第2話 ドア男、ダンジョンの日常にふれる


 俺がボス部屋の扉に転生してから、数日が経った。


 サイクロプスは、大半の時間を玉座の上で過ごしている。


 というか、ほぼずっと居眠りしている。


 でっかい一つ目を閉じ、ぷくぅーと鼻ちょうちんを膨らませて、ガーガーいびきをかいている。爆睡やん。




 このダンジョンはまだ発見されていないのか、それともそこそこ難易度が高いのか、この階層まで冒険者が訪れることはなかった。


 かわりに、時折オーガやゴブリンなどといった魔物が、部屋の主に食べ物を届けに訪れる。


 サイクロプスは、巨体に見合った量の食事をとる。


 特に好きなのは、骨付き肉らしい。何の肉かは知らない。



 ちなみに、俺は扉に転生してから、食事をとらなくてもいい体になっている。


 だが、なぜか視覚と聴覚と嗅覚はあるので、食事の時間になっていい匂いが漂ってくると、割と地獄だ。


 腹は減らないし、そもそも動けないから食べられないんだが。

 でも肉食べたい!




 部屋の掃除を担当するのは、スライムだ。


 粘性のある身体で部屋中を這いずり回って、ゴミも汚れも回収していく。


 ただし、スライムは壁を這うことはできるが、天井に張り付くのは難しいらしかった。


 そのため、高いところの掃除はハーピーが担当している。



 大変そうなのが、玉座の掃除だ。


 なんせ、部屋の主がずぼらでほとんど玉座から動かないのである。


「あるじー邪魔ー」


「プルプルッ」


「あー、今どくよ。ふあ、眠う」


 サイクロプスは、ハーピーとスライムに促されて渋々腰を上げた。


 そのまま石のテーブルに乗った骨付き肉を手に取ると、豪快に頬張る。


「あるじー床にぼろぼろこぼしてるー。立ち食いするからー」


「コポッ、ポヨンポヨン」


「あー、ほらー。あるじの食べこぼしで、またスラりんが太ったー」


「す、すまん」


 ボスも、案外肩身が狭そうである。


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