転生したらドアだったんだが
矢口愛留
第1話 ドア男、転生する
気がつけば、ボス部屋の扉に転生していた。
何を言ってるか分からないと思うが、大丈夫、俺にもよく分からない。
目が覚めたら、俺は光も差さぬダンジョンの最下層にいたのだ。
(ここは……とにかく現状を把握しないと)
そう思って体を動かそうとするが、全く動くことができない。
(ど、どうなってるんだ。おーい、誰かっ)
試しに助けを呼んでみようとしても、ギィィ、と軋むような音が鳴るだけで、声らしい声は出なかった。
「んー? 誰か来たのかぁー?」
(だ、誰かいるのか?)
ギィ。ギィ……。
俺の言葉は声にならず、扉の軋む音だけが響く。
声の主を探すが、どこにも見当たらない。
目の前の廊下は真っ暗でほとんど見えないし、閉ざされた空間だからか、音が反響して、どちらから聞こえるのか判別がつかないのだ。
「なんだあ。隙間風かあ? それにしても立て付けの悪い扉だなあ、こいつめ」
ドカン!
(うわっ!? 痛え)
急に背後から衝撃を受けて、俺は目を白黒させた。
(ん? ええ!?)
俺が目を開けると、そこには、大きな棍棒を持った一つ目の巨人――サイクロプスがいたのだった。
周りの景色も、先程とは一変して、紫や緑の薄明かりに照らされた小部屋に変わっていた。
(うえぇええぇえ!?)
ギギッギギギィ!!
「うるせえなあ。人間どもが来たわけでもないのに、普段からこんなにうるさいんじゃあ昼寝もできやしねえ」
サイクロプスは棍棒を床に置くと、俺に向かってドシン、と両手で掌底をかましてきた。
まるで立て付けの悪い扉を直すような仕草だ。
強引に体が揺さぶられて気分が悪いが、痛くはない。
「もうギィギィ言うんじゃねえぞ」
そう言ってサイクロプスは、ズンズンと足音を響かせながら部屋の中央にある石の玉座に向かっていき、重たい体をそこに下ろした。
「ふぁーあ。もうひと眠りすっかあ」
サイクロプスは、すぐに
*
俺は、それから半日ほどかけて、現状把握につとめることにした。
まず、今までの経緯だ。
・俺は、動くことも話すこともできない。何かアクションを起こそうとしたら、ギィギィと軋むような音が出る。
・目(という器官が今の俺に存在するかは不明だが)を閉じて(この表現が正しいか以下略)から再び開く(この略)と、視点が切り替わる。一つはサイクロプスの小部屋、もう一つは真っ暗な廊下。
・サイクロプスは、俺がギィギィ騒がなければ、近づいてくるどころかこちらに視線を向けることもない。
・廊下の方からは、物音一つしない。だが、サイクロプスの言葉によると、廊下側から人間が来ることがあるらしい。
つまり、だ。
俺の出した結論はこうだ。
俺、ボス部屋の扉じゃん!!!!!!
というわけで、俺は訳の分からん第二の人生(ドア生?)を歩むことになったのだった。
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