第24話 予期せぬ悪夢
「待ってろ、俺が話をつけてくる」
圧倒される英雄達を横目にハレアは大門に位置する複数の門番兵へと歩み寄り、会話を交わす。
遠目から見ても何処か相手は動揺しているようにも思えたが数分の末に閉められていた正門の扉は厳かに開かれゆく。
ハレアの合図に壮介達も恐る恐る中立を誇示する国家へと歩を進めるのだった。
「ようこそ我がマレン王国へおいでになられました英雄様、私はマレン王国親衛隊隊長ヴォルハ・カリム、以後お見知り置きを」
「これはご丁寧に、こちらはハリエス王国騎士団長ハレア・エクレクス、随分と若いな」
「国を守り、上に立つ立場に若いも老いも関係ありませんよ」
「ハハハッ! 戦士として良い心掛けだ、気に入ったぞヴォルハ・カリム親衛隊隊長」
開かれた大門から代表として最初に歓迎の意を述べたのは若年ながら国家防衛を任される隊長、ヴォルハ・カリムだった。
待ち望んでいたかのような表情で敬意を示す礼を丁重に行うとハレアとの会話の後に壮介達を王宮へと誘導していく。
「おいおいスゲェな、人間の中に化け物も混じっているぞ」
「化け物って言い方は止めなさいよ!」
「うぇ〜色んなのが集まってんだね〜確かにこれは中立国家ってやつだ」
街に入るや否や歩みながら左右から次々と視界に映る人間社会に存在する亜人族を含む魔族の姿に英雄達は興味津々だった。
エルフにドワーフ等々、危険性の高い魔族を目にし続けてきたからこそ目の前に広がる営みの光景は非常に異質さを極めている。
多様さとこの世界の戦いを放棄した閉鎖感が混じり合う空気を堪能しつつ、一行はカリムの誘導により円形の王宮へと辿り着く。
「此方へ、只今女性陛下をお呼び致します」
マレン王国謁見の間。
ハリエスに比べれば遥かに質素だがそれでも豪華絢爛な佇まいを醸し出している。
カーペットが敷かれた幅広の広間に一行は今か今かと任務へ赴いた者達はその時を心待ちにしていた。
幾ら小国だろうと相手は一国の長、己等を囲うように存在する重鎮達の威圧も重なり、空気は段々と緊迫に包まれていく。
この沈黙の空気に耐えられなかった勇斗は堪らず壮介へと小声により言葉を紡ぐ。
「なぁどんな奴が来るんだ? 女王って話だしめっちゃエロい女とか」
「黙ってろ勇斗、聞こえるぞ」
と、不敬に当たる言葉を窘めるものの、壮介もまた女王の姿を考察しており、強い興味を抱いていた。
大国に流されることもなく天地戦の放棄を決断すると共に誇示し続ける国の長。
どれだけ肝が据わった強い意志を持つ乙女が出てくるのか。
己のポテンシャルから良く女性から慕われ必然的にどちらの世界でも関わる場面が多い壮介は女王サリアに似た妙齢の美魔女を脳裏に思い浮かべる。
(天地戦を放棄した中立国家の長……一体どのような者が現れるのか)
だが彼等が予想していた姿はいとも簡単に裏切られる結果を辿ることになった。
「女王陛下、御前にお成りッ!」
初老とは思えない響く声色を持つ宰相マイダスの宣言と共に場の空気は瞬時に緊迫感へと包まれゆく。
身構える英雄一行、だが次の瞬間、彼等は男女関係なく目の前に現れた存在に息をすることを忘れてしまった。
「ッ……!」
声にならない驚愕。
誰もがたった一人に目を奪われゆく。
特に蓮や勇斗、またハレアや部下達年頃の男性陣は既に心を射抜かれていた。
「綺麗……何だあの人」
「天使……? 天使が見えてる……?」
べっぴん、絶世の美女、そんな言葉では決して表せない彫刻品のような極上の乙女。
化粧という仮面なしの美貌は最早嫉妬すら抱かせない程の圧倒的な雰囲気を纏う。
可憐ながらも力強いクリスタルブルーの瞳が全員を捉え、色白の肌はまさに天使。
絶妙に成熟しきっていないあどけなさを残す身体を動かし、乙女は玉座へと腰掛けた。
