サイボーグ青年とミュータント男の娘の、どうにもならない煉獄アメリカ旅行記~腐れなかった金属は狂った神経に夢を見る
嘘宮ヨフカシ
第1話
「お前今あれを渡したのを見たな!」
僕はアンソニー・クライ。小学五年生。
麻薬の取引を目撃して銃を構えられているところだ。
ネバダ州は、麻薬の取引を、病院の鎮静剤などの一部例外を除き禁止している。
治安も別に悪い街じゃない。それでもこう言うやつはどうしもでてくる。
もちろんここで見たなどと言うわけにいかない。銃を向けられている以上見たなどと言ったら、引き金引かれてパーンで話が終わる。
「みっ、見てないです!」
「嘘つくじゃねえクソガキ! ぶち殺すぞ!」
「見ました! 正直に言ったから助けてください!」
「見られたならしょうがねえ。ぶち殺す」
「どっちにしてもぶち殺すんじゃないですか!」
どんどん顔から血が引いていく。頭の中では死神がにやにや微笑みながら僕に鎌をかけている。
――いやだ! 死にたくない! 神様どうか助けて!
そんな僕の小さなお願いは無視され、安全装置が解除された。そして引き金が引かれ――
「まあまあ、やめたほうがいいぜ。そんなもん子供に向けるのは」
引き金が引かれ、僕が脳漿をぶちまける寸前に彼は現れた。
細身ながら引き締まった体、高い身長。着ているのは黒色のTシャツにジーパン。胸にはなぜか、グレネードのピンのような物が付いている。
「なんだお前は! マフィアに喧嘩売ってんのか!」
「三下マフィアの何倍も大きい奴らに喧嘩を定期購入されているからな。在庫はいつも残している。お前にも格安で売ってやるよ」
「ふざけんな!」
そしてマフィアは彼の右腕に向けて銃を撃った。
――撃ったのだが・・・・・・
「なっ、なんで平気な顔して立ってやがる!」
銃弾は腕を貫通しなかった。男の人に当たった銃弾はそのまま跳弾してカエデの木に当たった。
「ガキみたいにギャーギャー言うなよ。本物のガキに笑われるぜ」
「だ、だま――」
マフィアが喋っている途中で、いきなり女の人が後ろからマフィアの頭にエルボーしてマフィアは気絶してしまった。
エルボーしたのは猫の耳のカチューシャをして、黒色のワンピースを着ている白い髪をした白人の可愛い人。この人の場合美人というより、可愛いと言ったほうが正しい。
「ニャハハ! この人子供みたいにギャーギャー言っていて、スゴークおかしいニャ!」
「期待どおりの反応をしてくれて助かったぜ」
そしてアクルと呼ばれている男の人は僕に近づいてきてこう言った。
「お前の家を教えてくれ。お前を助けたお礼に、お前の家から飯と情報をもらう。後こいつも連れて行っていいか」
男の人は女の人がロープで縛っているマフィアを指さしながら言った。
僕には「yes」以外の返答は許されてなかった。
「ここがお前の家か。ソコソコでかいな」
「ていうか、マフィアを、ボコボコにして家になんか連れてきたら・・・・・・」
「間違いなくこの家に、マフィアが群れで来るニャ。さっき襲撃したのはサーチライトを拠点にしているマフィアグループ、ロクム一味。こいつらの自慢は、サーチライトの中のことでわからないことと、仲間がやられたら絶対に許さないと言うやつらニャ」
「~~~~~っ! まずいじゃないですか!」
