運転しながら答える。

 2人はあの後、レミリアの母親がいる病院に慰謝料と治療費を前払いに行った。

 しかし医者から

「その患者様なら、4時間前に――」


 と言われ死体を受け取り、家の残骸からレミリアの残骸を掘り出し、教えてもらった墓に2つの死体を埋めた。


「レミリアからの手紙、形見になっちゃたニャ」

「なに書かれてるか読むか」

 アクルが手紙を開く。

「2文しか書かれてないな。えーと『夢を叶えてください。応援しています』だってよ」

「あの子らしい気がしないでもない文章ニャ。じゃあ箱に入れておいてニャ」

「OK」


 そして、アクルはRAN号の後ろに付いているタンスの一番下を開ける。

 そこには、普通のビー玉から、ナイフ、手紙など大量の『形見』が並んでいた。

「これで、20個目かー、これ見ると滅入るよな。てか馬鹿じゃねえの? 俺達なんで反省しないでこんなことやっているんだ?」


アクルは沈鬱な面持ちで、うつむきながら語りかける。

「そうニャねー」

 非常にどうでもよさそうに、エルハは適当な返事をする


「・・・・・・俺たちは夢を叶える権利はあるのか?」

「なに言い出すニャ?」

 エルハは困惑した。怪訝な風に問いただす。


「俺たちは、いろんな人を巻き込んで、巻き込んで、巻き込んできた。いろんな夢を持った人が俺たちのせいで死んでいった。なのに、おれたちに夢を叶える権利はあるのか?」


「死んだ人のこと考えて生き返るはずないニャ。終わったこと気にするなんて馬鹿ニャ。責任感じるなんて馬鹿じゃないニャ? それに、どんなにそれが人に迷惑かけるものでも、私はノルイ君を生き返らせてほしいニャ。

 

「・・・・・・ろくでもないな。俺達」

「気にしないほうがいいニャよ。嫌な事なんて忘れたほうが精神衛生上良いニャ。気にしてどうにかなることじゃないニャ」


「俺も、そう割り切りてーな」

自嘲的な笑みをアクルは浮かべる。

 RAN号は荒野を進む。

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