第6話
「・・・・・・なんか、大変な事みたい」
今日、家の庭に大きな車が突っ込んできた。車の中には2人の人。
とりあえず家でできるとこまで看病して、(うちはお金がないから救急車を呼べない)さすって起こしてみた。(片方の体が、プラスチックだと気づいた時はビックリした。二人とも男の人だったのも驚いたけど)
「イヤー。悪いな。銃で滅茶苦茶に撃たれて気絶してた」
「助けてくれてありがとうニャ。じゃあもう行くニャ」
私は驚いた。2人とも体中に傷ができていて、女装の人なんて左足があらぬ方向に曲がっている。
「だめですよ! まだ全然治っていないんですから!」
「ここにいると助けてくれたお前が危ない。じゃあな金はやるよ」
さっきの軽い調子とは別にかなりの気迫を持って言う金属の人。しかし私は怯まない。
「でもだめです!」
「さあ出発するぞー」
「そうニャねー」
私を無視して話す二人。
そして車のエンジンをかける。
「あれ、おかしいニャ、エンジンがかからないニャ」
「なんだと!」
走る金属の人。車の細部から極細部まで確認する。
「まずい、まずいまずい!」
「なにが不味いんですか?」
「エンジンが壊れている・・・・・・、つまり、おれたちはここから動けない」
「やった! つまり車が治るまで、休んでくれるってことですね!」
私が休んでくれるとわかってにこにことしているのと逆に、金属の人は真っ青な顔をしている。
「車押して逃げるぞ! こいつのとこにだけはいちゃだめだ!」
「無理ニャ、RAN号の重さは、約3t。今のエルハじゃ押せないニャ」
「でもこいつ黒人だろ! あの差別殺人者が殺す人間だ! 最悪これ置いてでも逃げるぞ!」
「黒人ってだけで、まさかそんなことしないニャ。そこまでいかれたやつでもなかったし。私たち見たぐらいでほかの人間巻き込んで殺すような組織じゃないし。それにこれ置いていくわけにはいかないニャ。『あれ』や金、武器に思い出の品がいっぱいニャ」
「あの男にとって人間は白人か、それ以外しかない。STOPの基本的な指令は『対象を見た存在の処遇は自由』だからあの男だったら普通に殺すはずだ。お前だって『あれ』の中身増えるの嫌だろ」
少なくとも、「あの男」はかなりの差別主義者らしい。あまりかかわりたくない。
そんなことを私が考えている間もすごいスピードで会話が揉めている。
「どうしたらいいんだよ!?」
頭を抱えながら叫びだす金属の人。
「大丈夫ニャ。せっかく女の子が助けてくれたし、いざとなったらエルハとアクルで守ればいいニャ」
「でも、・・・・・・」
「仕方ないニャ」
「・・・・・・しゃーねーか」
ようやく話がまとまったらしい。私は声を掛ける。
「レミリア・メイクス。14歳です」
「俺の名前はアクル」
「私はエルハニャ」
そして、この2人との共同生活が始まった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
とりあえず、まずは家の修理。エルハさんはすごく力持ちで器用で身軽な人で、(左足が滅茶苦茶な方向へ曲がっているのにもかかわらず)屋根に木の板や工具を持ったままジャンプして2時間かからずで家が直った。
そして終わったら昼ごはん。私特性、雑穀と野菜の切れ端塩スープを振舞った。
「・・・・・・ちょっと待ってろ」
アクルさんはそう言うと車の中から、鳥肉の缶詰めとトマトの缶詰め、それにフランスパンをそれぞれ10個ずつ取り出した。
「なんですかそれ?」
「お前にやる、夜は美味い物造れ」
「これは不味いって言うんですか!」
「少なくても、美味いものじゃねえだろ。大方、どっかからタダでもらってきた物を煮込んだって感じか? 最低限口には入るがかなりきついぞ」
「・・・・・・・・・」
確かにレストランが捨てる物を、タダでもらってきた物を、塩入れて煮込んだだけだけど・・・・・・。
「何でお前、こんな貧乏なんだ? まあ別段珍しいことでもないが」
「それは・・・・・・、まず、お父さんとお母さんが、出会ったところから始まるんですが」
2人が出会った後、すぐ結婚。でも、すぐお父さんは徴兵されて戦地で死亡。そのあとお母さんが病気で植物人間になり入院中。その後私は、病院のお金を払うためにバイトをして食いつないでいる、という話をした。
「そりゃ大変だな。植物人間ってのは珍しい」
アクルさんは珍しいと言いながら、大して珍しそうでもなくスープを啜っていた。
「アクルは冷たいニャ! もう少し気にかけてあげてもいいはずニャ!」
その対極にエルハさんは涙を流しながら、アクルさんに怒っていた。
「うるせーよ。」
「あんまり気にしてないから大丈夫です・・・・・・お母さんもそのうち元気になるはずですから」
そんな雑談をしながらのご飯が終わり、次は洗濯。アクルさんはもう眠るとか言って寝てしまったから、エルハさんと二人でやる。
