第2話 オフ会 1
自殺オフ会当日の朝を迎えた。
この日は日曜だ。
日曜は、翌日から平日が始まる憂鬱さの影響で自殺者が増える曜日であるらしい。
そんな日をオフ会当日に選ぶ辺り、主催者は多分、分かっている人だ。
僕は柚季への恨み言を綴った遺書と、家族への謝罪を綴った遺書を書き残して、アパートを出た。
すがすがしい青空だ。
死ぬにはちょうどいい日なのかもしれない。
オフ会の会場は、都内のカラオケボックスだった。
普通のオフ会かよ、と言いたくなってしまうが、まずは一旦そこで合流し、のちに然るべきところで練炭自殺をしようって話になっている。主催者がレンタカーかなんかを用意して、山奥に移動してから、自殺を決行するんだとか。
電車で都内に移動していると、柚季からのLINEが届いた。
『今何してんの? 暇だから遊びに行ってもいい?』
……柚季はあれからも、まだ普通に僕のカノジョを続けている。裏で浮気をしているくせに、何食わぬ顔でカノジョとして僕に寄り添い続けている。
最近は髪が茶髪から金髪になったり、ピアスを開けたりして、だんだんと派手さが増してきていた。多分、大学生の浮気相手に合わせて柚季なりに大人を目指した結果なんだと思う。
先日性行為をしたときも、ピル飲み始めたからナマでいいよ? なんて言っていた。浮気相手にそそのかされたんだろう。僕はそれとなく苦言を呈して普通にゴムを使った。なんでだろう。恨んでいるんだからナマでしてやれば良かったのに。
『暇じゃない。今日は無理。またな』
柚季にはそんな返信を送っておいた。
またなと言ったが、きっと次はない。
なんせ僕は恨みを残して今日死ぬのだから。
※
やがて集合場所のカラオケボックスにたどり着いた。
まだ店の外。
若干緊張し始めている。
今日は僕含めて5人が集まることになっているらしい。
相手の顔や性別は不明。
今日たまたま集まって僕らはたまたま一緒に死ぬ。
ふぅ、と一呼吸してから、僕はカラオケボックスに足を踏み込ませた。
主催者とのグループLINEで部屋を教えてもらい、その場に向かう。
その前にトイレを済ませておこうと思い、一旦トイレを目指した。
すると女子トイレとの別れ道に差し掛かったところで、女子トイレから1人の女性が出てきてすれ違う。
――と同時に、僕は既視感じみた何かに包み込まれた。
状況にデジャヴを感じたんじゃなくて、今出てきた女性の方に、だ。
振り返ってその人を確認する。
たなびく長い黒髪。
綺麗過ぎて廊下の明かりを反射しているその黒髪に僕は再び既視感。
あぁやっぱりだ……僕はこの後ろ姿を知っている。
私服だから違和感があるけど、ウチの制服を想像して重ね合わせれば見間違えようがない。
「会長」
僕は呼びかけるようにそう呟く。
会長とは、生徒会長の意だ。
すると、僕の言葉に後ろ髪を引っ張られたかのように、彼女が足を止めて振り返る。
そして振り返った彼女は、大きく目を見開いていた。
「え……霧島くん?」
「やっぱり……会長だったんですね」
僕は学校では生徒会に所属している。書記としてだ。
そしてそんな生徒会で長を務めているのが、なぜかこんなところに居た3年生の
長い黒髪の、超が付くほどの美少女。
スタイルも良くて、品行方正の、文句の付けようがない優等生。
そんな会長が、僕らの学区から遠く離れたこんなところに居るのはなぜだ。
誰かとの遊びに? もしかして彼氏とか?
「霧島くん……こんなところで何をしているの?」
会長も僕と同じ疑問を持ったらしい。
僕はなんと答えるべきか迷う。
自殺オフ会に来てますとは言えない。
「いや、その……友達と遊びに来てるんですよ……」
「……あぁ、そうなのね」
「……会長こそ、ここで何を?」
「あ、私も……友達とちょっとね……」
彼氏ではないらしい。
僕はなぜかホッとしていた。
「じゃあごめんね霧島くん……もう行くわ。さようなら……」
会長の別れの挨拶は、なんだか重苦しかった。死にゆく人のようだ。
まぁ、本当に死にゆくのは僕の方だ。
だから僕も「さようなら」と告げる。
もう二度と会うことはないだろう。
どこか感傷に浸りながらトイレを済ませ、いよいよ自殺オフ会の参加者が集う個室へと向かった。
ドアの前で足を止めて、一旦深呼吸。
それからノブを握って押し開いた直後に、僕以外の4人が揃っていることを察した。
もちろん見知らぬ顔ばかり――そう思っていた僕の心はバグったような衝撃に包まれた。
なぜなら――
「え……会長……?」
「――っ、き、霧島くん……?」
さっき今生の別れを果たしたはずの会長が、その場に普通に座っていたからだ。
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