第4話
「あれは毒の副作用ですよ。自分の毒に抵抗をつけて、その副作用で体が蝕まれています」
「どういうことだ?」
「彼女は毒使いなのですよ。彼女」
――毒使いか。俺に毒が通用しないから、エルハに持って行ったのか。
「ドーピングすることで弱い体を無理やり強化して前線に立っているんです。戦闘衝動を満たす為に。あの子ああ見えて戦闘狂なんですよ? そのギャップが堪らない」
超は頭をかきながら丁寧に続ける。
「僕は彼女を愛しています。今回の仕事はドーピングによって体を蝕まれている彼女を助けるために受けました。STOPのサイボーグ化の技術を使えば彼女を助けられるので」
「ちょっと待てよ。自分の欲求満たすためにドーピングしているなら普通に自業自得じゃねえか。人を巻き込むんじゃねえよ」
「だからなんだと言うのですか? どれだけ彼女が悪くても、自業自得でも、僕は彼女を助けたいんです。生かしたいんです。そのために僕はあなたを殺さなきゃいけないんです!」
「そうかい、それなら――殺し合うしかないな」
走り出すアクル。
「アクルウェポン№2変装術応用。全身発光」
光るアクルの体。アクルは肌の色をライトで調節してある。その応用で体中をアクルは光らせた。そして、接近して指を鳴らすポーズをする。
「アクルウェポン№1。5万Ⅴ電撃」
「聞かないというのに」
カウンターの構えを取る超。
「流蛟」
ミンの操る棒が的確にアクルの頭、腕、胸、腰、膝を砕く。もっとも、そこはサイボーグボディ。致命傷にはならない。しかし攻撃による衝撃は、確実にダメージを与える。バランスを崩し、うつ伏せになって倒れるアクルの体。
「ずいぶん耐えますね。しかし後2、3回技を当てたら勝ちでしょう」
にやりと笑うアクル。
「いや、お前の負けだよ、超」
「遅れたニャね」
「!」
驚き振り向く超。そこには苓来の首を持った、血だらけのエルハがいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
――ナイフかすったら終わりニャね。かといってこっちが接近して攻撃すると、カウンターが来るニャ。
「来ないならこちらから行きます」
「行くから待ってニャ!」
「待つはずないでしょう」
ナイフを持って苓来。避けるエルハ。
――ナイフの使い方はプロのプレイヤーの中では、せいぜい中の下。でも刃が素肌にかすれば、いやナイフのどこかに素肌が触れさせさえすれば勝ち、って言うのが苓来ちゃんの動きに、良い余裕を与えているニャ。
「私の為に死んでください」
苓来が腕をクロスして、エルハのいる前方にナイフを向ける。
「こっちにも、やらなきゃいけないことがあるニャ。邪魔をするのなら、あの世に行ってもらうニャ」
ゾッとするほど静かに、しかしはっきりとした、雪のように冷たい覇気を出すエルハ。
その覇気に一瞬震える苓来の体、がその震えは確認できないほど短い時間で無くなり、ナイフをエルハに向けて振る。
ぎりぎりで避けるエルハ。
苓来に向けてカウンターを加える。
しかし、苓来がナイフをカウンターに合わせて構える。
ナイフに触れないよう、すぐに進路変更するエルハの腕。
腕を進路変更したことで生じる隙。
その隙を苓来は狙う。
「もらいました」
ナイフがエルハの腹に刺さった。
「アガ、ガガガ」
「・・・・・・あっけない・・・・・・ミュータントと言っても――」
ブシュ
苓来の右腕が、苓来の体から離れていた。
勢いのいい噴出音を出しながら腕の付け根から吹き出す血飛沫。
「・・・・・・え?」
エルハの手が血に塗れていた。
「なんで?」
その疑問の答えを知る前に苓来は、エルハに首を斬られた。
その質問に答えるようにエルハは独り言を口にする。
「お金全部1$紙幣に変えておいてよかったニャ。万が一が、そのまま刺さる時があるんニャね」
実際問題、顔などの明らかに皮膚をさらしている部分を狙われれば、無意味な保険だったし、たとえそういった肌が露出した部分を狙われても、財布の無いところに刺さったらやはり保険は無駄だっただろう。
つまり苓来は運が良ければ生き残れた。もっとも今となっては意味のない話である。
そして、苓来の首を掴んで、チシャ猫のように笑った。
「大丈夫ニャ。あの男もすぐそこに送ってあげるニャ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お前は、お前は苓来を殺ったのか!」
怒りで丁寧な言葉遣いが崩れる超。
「首切られても生きていけるならそれは、化物の類だと思うけど、苓来ちゃんは化物だったニャ?」
その言葉が引き金だった。
「天竜独歩」
怒りに満ち満ちていても、寸分違わない程の流れるような動き。
だが、投げられた苓来の首により、超の動きは止まる。
「!」
苓来の首は超の顔とぶつかる。超が棒を使い、苓来の首を叩き落とせば違った結末だっただろうが、そんな選択は彼には不可能だった。
「瞬火小判」
次の瞬間、超の首は切断された。
すぐに超の首と苓来の首を回収して、2人の唇を重ねる。
そして満面の、少女がバレンタインに渡すチョコができた時のような、そんな笑顔をエルハは見せる。
「不治の病気にかかった女の子が、病気の苦しみから逃れ、大好きな男の子とキスして、一緒になって終わり! 恋愛ものの王道ニャね!」
「・・・・・・まあ嘘は何も言ってないわな」
アクルは諦めたような、疲れたような、どうしようもなくくたびれた愛想笑いを浮かべた。
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