「ようこそ我がマレン王国へ、私はマレン王国第五代正統女王トゥラハ・セイン、この度はご足労いただき感謝申し上げますハリエスの騎士様方、そして英雄の方々」
「あ……え……あぁ失礼、こちらこそお初にお目に掛かれて光栄です女王陛下」
呆然と我を忘れていた意識は次第に理性を取り戻し、ハレアの跪拝と同時に壮介達も速やかな動作で膝をつく。
戦地を潜り抜け、鍛錬を積む彼ですら一時的に思考を停止させたのが彼女のイレギュラーさをこれでもかと物語っている。
「ハリエス王国騎士団団長ハレア・エクレクスです、此度はサリア女王陛下より勅命を承り、貴国と結ばれた協定に則りマレン王国のレベロスの鍵の譲受人として参りました」
「存じております、しかし……失礼ながら随分とお若いのですね、そちらの方々は」
どの口が言うんだという話だがセインは若年の壮介やユズ達へと視線を向ける。
思わず後退ってしまう華麗なる中に明確な威圧を秘める彼女の鋭い瞳だが壮介は負けじと前へと歩み寄り、再度セインへと跪く。
それどころか誰もが驚く敬愛を示す手の甲への軽い接吻をやってみせたのだった。
「なっ……!?」
「マジかあの坊主ッ!?」
「スゲェ……あんな美女も王子様な対応を取れるとか流石はアノニラス・ハイドの再来という訳か」
後方の騎士達からは高嶺の花に近付く命知らずとも取れる行動に唖然と称賛の小声が至るところで混じり合う。
已に様になっている所作は持ち前の容姿や肩書きも相まってそこらの侍女や令嬢相手なら簡単に墜とす事が出来る力を持つ。
「お初にお目にかかります。私は女神アレルの導きによりこの地へと降臨した神の子、壮介と申します、この度はマレン王国の長であるトゥラハ・セイン女王に謁見出来たこと光栄に思います。若年はお嫌いですか?」
だがクラスメイト達はいつもの天然混じりの人誑しが出たと特に驚く様子はない。
下心が全くないという訳ではないが彼の恐れ知らずな最もな原動力は正義感と責任感からなる生まれつきの王子様的な気質。
常にエリートとしての人生を歩んでいたこそ己が持つ自信は絶対的であり、相手の美貌に魅了されながらも内に眠る自尊心が骨の髄まで染められることを許さなかった。
「あらあら、これはご丁寧に。いえ、嫌いではありませんよ。寧ろ好ましく思っている次第です。私も十五歳という年齢ですから」
「「「十五ッ!?」」」
ませている敬意の示し方にセインは慈悲のある微笑みを壮介へと捧げ、年齢の開示に案の定驚きの声が散見される。
この世界における成人は十六歳と現代世界よりも若年に設定されてるとはいえ、それでも未成年のに代わりはなくまさかの年下という事実に英雄達には動揺が走った。
「十五……その若さで一国の長を担われているとは……感服します」
若干驚きつつも大きく取り乱す事はなく労いの言葉までもを口にする壮介。
当の本人であるセインは一瞬眉を潜めるも直ぐにも穏やかな笑顔で受け答える。
「ふふ……貴方のような英雄に選ばれし方にお褒めの言葉を頂けること大変嬉しく思いますよ。では早速本題に入りましょうか」
セインは一拍置いて英雄達を外交会議場へと上品な所作で自ら案内を行う。
長机を挟み、対面に座るハリエスとマレンの面々に場には緊張感が走る。
譲渡における会議はセインとハレアを中心に行われる事が決定した。
「改めてこの度は遥々我がマレンへとお越し下さいましたハリエス王国騎士団長ハレア・エクレクス殿、また神の子様方におかれましても遠路遥々ご足労頂き誠にありがとうございます」
「此方こそハリエス王国兼ねてからの念願であったレベロスの鍵の譲渡の申し出に感謝致します。鍵は貯水庫の運営にも携わるとの事でしたが?」
「心配はいりません。既に同様の形状を持つ代替の模倣鍵は既に製作済みです」
定型的な挨拶から流れるように話は早速レベロスの鍵の話へと持ち込まれる。
