第37話 密会
夕日は沈み、青く煌めく満月が数多の星と共に世界を優しく照らす光を放つ夜空。
その下では穏やかさとは無縁の豪華絢爛を極めた宴が始まろうとしていた。
宮殿に位置するダンスホールを兼ねたエリアでの立食パーティー。
数多の使用人が立ち並ぶまるで国賓級の扱いを受けるソウジ達だが誰よりも高待遇に食いついたのはフレイだった。
「おぉッ!? 肉! 肉! ここも肉!」
色鮮やかな野菜に秀逸な魚料理、そして彼女の目を光らす分厚いステーキの山。
内に眠る食欲を抑えられず涎を拭いながら目を輝かせるフレイの姿はまさに犬。
錯覚で耳と尻尾が見えるかのよう、品性を保てと注意するセラフの言葉を右から左へ受け流し料理をバクつく獣の光景にエルフの料理人達も唖然を浮かべざるを得ない。
「マスターマスターこの肉美味いよ! 早く食べないと私が全部食べちゃうよ!」
「お前みたいに爆食じゃねぇんだよ。少しだけ残して後は好きにしてろ」
不安定な旅路故に食にありつきたい欲が全くないわけではないがそれ以上に彼の思考は別へと向いていた。
持ち前のコミュニケーションの高さ、また性格から目立たながちだがセラフとはまた別の整えられた美少女の顔立ち。
良くも悪くも自分の世界を有し、パーティ会場を支配するフレイとは裏腹にソウジは酒池肉林の騒がしい場を離れていく。
宮殿の外廊下へと出ると満天の星空と安らかな静寂が彼を出迎えた。
(どうするべきだ……ユズはこういう時どうするのだろう)
妖精王からの誘惑。
利害の一致からなる協定関係の提案は今に至るまで常にソウジの思考を蝕んでいた。
甘美と危険が混ざり合うこのグランドシティ支配者からの誘いは想定外の展開であり、大いなる分岐点に立たされている事実に頭を悩ます。
多少貫禄はつこうが所詮は闘いとは無縁である妄想好きの高校生、未成熟の彼がそう淡々と決断を下すことは出来ない。
こういう場面、自分だけではどうしようもない時、彼の心の支えで常にあったのは幼馴染のユズだ。
フレイ、セラフが創造されるまではソウジの精神的支柱を担っており、彼女の真っ直ぐさと潔さに深く影響されている。
だからこそ、こうして迷った時はイマジナリーの如くユズを生み出して彼女ならどうするかと妄想するのが彼の癖だった。
「……クッ、駄目だリアリティが出ない。やはり自分でやるのが一番か」
しかしその方法は元の世界だからこそ通用した妄想でしかない。
魔法も龍も亜人もいるこの異世界、何もかもがイレギュラーな空間だからこそどれだけ妄想を繰り返してもユズの理想像をソウジは作り出すことは出来なかった。
何度結論付けても「果たしてユズがそんなことを言うのか?」と疑念が募り、本能が拒否することで決意には繋がらない。
(どの道、パラダイム・ロストは俺達が最速で見つけなきゃならない、全員で元の世界に帰るために。俺は誰を信じるべきだ?)