つまりすぐに僕たちのいる場所が特定されるし、一味全員で攻めてくる可能性があることだ。
僕が青い顔になっても、この人たちは全く気にせずに愉快そうにしている。
「何とかなるニャよ」
「そうそう。気にしてもしょうがない。第一、俺たちが助けなけりゃお前死んでいたわけだから、死にそうになっても恨まれる筋合い無いぞ」
そんな呑気なこと言いながら彼らは冷蔵庫にあるコーラを勝手に盗んで飲み始めた。男の人に至っては「ペプシより、ドクターペッパーのほうが好きなんだけどな」なんて図々しいこと言っている。
「ところであなたたちの名前は何ですか?」
「自己紹介してなかったっけ。俺の名前はアクル。ファミリーネームはない。アクルで終わりだ。得意なことは、声マネと大声だ」
僕は得意なことまで聞いてない。
「私の名前はエルハニャ。同じくエルハで終わりニャ。得意なことは運動ニャ。よろしくニャ」
「僕はアンソニー・クライと言う名前です。ところで何でエルハさんは語尾に『ニャ』をつけるんですか。」
「私の恋人。ノルイ君がそう設定したからニャ」
ノルイ君? 誰だよ、そいつ。
「まあ、簡単に言えばこいつは二重人格なんだ」
「二重人格!」
驚いた。まさか二重人格に会うことになるなんて。
いることは知っていたが3回ぐらい人生やりなおして、やっと出合うようなものだと思っていた。
「ところが、ここからがややこしくてこいつの主人格のノルイは今99・99%眠っていて、ほぼ死んでいるようなものらしい。で、死ぬ前に作った人格がこのエルハってわけだ」
確かにややこしい。それって一人格しかないんじゃないか? 本当に意味が分からない。こいつら頭おかしいんじゃないか?
「えっ待ってください。二重人格が恋人って言うのも、かなり訳が分からないんですが、恋人って言うことは、ノルイさんは男ですよね。でもエルハさんは女性じゃないですか」
「人格女っていうだけで主人格と体は男だよ。しかも、さらに追加情報でこいつはミュータントだ。人間には絶対できない動きができるんだぜ。全くわけわかんねえだろ」
確かに意味が分からない。何でいきなりミュータントが出てくるんだ。それにどうやってもエルハさんは男に見えないのだが――。
「じゃあアクルさんにも何かすごくややこしいものが・・・・・・」
「俺は体のほとんど金属やプラスチックでできているサイボーグっていうだけで全くややこしくないぜ。脳と内臓は自前だし」
キメラ、全身がサイボーグ。漫画にそんなのがあった気がする。
「いや待ってください、もしかしてその黒髪・・・・・・」
「かつらだよ。皮膚の色、目玉の色、髪の色は変え放題だ。表情は笑顔と無表情ぐらいだけどな。指紋も皮膚組織もないから、金庫とかにも忍び込み放題。生まれてこの方、金に困ったことはねえよ」
ゲラゲラとアクルさんは笑いながら、さりげなく脱法宣言をしている。
「何でお二人はミュータントとサイボーグに?」
そういうとアクルさんは無表情になった。
「ガキに話せる話じゃねえよ。俺だって全容を把握できているわけじゃないしな」
「その代わりに旅の目的を言うと、アクルは自分を作った研究者と会うため、私はノルイ君を生き返らせるために旅をしているニャ」
ふざけた話だ。ここまで荒唐無稽な話はないだろう。こいつら本当は精神異常者で、精神病院から逃げてきた患者なんじゃないか?