互いに精悍な雰囲気を醸し出す二人の会談はまさに外交のプロ。
画面越しでしか見なかったニュースで見るやり取りの様子に楽天家なハズキなども思わず無意識に息を呑んでしまう。
「成程、用意が良いのですね」
「用意……寧ろ悪いですよ。代替品は何とか国家運営を維持する為に昨日製作に成功した代物なのですから」
「何……?」
突如重苦しい表情を浮かべる彼女から放たれた不穏なる言葉。
スムーズに進み掛けていたが待ったをされた状況にハレアは眉間にシワを寄せ、同時にある違和感を抱く。
「そういえば……サーレ外務官は? 彼はこちらとの協定を結ぶ際に主導として活躍していた人物、該当する者はこの場に見当たりませんが」
極秘裏に結ばれたレベロスの鍵譲渡におけるハリエスとマレンの協定の締結。
その際にマレンサイドとして立ち会っていたのがサーレ外務官であり、セインの了承を兼ねて締結作業は主に彼を中心に行われていたとサリアから聞かされている。
真実と嘘が塗れている詳細だが知る由もないハレアは彼の不在に疑念を持つ。
内に抱いた疑問はセインの言葉で明かされるのだがそれは余りにも斜め上を行く事実であった。
「彼は……既にこの世にはいません。またここまでのご足労を無駄にする事を恐縮ながら述べさせてもらうのなら……本家レベロスの鍵もこの国には既にありません。いや奪われてしまったのです」
「……ッ!?」
「奪われたッ!?」
「てか、死んだ……?」
「なッ……んだと……!?」
場の空気は一変し、張り裂けんばかりの静けさへと支配される。
全く想定していなかった衝撃発言にハレアも含めたメンバーは唖然とした表情を隠せず、硬直するしか出来なかった。
「どういうことですか? ただならぬ雰囲気を感じますが」
開いた口が塞がらないハレアに代わって壮介が説明を求める。
「貴国との協定が締結して二日後に当たる珠栄祭と呼ばれるこの国の祭典が行われる前日でした、満月が灯す中、闇夜から現れ我々の希望を残酷に奪った影……譲渡の準備として私はサーレ外務官にレベロスの鍵を預けていました。しかし」
形相は深刻そのもの、セインの言葉から伝わるのは恐怖と絶望。
体感していない身ながらも彼女の表情は根底に存在する恐怖心をこれでもかと煽る。
彼女は震える手を握り締め、その影を語り始めるのだった。
「彼は……突如現れた凶刃によって……私は何も出来ませんでした。おぞましい程の悪意と殺気を纏うその人の皮を被った悪魔に屈服してしまったのです」
「それを証明するものは?」
「肉体は既に火葬済みですが……これならばご理解頂けるでしょうか。望むのなら鑑定を行うことも許可しましょう」
従者へと指示を行うとセインは醜く血濡れた衣服の切れ端を彼等へと提示する。
言わずともこれが無残なる死を迎えた者の痕跡であることは理解せざるを得ず、冷静を保っていた壮介も思わず息を呑み、言葉を失ってしまう。
「同時にレベロスの鍵はその襲来者によって奪取されました。捜索も行っていますが足取りは未だに掴めていない現状です」
「そんな……クソッ! 一体誰が目も当てられない凶行をッ!」
鬼気迫る彼女の表情に真実だと捉えた壮介はセイン達への懐疑心を戒めると共に全てを狂わす黒幕へと強い怒りを露わにする。
こんな幼気な少女を絶望させたのかと秘める正義感は爆発の一途を辿っていく。
「其の者はたった一言だけ……恐怖に蝕まれるこちらへと告げたのです、「これは報復だ」とただ一言だけ」
「報復……?」
瞬間、誰もが混乱に満たされ自分自身も同様の感情に包まれていたユズは彼女の言葉に引っ掛かりを抱く。
誰もがあり得ないと仮定し、馬鹿にしていたある考察が嘘ではないのかもしれないとユズは咄嗟に立ち上がり声を荒げた。
「待ってください! セイン女王陛下様、もしかしてその者は……私達と同じこの神羅織を着用していませんでしたか?」