繰り返される自問自答。
決して簡単ではない決断にドリンクを片手に虚ろな瞳で夜空を見上げようとした矢先。
「英雄は静寂の方が好みなのかな?」
後方から響き渡る低音の声色。
咄嗟に振り返ったソウジの視界に映ったのはこの混乱を招いた張本人でもある妖精王、サーレストの姿だった。
こちらを歪んでいると称した存在は部下は引き連れていないものの、たった一人でもその雰囲気は化け物に近い。
「ッ……何故ここに」
「私はこの国の長だ。何処にいようが可笑しいことでもないだろう? そういえば君の隣にいた麗しきメイドの姿が見えないが?」
「えっ? あぁ……セラフなら観光を行いたいと歓楽街に足を運んでいます」
最もな正論を返したサーレストは夜風で髪を靡かせながらソウジの隣へと並ぶ。
男同士の密接、ましてや相手は大国の長に位置する男となればただ彼の心に宿るのは居心地の悪い緊張感のみ。
これでまだ相手が所謂男の娘のような容姿であるなら少しは気も休まるが実態は自身の身長を有に超える筋肉質の男だ。
「どうだい? 我がグランドシティが誇る高品質の食事は。魔法技術によってこの食糧難に陥りやすい世界でも安定かつ安全な代物を永久機関で賄える」
「その言葉通りの食事でしたよ。フレイ、あぁあの赤髪の闘士は今頃ドン引きさせる程に貪り食っていますよ」
「ハッハッハッ! それは結構結構」
味は繊細であり、うるさくもある日本生まれのソウジが手放しに称賛するのが何より品質の高さを物語っている。
まぁ美味だろうとまともに幸福感を味わえない今の状況では旨かろうが不味かろうが対して変わらないのだが。
取ってつけた談笑から二人の会話は暫く続いたがやがては本題へと移りゆく。
「そういえば名を聞いていなかったな」
「笛吹ソウジです、ソウジで構いません」
「ソウジ君か……少し場所を変えないか?」
「えっ?」
「ここで話を続けていてもつまらないだろう。来たまえ」
まさかリンチにされるのではないか。
あらゆる不安が過り、創生の奇書を握る手が強くなるソウジは恐る恐る最大限の警戒で妖精王の後を追っていく。
少しでも異変を感じたら真っ先に対抗しようと考えていた彼だが数多の的が並べられた修練場のような場所であった。
まさにゲームなどではよく見るであろう広大な敷地を利用した翡翠色を基調とする光景にソウジは全方位を見回す。
「ここは……修練場?」
「異界の者だと言うのによく察したな」
軽く褒めの言葉を口にしたサーレストは振り返ったソウジへと一つの弓を投げ渡す。
慌ててキャッチし、じっくりと眺めながら疑問符を浮かべるソウジへとサーレストは説明を付け加えた。
「身体を動かす方が腹を割って話せるというものだ。我々はそう信じている」
「俺……やったことないですけど?」
「出来るさ、君なら」
まるで全てを見透かしたかのような笑みを浮かべるサーレスト。
拒否する雰囲気ではない状況にソウジは渋々と弓を手に取ると木製の的へと目掛けて構えてみせる。
取ってつけた毛が生えたような弓矢を射抜く一連の流れだが思いの外あった予期せぬ才能は直線に飛ぶ矢を的へと突き刺した。
カッコいいからとよく三日坊主の見様見真似を繰り返していた故か、及第点はある技術にサーレストを微笑を浮かべると対抗するように矢を射ていく。
天才かと自惚れかけていた心は全てがど真ん中に命中する妖精王の実力によっていとも簡単に打ち砕かれるのだった。
「この世は絶滅戦争と言うべきか、互いが互いを芯から滅び尽くそうと躍起になっている。滑稽なことに種としての目的が存続させる為にではなく殲滅させる為だ」
「未熟者ですがこの世界がかなり不味いのは俺も理解してますよ」
「君は異界から召喚された力を持つとして一方的に存在、この理不尽など直ぐにも終わらせ本来の運命へと戻りたくはないか? 君達は紛れもない被害者なのだから」
「……戻りたいですよ、こんなフザけた事に巻き込まれるのは御免です。でもそう単純な事とも行かなくなった。それにアレを潰さなきゃまともに帰れる保証なんて」
「パラダイム・ロストか」
