第7話 アイ・アム・ファイター
(やった……成功したッ!)
起死回生の一手が成功した事実と自らが思い描いた通りの姿で現れたフレイの双撃にソウジの心は有頂天に到達する。
快傑明朗かつ純粋な様子、炎を支配する熱血が具現化した姿、美少女の可憐さと闘士としての勇ましさを両立したフォルム。
目の前に立つ存在は彼が脳内でイメージしたそのものだった。
「グォァァァァァッ!」
予期せぬ拳撃を食らったルイーナレクスは立ち上がり怒りの咆哮を轟かせる。
常人であれば恐怖により身体が硬直してもおかしくないが彼女は寧ろ血湧き肉躍る展開に何処か狂気が孕む形相を表した。
「まっ、色々とお話したい所だけどさ、今はあのでっかい怪獣くん倒さないとね! さてやろうかコノヤローッ!」
軽い準備運動を行い、一息つくと同事にフレイは臨戦態勢を整える。
見惚れるほどに完成された華麗なる姿にソウジは目を奪われていく。
自分よりも遥かに小さく、だが圧倒的な威圧感を放つ美少女にルイーナレクスは高速移動からなる突撃を放つ。
激突により引き起こった強烈な衝撃波は周囲を吹き飛ばした。
「いいパワーだ、でも甘っちょろいッ!」
だが結果としての訪れたのは腕一本で軽々と相殺されているという衝撃の光景。
彼女の皮膚には掠り傷すらも付かず、余裕を意味する褒め称えの言葉を口にする。
軽々と壊滅的な攻撃を受け止めたフレイはカウンターの一発を繰り出した。
「イグニス・ドライヴッ!」
イグニッションコアから発せられる超高熱の炎は拳へと集約を始める。
高密度に蓄えられたエネルギーを一気に解き放つと爆炎の噴射と共に右ストレートはルイーナレクスへとめり込んだ。
叩き込まれた箇所には拳面の跡が残り、巨体はなす術もなく付近の壁へと殴り飛ばされると砕け散った破片は宙を舞う。
「ほっ!」
追撃の手を緩めないフレイは入り組まれた遺跡を身軽に移動すると跳躍と共にルイーナレクスへと飛び乗る。
軽快な指鳴らしをトリガーに空中には無数の拳状の弾丸が創造され、一斉に標的へと目掛けての殴り込みの連撃が襲う。
「ヘリオスフィア・チェイサー」
流星群の如き乱撃は鈍い音を奏でながらルイーナレクスの肉体を穿つ。
一撃に留まらず、深紅の弾丸は次々に直撃していく様は痛快さを極めていた。
強靭であるはずの鱗にはヒビが入り、轟音と共に地面へとぶち込ませていく。
反撃とばかりに体勢を立て直したルイーナレクスは蹴撃からなる剛烈な大振りを叩き込むが彼女のパワーに勝ることはなく、安々と重い一撃は受け止められた。
完全に掴まれた脚部引き剥がすことは叶わず、地を足で抉りながら放たれた背負い投げが全身へと強烈を走らす。
一発一発が非常に重く、ダイナミックを体現した化け物同士の華麗なる戦闘は否が応でも胸を激しく高鳴らせた。
「グォ……グァァァァァァッ!」
地を強く豪快に叩き割ることで発生した鋭利な瓦礫と共に彼女の範囲に目掛けて巨体を利用し投擲を行う。
肉眼で視認すら出来ない、並の人間ならば一撃でも食らえば身体が吹っ飛び臓器までも粉砕されるであろう技。
しかし彼女からすれば陳腐を極めた乱撃に過ぎず、瞳孔を開くと最低限の動作からなる回避行動と同時に高速で接近。
無防備となるルイーナレクスの顳顬を破壊するイグニス・ドライヴを突き放った。
「凄い……圧倒してる……!」
響き渡る苦痛を意味する鳴き声。
視界で繰り広げられる焔の無双劇に思わずソウジは声が漏れてしまう。
小細工や搦手はない、いやないからこそ自分自身で生み出した彼女が持つ純粋なパワーやスピードが一級品であると裏付けていた。
強靭な攻撃なら更に強い攻撃を、素早い速度ならば更に素早い速さを、シンプルながら有効的な戦法でフレイは相手を捻じ伏せる。
「グゥ……グォァァァァァァァァッ!」
何故ガキ一人如きを殺せない、手も足も出ない劣勢な状況に自分は立たされている。
相手は己よりも遥かに弱々しい小さく哀れな肉体を持つ存在、なのに何故殺せない。
完全に憤怒の頂点に達したルイーナレクスは土竜を破滅へと導いた滅びの閃光を放つべく口元へとエネルギーの蓄えを始めた。
同時に鱗を真紅に染まらせ、攻撃力の上昇を意味する戦神の怒りを発動する。
「いいねぇそういうの、でもさぁ……私のパワーは規格外なんだよッ!」
高揚感に満たされるフレイは興奮した笑みを浮かべつつイグニッションコアによる五つの巨大な焔を空間へと創造する。
まるで指揮をするように細長い指の動きに合わせて螺旋を描き隊列を組む。
「グォァァァァァッ!」
「フィラメント・サングレーザーッ!」
破滅の閃光と地獄の業火。
互いに絶大な攻撃性を誇るエネルギー同士は激しい衝突を引き起こす。
拮抗しているかに思えるが段々と焔の勢いが勝り、光を覆い尽くした。
破滅を導く光線は崩壊の一途を辿り、全身へと螺旋状に襲いかかる業火の餌食となる。
「イヤッハァァァァァァッ!」
昂りを意味するフレイの絶叫。
勢いそのままに激情の炎はフレイの合図により軌道を大きく変え、焼き尽くしながらルイーナレクスを空中へと押し飛ばす。
