第5話

アクルは首の外れた超の胴体からスマートフォンを取り出した。


「えーと電源付けて、と。じゃあ、行くか」

 首からケーブルを引っ張り出しスマートフォンに挿す。

「アクルウェポン、№1脳演算」

「・・・・・・それずっと思っていたけど、技使うとき技の名前叫ぶのかっこいいと思って言ってるニャ?」


 エルハのお前がそれ言うかと言った感じの質問は無視して、どんどん失われる眼の色と肌の色。その代わりと言うように、スマートフォンが光り、文字を出す。

 アクルウェポンの中でも一番地味だが、研究者からの期待は他のどのウェポンよりも強いウェポン。

 人間の脳の演算能力を一時的に、完全にハックに特化させる。絶対的な情報兵器。

 もっとも、アクルの脳演算はハックにしか使えない上、ケーブルをハックする本体の機器に挿さなければいけないが。


「あったぜ、STOPの携帯番号。暗号すごくてだいたい1・1秒かかったけど」

「そんな些細な時間どうでもいいニャ。じゃ、さっさと逆探知機に付けて電話掛けるニャ」

 世界でも有数のセキュリティをやすやす突破するようなコンピュータが頭上に特に苦も無く付いていると考えれば、戦闘能力などなくともどこまで狂ったことかわかるだろう。

「はい、ご用件はなんでしょう?」

「はい、『アクル計画』の脱走個体と、『ミュータント製造計画』の脱走個体を殺しました」


 超と似ている声で、アクルは電話に声を掛ける。これはアクルウェポンですらない、音声パスワードをごまかすことなんて土台できない。大したこともない変声術だが携帯越しの相手をだますことなら可能だ。


「まずは対象の死体を見せてください」

「わかりました」

 そして前々から撮っておいたダミーの死体風写真を送る。知り合いの職人が丁寧に加工したのでいくらチェックしてもバレることはない。

「――はい確認しました。では、赤染病を治療する場所を教えますので――」

「いえ、実は報酬を変えたくなってしまい・・・・・・」


 電話の外から困惑した声がながれる。

「いいのですか?」

「はい、苓来が私はいいからと、言ってきかないので」

「では何に変えましょうか」

「STOPに所属している、戦闘員や武闘家、フリーの傭兵などの詳細な情報が欲しくなりまして」

「・・・・・・なぜですか?」

「いえ、これから参考にしようかと、それにいつかどこで誰と戦う羽目になるかわかりませんから」


 担当職員は少し黙った後、声を出した。

「わかりました、では少しお待ちください。争いを管理しているところに交代しますので」

 そして、電話先の人間が変わる。

「はい、こちら戦闘管理の部署で働いております、ドリーと申します。どんな方が現在この組織にいるか聞く、を報酬に変えるのですね」

「はい、教えてもらえませんか」

「わかりました、と言っても私たちの組織で雇っている実力者は、今は5人しかおりません。何せあなた方は相当の実力者なので――」

「お世辞はいいので早く始めてください」

「はい、わかりました。まずダック・ラインダース様、38歳、イタリア出身です。

彼は、『スノードロップ』と言う、特殊な遠距離攻撃マシンガンを使っております。また、極端なほどの白人主義者のため、白人主義者の白人を殺すことはありませんが、白人以外の人種と、白人以外に味方する白人は、積極的に狩り始めます」

アクルは苦い顔をする

――あの白人主義者か。性格も戦法も嫌な奴――。


「そして、カマル・アルレイド様、39歳、インド出身です。彼は催眠術の使い手です」

「あいつ生きていたんですか!?」

「? 生きていますけど。なんなら一緒に仕事やったはずですが」

「いえ、すいません。何でもありません」

 そうはいったが、アクルの頭の中では、アルレイドの催眠術で操られた時の恐怖が、深く刻まれている。あまりの恐怖に記憶も相当あいまいになっているが。

 ――あいつのことに関しては思い出したくもない。エルハがいなかったら今頃・・・・・・。


「そんなことより次です、次!」

「はい、3人目はタテ・ハゴコロ様、26歳、日本出身のニンジャです。」

「ニンジャ! あのニンジャですか!」

「はい、そうです。彼は最近傭兵になりました。『轟(とどろき)蟲(むし)』と言う忍術と『盾(じゅん)心(しん)』と言う楯を武器として使い戦います。『盾心』は2mほどある巨大な持盾で、厚さは25㎝程、防御として使うほか、鈍器としても使います『轟蟲』の詳細は不明ですので、あまり参考となることは言えません」

 ――ニンジャなら強いに違いない! アクルは前買った日本の漫画だけを参考にそう考えた。


「4人目はソフィア・ペルパル。爆弾開発者です。数々の武器を開発し、世界各地の戦場を荒らしたとされる天性の戦争屋。彼女が製作に関わった武器で死んだ人間は100万人を超えているとも言われています」


――爆弾。出来るなら俺が相手をしたいな。エルハとは相性が微妙だ。

「最後はオーラムサイボーグ151型、と言っても、あれは私たちが完全に支配しているので、私たちと敵対しない限り、戦うことはないでしょう。一応なにか言うなら、アクル計画の完成品とでも。№1から、№4までの能力全てが、脱走個体のそれを超越しております」

「わかりました、ありがとうございます」


 そして電話を切るアクル。

「どうだったニャ?」

「相手の戦力把握。それから逆探知で、アイツらの本部がどこにあるかも、ある程度はわかった」

「それはどこニャ?」

「エリア××。そのどこかに、STOPの本部がある。アメリカ軍とつながっているのか知らないが、そこに行ったら俺を作ったやつに会えるかもしれない」

 エルハが満面の笑みを浮かべる。

「ノルイ君を生き返させることも、できるかもしれないニャ!」

「じゃあ、行くか」

「そうニャね!」

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