サーレストの言葉に男の会話を交えながら矢を射ていたソウジの手が止まる。
「種族の根絶、いや世の理すらも変える可能性を持つ古の決戦兵器、我々パプレリス族でもその脅威は底しれない」
「だから第三の道を選ぶと?」
「魔王の意向はパラダイム・ロストの獲得、我らにも捜索要請が出ている。だが君が一筋縄ではないように我らもただ盲目として魔王に従ってはいない」
深部へと迫れば迫るほどサーレストの矢を射る力は段々とギアが上がり始め、的は既に数多の矢が突き刺さっていた。
「我らは独自にこのパラダイム・ロストを手に入れ中立を宣言する。さすれば双方共に抑止力を持つグランドシティを蔑ろには出来なくなるだろう」
「確かに抑止力があれば平和になるってのは俺が元いた世界も同じです、しかし……その為に無害の人達を供物にしたのは」
「より大勢の命を守る為だ、大義とは常に少数の犠牲によって成り立つ。そして我々は同じくイレギュラーの立場にいる君達と手を組みたいのだよ」
妖精王の考えはやり方に疑問はあれどこちらと酷似した方法と言えるだろう。
パラダイム・ロストの保持による抑止、少なくとも人類側の大国ハリエスなどは幾ら壮介達英雄を率いていようと動向を変えざるを得ない立場に置かれる。
なんやかんや相反する部分はあれど目指すべき道はサーレストと同じである事実には変わりはない。
「どうだ? イレギュラー同士、共に手を取り合うのが得策ではないだろうか? これは双方共に有益な事だと私は考えている」
改めて差し出された妖精王の手にソウジは思考を巡らせ始める。
マレン王国やフェリス達とは違い、自らこの天地戦に参加し、尚且つ第三の道として新たな可能性を模索する国家。
更にはこちらが勧誘されている立場故に罪悪感を感じる必要性は一つもなく、結ばれれば大きな後ろ盾が付く。
決して悪い提案ではない……寧ろこれからの旅路がより良くなる可能性を秘めている。
「……俺は、それでも」
だが無害の存在を供物にしようとする蛮行を大義と称するサーレストへの不信感を拭うことは出来ない。
必死に訴えている本能に従い、彼の大義を拒絶する意味を持つ言葉を真っ直ぐに放とうとした矢先だった。
「あっれ〜? そいつあのド変態ブチのめしたガキじゃん」
翡翠と漆黒が混じり合う鎧に身を包んだツインテールを靡かす存在が多数の部下を引き連れ現れたのは。
二人の会話に割って入るようにその美女は何の恐れもなくソウジへと介入していく。
「セイファ、今はこのソウジ君との談笑の時間だ。余計な事はしないで貰いたい」
「えぇ談笑ならウチも入っていいんじゃないの妖精王? しっかしアヴァリスも言ってたけどミルク臭いガキだね〜こんなのを英雄扱いとか人間って頭おかしいの?」
セイファと呼ばれた一発目から直球の不敬をぶん投げてくる騎士はマジマジと困惑するソウジも貶すように凝視する。
所々、フレイと同じ戦闘狂の匂いを漂わせており、喧嘩っ早い性格だと察するのはソウジにとって容易であった。
「失礼、こちらはセイファ・アズバルト。アヴァリスと同じメルクレス騎士団の幹部に位置する翡翠の騎士の異名を持つ存在だ。少し理性がないのは許してくれ」
ご丁寧にサーレストからは紹介の言葉が放たれるがお構いなしに理性がないと評したに相応しい態度を取り続ける。
小柄な身長かつベビーフェイスながら見上げる形で煽っていく様は下品な言葉で言えばメスガキが最も適しているだろう。
「てかさ、こいつとあの女達がド変態倒したのはマジな話なわけ? ウチとしては偶然ぶっ飛ばしたってしか理解できないけどね。こんな生ぬるのメンタルに毛が生えた程度の面しか出来ない奴とか、アッハハハハッ!」
彼女の爆笑に呼応するように部下達もソウジの顔を見るや否や、口角を上げ嘲笑を意味する罵倒を投げ掛けていく。
妖精王が異端なだけで元来人間を敵視し、見下しているパプレリス族ならばこの反応が当然といえば当然だ。
更にはこういう恐れ知らずのタイプは余計に例え目上の存在がいようと罵倒を止めることはしないだろう。
内心「面倒なのに絡まれた……」と顔には出さずとも呆れた心情を抱き始めソウジは場を切り抜けようと言葉を並べ始めていく。