体勢を整える隙を与えないように地面を強く蹴り上げると全方位から絶え間なく蹴撃や拳撃による乱打を繰り出した。
一発一発が衝撃波を生み、重い打撃音を痛烈に轟かせる。
「絶望がマスターを待つ運命なら、私は何度でも燃やし尽くすッ!」
刹那、彼女の身体からは更に炎がほとばしると力強い灼眼は紅に美しく煌めく。
胸部に位置するイグニッションコアは激しく光り、大業な音を掻き鳴らしながらエネルギーを集約する。
燃え盛る深紅の焔はやがて彼女の頭上へと一つの拳となり落ち行くルイーナレクスを逃すまいと捉えていく。
太陽ですら身震いする灼熱の拳は止まらぬ怪物を断罪すべく振り下ろされた。
「エリス・ノヴァッ!」
巨大な隕石の衝突かの如き轟々と燃え盛る拳はルイーナレクスを地面へ叩きつける。
様相はまさに世界の終局を告げるかのような抗いは無駄となる絶望を生み出す。
爆炎は乱舞し、業火は制御の効かぬ飢えと破滅に満たされる怪物を打ち砕いた。
「グォァァァァァァァッ!」
「ブッ潰れろォォォォォッ!」
木霊する両者の魂からなる咆哮。
鮮血の如く真紅の拳が胴体を貫く。
怪物に流れ込む灼熱の奔流が命を焼き尽くし、地獄への片道切符へと変貌する。
重厚な断末魔の叫びと共に爆発を引き起こしたルイーナレクスは跡形もなく消し飛び、残骸すら残されない。
決着がついた事を示すように清々しい顔と共にフレイは天高く拳を掲げる。
「ありがとう、楽しかったよッ!」
祝福を意味するように太陽の光に照らされる希望の象徴は胸を躍らす激闘に敬意の言葉を口にしたのだった。
「これが……創世の奇書の力」
勇ましい彼女の姿を見ながらソウジは己が持つ力の責任を改めて自覚する。
無限の可能性を秘める創世の奇書、書き方一つで誰かを救う救世主も誰かを滅ぼす破滅者も簡単に創造することが可能。
非常に自由、だが自由だからこそ過ちを犯す可能性も高い、現に自らの設定ミスでソウジは命を奪われる寸前まで陥った。
(ハッ……ハハッ、なんて物だよこいつは)
ようやく一息がつける状況に段々と冷静さと理性を取り戻していくソウジは大いなる厄災の力に手を震わす。
未だに現実であると受け入れきれない逃避の思考を自らで正していく中、手元を見ていた彼の肌には心地よい熱気が染みる。
「ッ……!」
「やっ、改めてはじめましてマスター」
へたり込んでいたソウジと同じ視線に合わせるべくしゃがみ込んだフレイは逃さぬようにジッと見つめながら笑った。
朗らかなのだが瞳孔の開いた目と猫口は獣チックかつ異質な雰囲気を醸し出す。
眼前で展開される幻想的な光景と可憐さに思わずソウジの心臓は大きく高鳴った。
「あぁ……えっと」
年頃の男には少しばかり刺激が強い自らで生み出した闘魂の美少女の急接近につい言葉を詰まらせてしまう。
強さだけでなく創作意欲に身を任せ無意識に性癖を盛り込んでいた故に彼女はソウジにとって魅力的な存在だった。
胸、尻、特に太腿、健康という言葉を体現したような素晴らしい絶妙な肉付きは心臓を高鳴らせていく。
(自分で言うのもなんだが……めっちゃ可愛くキャラクターを作れたな、こいつは俺の創作活動でもかなりの傑作だ)
思わずらしくない自画自賛に走ってしまう彼の心を知ってか知らずかフレイは自身を生み出した創造主を舐めるようにつま先から脳天まで見つめていく。
ソウジは思わず目線を逸らしてしまう程に彼女の瞳はまるで捕食者かの如く、力強さと凛々しさを兼ね備える。
「ふ〜ん」
一拍の末に……疲労したソウジには柔らかい感覚が突如襲いかかった。
暖かく柔らかい感触が顔全体に広がり、彼の思考は完全に真っ白となる。
「へっ?」
口角を上げた彼女はお気に入りの玩具を手に入れたかのようにソウジの顔を胸元へと抱き寄せていたのだった。
甘い匂いが鼻腔を刺激し、豊満で健康的な胸部が頰に当たる感覚にソウジの思考は数秒遅れで現状を理解する。
「なっ!?」
「いやぁいいねマスター! 直感が言ってるよ君は私は好みなんだって! そう思うと抱き締めずにはいられないね、一目惚れって言うべきかなッ!」
「ちょ待っ、フ、フレイ!?」
心臓の高鳴りは速度を増し、オーバーヒートしかける思考。
引き剥がそうにも何倍も大きい巨体を軽々と吹き飛ばす彼女の力に勝てる訳がなくなすがままに抱き締められるしかない。
彼の頭を力強く撫でながらフレイは愛しそうな享楽に満たされる笑顔を浮かべる。
(おっぱい……温かい柔らかさが……駄目だ、意識飛ぶ)
ただでさえ朦朧としている中で絶妙に眠気を誘う暖かさに包まれている追撃は意識を吹き飛ばすには十分過ぎた。
蕩けそうな感覚に一種の安心感を覚えたソウジは段々と睡眠の誘惑に負けていく。
「ん? うぇちょマスター大丈夫!?」
ようやく異変に気づき胸を離すものの時既に遅し……少女の絶叫を耳にしながらソウジは完全に夢の世界へと旅立つのだった。
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