「私の人格はノルイ君が作ったニャ。起きた時が人体実験中だったから、多分精神に限界が来たから私を作ったニャ。私が生まれてからは、ノルイ君は一回しか起きて無いニャね」
「起きた時は何があって起きたんですか?」
「詳しくは覚えてないけど・・・・・・ピンチになったとき出てきて、実験所から逃げだして、最後になんか言って消えたニャ」
「なんかって、何言ったんですか?」
「忘れたニャ」
そんな会話をしながら、アクルさんとエルハさんと私の服は洗い終わった。
その後はバイトに行く。今度はエルハさんが寝てしまったので、バイトに一緒に行くのはアクルさん。本当はついてこなくていいと言ったのに、「敵に捕まって殺されたりしたらやばいから」とついてきた。
「でも、一緒に来るなら働いてくださいよ」
「もちろん!」
10分後
・・・・・・アクルさんはどうも労働ができないらしい。
皿洗いさせたら皿を壊し
ウエイトレスをしたらお客さんにスープをぶちまけ、
料理させたら人を切り裂きかけるアクルさんへの、最終的な命令は「弁償してでていけ」というものだった。
「いやー、ごめんなー」
そして今彼は御客としてテーブルに座っている
「ミートソースパスタ1人前に、コーンサラダ1つ。後この当店特性ビッグハイバーガーXL1つください」
「・・・・・・ドリンクは何にしますか」
「ジンジャーエールXLで」
「かしこまりました」
私は注文をメモに書き、厨房に持っていく。
「何であの男居るのかな?」
「わかりません!」
「まあ、客ならいいけどさ、今度から変な人紹介しないでくれない? 今回は給料天引きだけで済ませるけど次は――」
「はい、今度からはあんな変な人紹介しません」」
そして私には仕事の傍らアクルさんを見張っておくように言われただけでなく、今日の給料を半分とられることになった。
当のアクルさんはというと注文したものを全て、ゆっくりと時間かけて食べきった。
あまりにゆっくりとしていたため、帰る時間が私と被るほどだった。
家に帰った私はエルハさんに相談する。
「アクルさんのせいで、給料が2分の1になったんですよ!」
「それはひどいニャね。アクル、ちょっと来るニャ!」
「知らねえよ。俺だって給料全部取られたんだぞ」
私とエルハさんの言葉は、アクルさんに届かないらしい。
「じゃあ、今日のご飯、アクルさんは抜きですね。」
「そうニャね。ご飯抜きニャ。」
「それはやめてくれ!」
言葉は届かないが、脅しは届くらしい。
「わかったならレミリアに謝るニャ」
「・・・・・・すまなかった」
「いいですよ、そんなに謝ってくれるなら」
その後はご飯を作る。アクルさんからもらったフランスパンをスライスした物とトマトとチキンのスープ。アクルさんの評価は「美味い、お前料理美味いな。雑穀の煮物を最低限食えるようにする技術があれば当然か」という評価だった。
そんな感じの面白いこともあれば散々な目にあうこともあった13日が終わり
を告げる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おっ、エンジンかかった!」
2人が乗っている車が直った。アクルさんが夜な夜な修理に励んでいたらしい。
「もう行っちゃうんですか?」
「なんやかんや俺たちといると危ないからな。お前の為にもそれが一番いい」
「そうニャ。別段今日まで運が良かっただけで、いつ誰に襲撃されるかもわからなかったんだからニャ」
2人は、別段いつもと変わらずにそういった。
「・・・・・・でもその生き方は寂しくないんですか」
「? どういう事ニャ?」
「だって、基本二人で旅をしてせっかく誰かに出会っても、すぐ危ないからって別れるなんて――」
「寂しいよ」
私の言葉がすべて言い終わらない内に、アクルさんは答えた。
「寂しいし、辛いさ。エルハの考えは違うけど、俺は寂しい。でも俺には叶えたい夢があるからな、止まるわけにはいかねーさ」
なぜか、そう語るアクルさんの顔はものすごく重い空箱を運んでいるような、虚しくて辛いと悲鳴を上げたそうな顔に私には見えた。
「エルハさんは寂しくないんですか?」
「私は心の中にノルイ君がいるから平気ニャ」
エルハさんの答えはなかなか単純だった。単純で簡単で、楽しそうだった。
2人が組んでいる理由が何となく分かった気がした。
――この人たちはそれぞれの足りないところを補い合っているからチームとして強い。
だから、2人は強大な敵と戦える。一つ一つで完成しているものが綺麗にくっついているから。
「・・・・・・ある意味最強のコンビですね」
「違うよ。どうしようもなく弱いから諦められずこんなことやってんだ」
そう言ってアクルさんは失笑した。
「レミリアの将来の夢は何ニャ?」
エルハさんに聞かれた質問に私は満面の笑みで答える。
「それはやっぱり、お母さんが元気になることですね」
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