ガチャ__。
「ん?」
だが穏便に済ませようとした彼の努力は銃を意味する音と共に終わりを告げた。
一度外した視線を戻すとセイファの側頭部には髪をめり込む形で銃口が向かれている。
黒鉄のリボルバー持つ長身の麗しき存在は無表情ながら不服な面持ちを浮かべ、冷徹な瞳で見下ろすのだった。
「はっ……? なっ何だお前ッ!?」
ワンテンポ遅れてセイファは自身の身に起きた異変に気付き、慌てて距離を取る。
油断するような空気とはいえ、誰にも気付かれずにゼロ距離にまで達していたメイドに一斉に部下達は抜剣を行う。
数的不利の状況だが変わらずソウジが創造したナルシズムの頼れる熾天使は彼を守護する形で立ち塞がるのだった。
銃を持つ手の反対には観光を楽しんだ事を示しているティーポットが入った手揚げの紙袋を握り締めている。
「ッ……セラフ」
「観光終わりにまさかこんな三文役者の劇を観る羽目になるとは」
暗にお前達は三流以下の存在だと皮肉が込められたセラフの発言にセイファを含め騎士達は当然のように怒髪冠を衝く。
対する熾天使も好き放題に創造主を罵られた事実を良くは思っておらず、今にも発砲しそうな危険さを孕んでいた。
「三文役者だと……? 貴様我らを舐めてるのかッ!? これ以上フザけた態度を取り続けるのならば殺すぞッ!」
「殺す……遂行どころか実行も出来ていない事を威圧文句に使うのは如何なものかと。教養の足りなさが見て取れます」
一人の部下から放たれた脅迫にも彼女にとっては鼻で笑う材料にしかならない。
「お前は馬鹿か?」と言わんばかりに自らの側頭部をトントンと叩き更に煽りを入れるセラフに相手の怒りは臨界点を超える。
一切引かない態度に言葉を詰まらせる者も現れる中、セイファは迷いなく抜剣するとセラフへと剣先を殺意を込めて差し向けた。
「へぇ……どうやらその白い肌を傷つけてやらないと理解出来ないみたいだねェッ!」
高性能なシリコンで形成される頬へと激情と共にセイファは迷いなく振り下ろそうとするが既の所で咎めの相殺が繰り出される。
行使したのはサーレストであり、彼女の剣筋を見切った動きで引き起こされようとしていた惨劇を事前に防いだ。
「戯れもここまでだセイファ」
「ちょ、何で止めんだよ妖精王ッ!? そもそもこんな何処の馬の骨かも分からない人間のクソ共に媚びへつらう必要なんて私達には微塵もッ! つーかこいつらが倒した奴らってただの雑魚ばっかじゃん!」
「ここまでと言っている、聞こえたはずだ」
「……チッ、うっざ」
流石にこれ以上は愚行だと判断したセイファは納剣を行うと殺意の形相は変わらずに後方へと下がりゆく。
身の毛のよだつ一触即発は避けれたと安堵を抱き始めるソウジだが一連の流れにサーレストは何かを考える素振りを見せる。
数秒の熟考の末に、彼は不敵な笑みを浮かべると不服そうな騎士達を尻目にソウジ達へと新たな言葉を紡ぐ。
「部下が不敬を働いたな、しかしセイファの言い分にも一理はあると考える」
「はっ?」
「君達を招いたのは私の独断だ、それで済むかと考えていたが予想以上に周囲は君達への不服を抱いている、ならばここにいる騎士達を納得させる方法と行こうではないか」
「納得させる方法……?」
「明日、そちらの淑女とセイファによる一対一の模擬戦を行いたい。幹部と対等なる力を有していると証明したのならば騎士団も苦言を呈することはないだろう」
突如提案された激情なる翡翠の騎士と完璧淑女なる熾天使メイドの模擬戦。
指名を意味する鋭い目線はセラフに向けられており、予期せぬ展開はソウジ達へと若干の戸惑いを浮かばせていく。
だがそれでこの要らぬ蟠りを排除出来るのであればとセラフは力強い瞳をソウジに送り、彼もまた彼女の意思を尊重する。
「そこの騎士様を叩きのめせばこの下らない煽りも収まる、そう解釈しても?」
「構わないさ、確かに君達が相まみえたのは騎士団の中でも一般に位置する者達、私としても自らの見定めが正しかったのかを今一度確認しておきたい。この判断に異論はあるかセイファ?」