「「「えっ?」」」
「いや……いやいやおい待てよ、いきなり何を言い出すんだお前」
彼女の言葉にある考察が一斉に全員の脳裏へと痛烈に電流の如く過る。
まさかそんな事が、誰よりも絶対にないと信じて疑わなかった勇斗は特に表情を大きく歪ませ顔を青ざめさせた。
彼は直ぐにもセインから否定を聞き、安堵に満たされたかったが最悪と言える言葉が絶望の表情と共に返ってきたのだ。
「確かに鮮明に見たわけではありませんがあの時見た姿は皆様と類似点が多い……またその者は男で黒い髪を持ち瞳の文様が目立つ書物を手に有していました」
「ッ……!」
一文だけでユズ達を確信へと変貌させる。
同時に理解する、敵が何を狙い、報復と発言したのかという意味を。
分からない訳がないのだ、彼女が発した特徴は余りにもある魔神として破滅の道へと追い込まれた者そのものなのだから。
前提が崩れ去った現実は誰もが瞳の瞳孔を開かせ、内へと驚愕と恐怖が禍々しく入り混じる感情を浸透させたのだった。
「まさか……魔神の子が生きている?」
そして時間は再び異常な状況に陥るハリエスの合議場へと戻りゆく。
告げられた内容は常に不適さを保っていたサリアの表情を崩し、驚天動地の展開に無意識に顔を押さえる。
まるで信じられないのか「何を冗談を」と口にするも即座に彼女の言葉を否定する壮介の力強い言葉が返ってくるのだった。
「嘘ではありません! 俺達はこの目で見てこの耳で聞きました、彼女の発した言葉に嘘偽りはない……証拠も存在します」
セインから手渡された当時の惨状を表す血濡れた布切れをサリアへと提示する。
全く信用を抱いていなかった彼女だが見覚えのあるよく知る人物が身に着けていた衣服に態度を軟化せざるを得ない。
だがそれでも認めきれない彼女は困惑の矛先をハレアへと向ける。
「説明をなさい、ハレア騎士団長」
「……彼の言葉は事実であり、切れ端に付着する血痕も間違いなくサーレ外務官本人で間違いはないでしょう。サラキス及び魔導師総出での作業で行った上での結果です」
ハリエスの魔導師、魔法技術に関しては他の大国を有に上回る技術を有する。
アレルの力はあれど不可能ともされた異界からの転移を成功させたことが高度なレベルに達している何よりの裏付けだろう。
故に血痕の照合という赤子の手を捻る如く簡単な作業を誤ることはまずない。
「まだ考察の余地に過ぎませんが……魔神の子は存命かつ復讐心から何らかの形でレベロスの鍵を奪った、そう仮定しても何ら可笑しくはないと考えます」
「馬鹿な……レクリサンドの地獄を凌いだとでも言うのですか」
「分かりません、ですが現状、鍵が存在しないのは確かな事実と言えマレン王国も予期せぬ凶行に混乱に陥っている状況です。足取りも掴めていないと」
絶対的な勝利を確信していた未来はたちの悪い運命の悪戯によって覆される。
状況は急速に混沌へと包まれる中、想定外が発生した事実にライガ達大国の首領達はサリアへと懐疑の視線で睨んだ。
「これはどういう事だ? 女王陛下、我々に失敗談を聞かせる為にここに呼んだのか?」
「つまりは魔族残滅へと繋がる鍵はその魔神の子なる者に奪われたと? 何のために我らはこの場にいるのだ?」
「ハッハハハハッ! こいつは傑作だな、要は俺等はお前のせいで無駄足を踏んじまったのかよ、これだから女は使えねぇな」
彼女への興味は急速に薄れ、各々が席を立ち上がると吐き捨てられたのは罵声。
これ以上の長居は不要だと各々が呆れ果てた結末にため息を吐き、一斉に踵を返して合議場を後にしようとする。
咄嗟にマルスは制止を図るも計画の破綻に対する代替案がない現状で彼等の足を止める術は一つもなかった。
世界の根幹を揺るがす兵器は再び闇の中へと閉ざされ、歯車が狂った結果の末路は居心地最悪の空気を創造する。