とりあえず前に本で読んだ心理テストをやってみよう。気が狂っていないなら引っ掛からないはずだ。
「そうですか。じゃあ――」
僕が言い終わる前に僕はアクルさんに押し倒された。
天地がひっくり返る。
そして次の瞬間、いきなり部屋に銃声音が響いた。
「・・・・・・やったか」
「やってないニャよ」
ゴキ、フライドチキンの骨を折るような音がした。この場合マフィアの下っ端の首の関節が外れる音だ。
「おいおい。こいつ気絶しちまったぞ。このぐらいのことで」
「まあまあ、撃たれたことなんてアメリカでもそうあるはずないニャ」
「そうだな・・・・・・。ところで敵の人数はどれぐらいだ」
「そうニャねー。だいたい80人程度だと思うニャ」
「お前なら余裕だろ」
「当たり前ニャ」
これではまるで喋っている間マフィアが、敵キャラお決まりの『会話中何一つ攻撃していない現象』のように見えるだろうが事実は全く違う。そこまでの優しさをマフィアは持っていない。
マフィアはエルハとアクルに弾幕を浴びせているのだが、エルハは弾をよけつつ、マフィアを倒しながらアクルと会話しているのだ。
アクルもアクルで、マフィアから撃たれまくっているが、金属の体で弾をはじきながらエルハと喋っている。アンソニーはアクルに守られている。
「あと、40人ぐらいだな。お前の性格なら、一気に始める頃だろ」
「もちろん行くニャ!」
とっくにアクルの言葉を無視しているエルハが体を前傾にして、構える。
「
縦横無尽に飛び回るエルハ。2秒かからず、30人以上のマフィアの腹が裂かれた。
「残り、10人ニャ!」
「ひ、怯むな! 撃て!」
エルハに乱射される銃。しかし銃弾を避けながら、エルハはマフィアに接近する。
「銃弾がつきた・・・・・・」
絶望的な言葉が次々と、マフィア内に充満する。
ザク、ザク。キャベツが切られるような音だが、この場合マフィアの体が斬られる音だ。
「うぅ、うおー!」
空の拳銃を振り回しながら、突撃するマフィア。
「残り3、いや2人ニャね」
ガシュ! アイスクリームをすくうような音がした。この場合、突撃していったマフィアの肩がドーナツのような見た目になった音だ。
「残り2人はどこニャ!」
「「動くな!」」
エルハが声のしたほうを見るとアクルに2人のマフィアが銃を向けていた。
「卑怯極まる奴ニャ。」
「あんなことできる奴とまともに正々堂々戦うなんてまねできるか! 銃弾をあんな風に無駄にしたのは初めてだぞ!」
「そうだ! だからこの弱そうな男を人質にする! 鋼のボディと言っても、観たところこいつは武器を持ってないからな」
「まあ私は動かないニャ。あとはアクル頑張ってニャ」
「OK」
そういうとアクルは右腕で指を鳴らした。
「アクルウェポン№1。5万
指から一瞬飛び散る閃光。倒れるマフィア。
「よし。マフィア一掃!」
覚醒する意識。あれ、銃弾で撃たれたはずが、なんともない・・・・・・。
「おーい起きたか? 起きたとして大丈夫か?」
アクルさんとエルハさんが、さすってくれている。
「はっ、はい!」
起きてみると家中の家具や雑貨がほとんど壊れている。しかも縄で縛られたマフィアが80人ぐらいいる。
「ならいいニャ。じゃ行こうニャ」
「えっ、ちょっと待ってください!」
「ん、なんだ?」
アクルさんが不思議そうな顔をする。
「どうして家がこんなことになっているんですか?!」
「三下マフィアが暴れたからだ」
アクルさんがさぞ当たり前そうに反応する。
「どうしてマフィアが捕まっているんですか?」
「俺たちが倒したからだよ。雑魚キャラとしては良いやつらだった。あと、俺たちが通報したから、そろそろ救急隊と警察が来るぞ」
「このぼろぼろの家はどうすれば・・・・・・」
「そうだな・・・・・・。ま、家の破損代はこれで勘弁しといてくれ」
アクルさんの指差したところを見ると、金の延べ
「純金だからな、それなりの値段にはなるだろ」
「・・・・・・」
絶句する僕。
「じゃあな。もう二度と、俺らみたいなやつに関わらない、カタギの道を進んでくれ」
「あ、じゃあ最後に質問です!」
「何ニャ?」
「何でエルハさんは猫耳カチューシャを付けているんですか」
そう聞くとエルハさんはにこにこしながら答えた。
「口癖に合わせた、キャラづけニャ」
そう言うと2人は車に乗ってどこかに去ってしまった。ぽつんと残された僕。
「・・・・・・この状況、ママとパパにどう説明しよう」
僕の目の前には銃で滅茶苦茶になった家と、金塊と、縄で縛られたマフィアがいた。
遠くから警察と救急隊のサイレンが聞こえて来た。
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