「ハッ……ハハッ、アッハハッ! いいねぇ妖精王だからアンタを好きなんだよッ! その生意気な顔を土まみれに出来るならウチは幾らでも戦いを望むッ!」
「皮肉にならないと良いですね」
「あっ? ホント減らない口だな」
「生憎、減らない程に快弁なお口なので」
互いにやる気は溢れており、既に相反する二人の間には遮ることの出来ない火花が激しく散っていく。
この場に喧嘩っ早い戦闘狂のフレイがいないことが不幸中の幸いだと言うべきか。
闘争心を剥き出しにするものの、これ以上のヒートアップをすることはなかった。
「君も良いな? ソウジ君、話はまた後になってしまうが」
「……えぇ、それで満足するのならば。俺達だって罵られていい気分にはならない」
「結構結構! 手筈はアヴァリスなどに伝えておく、双方共に悔いのないよう全力で挑むことをここに命じよう」
談笑から始まった交渉は予期せぬ形の連続によって殺意に塗れる模擬戦の開幕へと変貌を遂げていく。
最後まで何処かまるで読めないきな臭い表情を浮かべながらサーレストは部下を引き連れその場を立ち去るのであった。
ようやく緊張から解き放たれた事実と新たに始まろうとする闘争の双璧にソウジは深いため息を漏らす。
「申し訳ごさいません我が主人、予定調和にない展開と化してしまい、我ながら感情的なパーフェクトではない判断を」
「いや、アレはどの道、ここじゃなくてもこういう事になっていたさ、寧ろ助け舟を出してくれて感謝してるよ。それより大丈夫なのか? 相手は妖精王の幹部だが」
「誰に向かってその発言を行っているのかご理解なされていますか?」
「……悪い、愚問だな」
「愚問の極みですよ」
心配性故に放たれた気遣いの言葉もセラフにとっては侮辱にしかならず、彼女の力強い瞳にソウジは自らを戒めた。
表には出さないが彼女もかなりの自信家であると同時に負けず嫌い、端から負けを危惧する発言など言語道断にも相応しい。
「ところで我が主人、これを」
「ん?」
冷徹な熾天使の内に眠る確かな熱さを再認識しているとセラフは唐突に自らの下瞼付近を軽快に叩く。
瞬間、彼女の蒼き双眼には機械的な文字列が高速で流れ始めるとソウジの目の前には鮮明なビジョンが表示された。
「おわっ!? な、何……?」
「調査……観光を兼ねて少しばかり踏み込んだ事を独自に。コインを利用し、自動認識及び飛行機能を持つ超小型カメラをグランドシティ全体に散布致しました、私の視覚に直結するプログラムで」
「お前そんな機能あったか!? 俺そんなの付けた覚えないんだがッ!?」
「私はパーフェクトです、我が主人の想定を超えるのは造作もないこと。まぁ今そこは重要視すべき場所ではありません」
指をスライドするに呼応して投影されている写真も右から左へと高速で流れていく。
風景写真、歓楽街、人々の戯れ、グランドシティという国家を表す生々しい写真達が並ぶが今それはどうでもよいだろう。
該当する写真にて指を止めたセラフだがその光景はソウジへも衝撃を与えていく。
思わず目を丸くした彼はこの美しく栄化を極める天空の理想郷の影に潜む実態にあらゆる感情が混じり合っていった。
「これはッ……!?」
「言葉で明かさずとも見るだけで薄々察することは可能でしょう、この国の実態を。どう判断するかは我が主人の意のままに」
まるで鈍器で叩かれたような衝撃、薄々と感じていた疑念は遂に確信へと変貌を遂げ、同時に怒りを抱かせていく。
この楽園は歪みを極める決定的な光景の数々にソウジのあらゆる方向に迷っていた心は即座に一つの道へと統一される。
「グランドシティ……やはりここは」
満天の星が煌めく夜空。
だが、今この状況となっては慈愛と狂気が混じっていると称された彼の動乱する心を癒す機能を全く有していない。
虚飾に満たされる天国の地でソウジは改めて拭えることのない世に蔓延る混沌の存在へと眼を飛ばし、明日に控える模擬戦へとその意識は向けられていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます