第2話

「ここからどこに行くニャ?」

「ああ、マフィアから聞いた情報によると、あの三下マフィアがSTOPと取引するはずだった場所は、ラスベガス。世界一のギャンブル都市で有名だ」

「ラスベガスニャね! 私ポーカーやりたいニャ!」

「俺はルーレットだな。あのランダム感が良い」

「アクルはやっちゃダメニャ」

「なんでだよ」

 アクルは顔をしかめる。

 エルハは聞き分けのない子どもを諭すように言った。

「アクル本当に運悪いニャ。特に、何個かの択に分けるタイプのものは絶対外すニャ」

「そんなことないぜ。FPS系のゲームで敵がどこ行くか当てるのは俺得意だし」


 エルハが肩をすくめる。

「わかったニャ。じゃあ100$だけニャよ?」

「OK。10000$まで増やしてやるよ」

「どうせ無理ニャ・・・・・・RAN号の最大速でラスベガスまで後何時間かかるニャ?」

「20分かからない。そろそろドレスとタキシード、用意しておいてくれ」

「OKニャ」


 服を準備していたエルハ、運転していたアクル。確かに平和な空間がそこにあった。

 しかしそれは、車体がいきなり大揺れして黒煙に覆われるまでの話だったが。


「なんだなんだ! 何が起きてどうなった!」


 大混乱するアクル。エルハは冷静に状況を伝える。

「4㎞ぐらい先の南東にバズーカを持った黒いフードの男の人がいるニャ。身長は2m越え。RAN号は十分に動くニャ!」

「サンキュ! まずアクセルを限界まで踏んで、と」

 急加速するRAN号。瞬間的に男に近づく。

「いつの間にここまできやがった!」

 少し困惑したかのように男は叫んだ。

 ――よし。後はエルハで詰めれば勝ちだな。

 アクルが勝利を確信した、が、すぐに確信は揺らぐ。


「まあ、無駄だがな」

 男はフードを脱ぎ捨て――体中に銃穴を開けた体を見せた。

「!?」

「喰らえよ」

 ダ、ダダ、ダダダ、ダダダダダダダダダ。

 加速度的に増える弾丸。一瞬で4Mはある岩石が、砂になる

 ――俺と同じサイボーグか。体中がマシンガンになってやがる。サーチライトの三下マフィアの拳銃とは火力、スピード、範囲全てが桁違いだ。この火力と範囲じゃエルハは避けも耐えもできないな。――俺が行くしかないか。


「出てくんなよエルハ。死ぬぞ。ここは俺が相手する」

「OKニャ!」


 RAN号から出るアクル。

「今際の際に彼女と話す言葉はそれでいいんだな」

「はっ、彼女か、人見る目ねぇな! あいつは自分の別人格にぞっこんだよ!」


 適当な軽口で時間稼ぎをしつつアクルは考察し続ける。

 ――あの男の武器は全身ガトリングとバズーカだけみたいだな。いや、後一つぐらい隠し玉持っているか。それだとこういうことになったらまずいし。相性補完良い近接武器だろうな。刀、槍、見た目的にはハンマー辺りも――

 ギ、ギ、ギ、金属のこすれる音、男の手の形状が変わる。出てきた武器は――


「戦斧か、渋いじゃねえの」

 戦斧。戦闘用に作られた斧。剣などのほかの刃物よりも圧倒的に破壊力が高く、一撃を決められればそれで勝負が決まってしまう」。

 だがその分重く、振り下ろした後の隙が多く、使い方が難しい武器でもある。

 ――でもまあ、斧振った後はガトリング来るよな。隙だらけの武器交互に使うことで、隙をなくす。

 理に叶っちゃいるな。アクルがそこまで考えたところで、男が斧を持って突撃を図った。

「喰らえ! 『アクル計画』の脱走個体!」

「アクルでいいよ。銃口男!」


 アクルは紙一重で攻撃を避けた。しかし――

「あっぶね!」

「俺も銃口男じゃなくて、ガットって立派な名前あるんだぜ! 喰らえ! ボディバーストォ!」


 男が叫ぶと同時に、圧倒的な弾丸が空間を埋め尽くす。

 ズタズタにされるアクルの体。いや、服はズタズタにされるがボディは無事だ。が、衝撃はアクルの体に確実に浸透する。

 弾が出し尽くされた後アクルはフラフラだった。骨こそ折れていないが普通の人間ならショック死するような苦しみをアクルは感じている。

 耐えられるのは修羅場を何回も越えた経験ゆえだろう。

「ボロボロじゃねえか。動けんのか」

「ほざけ。今リロード中だからお前今連射できないだろうが」

「おいおい戦斧を忘れちまったのか? この斧の破壊力は凄いぜ。そこらの大岩なら軽く叩くだけで粉みじんにできる」

 アクルは何か言い返そうとするが、その言葉を待たずガットは斧を振りかざしアクルに突撃する。

 アクルは言おうとした言葉を変え、唱えた。

「アクルウェポン№3。ガンシールド」


 そう言うとアクルの手は姿を変えた。

 左手の付け根を中心に透明な円盤が生え、手のひらは変形し中から筒が出てくる。

 変わりきった左手はガンシールドになっていた。

 ガンシールド。盾で攻撃を守りつつ、突き出した銃によって射撃できる、攻防一体の武器である。

 作られたときは連射が出来ずせいぜい護衛程度にしか使い物にならなかったが、アクルのガンシールドは最大16発まで連射ができ、その弱点を克服している。


「喰らえよ。銃口男」

 ガンシールドは斧の攻撃を盾で受け止め、

 ガンシールドは0距離射撃によって男の体を破壊した。




「いい改造されているじゃねえか」


 男は笑っている。血を吹き出しながら笑っている。まるで重い枷が外れたように底なしに笑っている。


「誰に雇われて、まあ聞かなくていいか。どうせSTOPだろ」

「そうだよ! この俺、ガット様はSTOPって言う親みたいなやつらから、研究体を殺せって依頼をされたのさ!」


 笑い続けながら男は続ける

「俺が知ってるやつにオーラムってやつがいる。俺の知っているサイボーグでは一番強い奴だ。出合ったらよろしく言っといてくれ。まあ改造のされ過ぎで喋れないがな」

「いいぜ。言っといてやる」

「そうか」

 そう言うとガットは目をつぶった。

 そして永遠に開けることはないだろう。骨と金属の塊になっても永遠に。

 アクルは数分ほどガットを見届けた後、RAN号の中に戻る。

「・・・・・・うっし! じゃあいくぞエルハ。ラスベガスに出発だ!」

「GOGOニャ!」

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