「姉様……まさか奴が創生の奇書を使い死線を潜り抜けて」
「ハッ……フフッ……これはこれは実に面白いことになりましたね」
口ではそう言うものの辱めを受けたサリアの表情は怒りを隠しきれておらず、震える両手は机がへし曲がる程に押さえ付けている。
鬼神を彷彿とさせる悍ましい気迫は全員を震撼させ、威圧感で覆い尽くす。
創生の奇書に選ばれ魔神の子として処刑を行ったはずの存在、何故生きているのかなどこの際どうでも良いことだった。
「ハレア、今直ぐに魔神の子の捜索を。見つけ次第捕縛及び殺害を許可します」
「マレン王国への件は?」
「鍵のないあの国などこれ以上関わる必要性はありません。今はただ……こちらへと忌まわしき刃を向けかねない存在を滅ぼし、レベロスの鍵を獲得するのですッ!」
「ッ……御意ッ!」
彼女の言葉には有無も言わせない力強さがあり、ハレア達はその指示に従うように一礼して合議場を後にする。
怒り心頭のサリアも続くように去ったことにより場に残されているのは未だに衝撃に満たされている英雄達だけとなった。
「まさか……あの男が生きているだと」
「考えられないけど……でもあの美人の女王様が言ってた情報と一致し過ぎてる。どうやったのかは知らんけどさ」
「いや〜どんな事も不思議なことって起きるんだね〜」
「呑気に言ってる場合ですか!? ソウジさんは「報復」って言ってたんですよッ! うまりは私達への……復讐を」
理不尽とも言える見捨てられを経験し、地獄へと叩き落とされた事への復讐。
動機としては十分過ぎる背景であり、環奈を筆頭に彼の復讐の為に動いていると思わしき状況に英雄達は苦悩を強いられる。
「あり得ねぇ……んなのあり得ねぇだろ! あいつが生きてる訳がないッ! あの女が見たのは似てる何かなんだ! 俺は認めない、あいつが生きてることも復讐に走ってることも全部全部、全部認めねェェェッ!」
「ちょ勇斗さんッ!?」
彼が復讐を考えているのなら真っ先に進んで地獄へと突き落とした自分を奴は狙う。
ただ腹が立つ相手だったからと身勝手かつ不条理な怒りで大義名分を盾にソウジへと行った処刑への積極的な加担。
死人に口なしと豪語していた勇斗は前提が覆されようとする最悪の展開に取り乱した様子で走り去ったのだった。
「どうする優等生? 奴が生きていてこのまま奴が復讐の道に走っているのなら俺達、いやクラス全員が危うい立場にいるぞ」
「彼は悲運だった……だが相手を同じように傷つける免罪符にはならない。俺は止める、あいつの復讐を。責任を持ってソウジを」
良くも悪くも根っからの英雄気質。
あくまで正義に従おうとする壮介はソウジが復讐に駆られている現状に決着をつけ、必ず止めると決意を宿らせる。
「希望の為に魔族を滅ぼし、終わらない復讐の連鎖を止めるために彼を討つ。それが俺達に出来る唯一の贖罪だッ!」
大儀の為に、だが何処か自分に言い聞かせるように壮介は来たるべき衝突に真っ向から挑むと高らかに宣言するのだった。
漆黒に満たされる死の匂いが接近する中、ユズは憂いた瞳で残酷な道へと進んだかもしれない彼の姿を思い浮かべる。
(ソウジ……貴方は本当に復讐の道に進んだと言うの……?)
生きている希望が高まった事実は彼女の胸を確かに躍らせた。
だが同時に復讐に走り、一人の命を無残に殺したかもしれない事に晴れかけた心は湿気多い曇天に包まれる。
どれだけ悲痛な目に合おうと凶行に走ることはなく、夢へと一途に走り続ける優しさを忘れない自分の憧れの存在。
そんな彼が自らの手で命を刈り取り、闇に染まってしまったかもしれない可能性にユズは陰鬱な面持ちでただ一言、「ソウジ」と空間に呟くのだった。
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