第3話 オフ会 2
「ん? なに? 知り合いなのお二人さん?」
集合場所の個室にて、僕は再び会長との対面を果たしてしまった。
そんな中、壁際から楽しそうな声が聞こえてきた。
ドレッドヘアの、若い男だった。
壁に寄りかかりながら僕らを一瞥し、痩せこけた頬をニッと吊り上げている。
「いいじゃん。死ぬ間際に知り合いが居るっつーのは、心強いだろうぜ」
そう言ってドレッドヘアの男は手中のドリンクをグビグビと煽った。
「ぷはぁ。――あ、ちなみに俺、主催者のナハラね。今日はよろしく」
この人が主催者か……。
僕は警戒するようにナハラさんを眺めつつ、会長の隣に腰を下ろした。
「霧島くん……あなたなんでこのオフ会に……」
「か、会長こそ、何やってるんですか……」
成績優秀。
品行方正。
男子が羨む偶像。
女子が憧れる麗人。
高嶺の花を体現しているそんな会長が、なんで自殺オフ会なんかに……。
「で、今日なんだけどさぁ、このあともう俺が借りたレンタカーで山の方まで行って、なんか最期に綺麗な景色でも見てみんなで練炭焚こうっつーのが今後のスケジュールなんでよろしくぅー」
ナハラさんが予定を説明している。
僕と会長、ナハラさん以外の残り2人は、太った男と中年の細いおじさんだった。
やけに明るいナハラさんを除けば、全員が全員ろくでもない表情だ。
生気がない。暗い。鬱々としている。
さっきトイレの鏡で見たら僕もそうだったし、会長も綺麗だけどやっぱり暗い。
「そんじゃ、全員揃ったわけだし出発するけど、歌いたいヤツがもし居るなら聴いてやんぜ? さあどうする?」
ナハラさんの問いかけには誰もうんともすんとも言わなかった。
「オーケーオーケー。そんな気分じゃねえわな。じゃあみんなそれぞれ背負うもん背負ったまま死にに行こうぜ」
ナハラさんの音頭で僕らは動き出した。
ぞろぞろと部屋を出て、カラオケをあとにする。
近くの駐車場に停まっていたワゴン車のもとに案内されて、ナハラさんが運転席へ。
僕ら4人は後部座席に乗り込んで好き勝手に場所を陣取った。
僕は奥の座席に会長と隣り合って座っている。
会長の方から隣に来た感じだった。
座席の一角には普通に練炭が準備されていてビビったけど……そうだよな、僕らは自殺しに行くんだよな……。
「じゃあ出発しんこー。なすのおしんこー」
ナハラさんのそんな言葉と一緒に車が動き出す。
車内に楽しい雰囲気はまったくない。
無言で沈鬱。
葬式の方がまだ賑わっているんじゃないかと思えるほどだ。
「霧島くん……あなた本当にどうして?」
そんな中、会長の瞳が静かに僕を捉えてきた。
さっきの会話の続きだろうか。
「どうして自殺オフ会なんかに来たのよ……」
「そりゃ色々と……ありまして」
「色々って?」
「それは――」
「――うるせえんだよガキども仲良く喋ってんじゃねえよ!!」
そのとき、僕らの前のシートに座っている太った男が振り返って怒鳴ってきた。ビクッとして会話を途絶えさせた僕と会長を睨み付ける形で、太った男が言葉を続けてくる。
「こんな場所で仲良しこよしやってんじゃねえぞクソが!! イラつくぜ!! オレぁ人生上手く行ってなくて低収入で独身で自分が情けねえのがイヤでよぉっ、街中歩くたびに視界に入るカップルや家族が鬱陶しくて鬱陶しくて劣等感感じちまってよぉっ、それがイヤでイヤでさっさと死のうとしてんだ!! 男女で乳繰り合えるくせに死のうとしてるとかオレを舐め腐ってんのかお前らぁっ!? あぁんっ!?」
やべえ……こういう人かよこいつ……。
「クッソ目障りなんだわテメエら!! あぁクソッ!! どうせ死ぬならオレがぶっ殺してやろうかクソガキ!! そっちの姉ちゃんはレイプでよぉ!! なぁっ!?」
「や、やめないか……」
不意に太った男をいさめ始めたのは、太った男の隣に座っている細身のおじさんだった。
「静かにしてくれ……最期の時間くらい静かに過ごしたいんだ……もう怒鳴り声はたくさんなんだよ……上司のハラスメントで懲り懲りだ……」
「オレだって怒鳴りたくて怒鳴ってるわけじゃねえんだわ!! ちっ……おいテメエら、今回は見逃してやっけど次仲良く喋ったら殴り飛ばしてやっからな? 覚悟しとけクソがっ」
そう言われて、僕と会長は満足に喋れない状況に追い込まれる。
しかし――
「うーん、そういう自分ルールの制定やめよっかぁ」
運転席のナハラさんが、バックミラー越しにこちらを捉えてそう言った。
「……あ?」
「知り合いで偶然出会ったからにはさぁ、そこの2人にはそりゃあ積もる話もあるんだろうし、喋ることを制限させんのは可哀想じゃん? やめてくれる? 主催者は俺だから、俺がルールなんだよね。――おーい後ろの2人、てなわけで太っちょの決まり事は守んなくていいから普通に喋っていいぜ」
「テメエ……」
「あのさぁ太っちょ、そんなに怒るバイタリティあるなら死のうとすんなよ。太っちょの存在萎えるわ。自殺オフにふさわしくない」
「う、うっせえな……クソ、黙りゃあいいんだろ黙りゃあ……」
太っちょはナハラさんにたしなめられ、大人しくなった。
ありがとうナハラさん、って感じだけど……それでもやっぱり僕は太っちょが気になってまともに会話をする気が起きない。
しかしそのとき会長に――
「(霧島くん……仕方ないからLINEでやり取りしましょう)」
と小声で告げられ、僕はポンと膝を叩いた。
そうだよ、その手があった。
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