第2話 落ちこぼれの嘘演技

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 不思議なエイプリルフールが終わった数日後。

 オーランド国では多くの学生が新しい春の訪れを感じていた。

 満開の桜木がピンク色の花びらで沢山の学生を歓迎する通学路では新しい生活に心を踊らす若者たちで道が溢れかえっている。

 まるでお祭りのような賑やかさは平和を感じさせる。

 これも多くの魔術師の頑張りによって築き上げられた文化であり歴史、そして遺産とも言えるのではないだろうか。


 一見戦争とは無縁に見える学生たちが向かう場所はオーランド国が直属で管理する魔術学校の一つ――幻想魔術(ファントム・マジック)高等学校。

 学力より魔術の実力を最重視する学校でエルフや精霊種と言った人類を超越する種族に対抗するために創設された教育機関である。

 ただし将来作戦司令室などでオペレーターを希望する学科などによっては実力より学力や適性を重視する専門性とは別に臨機応変な教育も可能となっている。

 学校は道沿いに存在して河川が通っており自然との触れ合いも魅力の一つとなっている。


「――で、あるからにして諸君のこれからの活躍と成長を期待する」


 長い校長先生の話がようやく終わる体育館では全校生徒五千名が規則正しく整列している。格式と伝統がある通称幻想高校は三百人を超える優秀な教員が在中しており非常時に置いても適切に対処が可能となっている。その基盤となっているのはやはり日頃からの訓練である。このように生徒は当たり前のことを当たり前にするを入学と同時に身体に教え込まれ集団行動の大切さを学んでいく。


「――最後にこの言葉を伝える。我々人類はエルフや精霊種に比べると劣等種である。だからこそ勝てる。この言葉の意味を各々が卒業までに理解できることを願っている」

 

 とても六十を超えた者とは思えない屈強な身体と原人のような白髭を生やし厳格な顔を持つ老人が壇上から降りて行く。この人こそ通称幻想高校の魔術仙人の異名を持つ凄腕の教育者にして精霊種と武器を持たず拳で戦い勝ったとされる人物。単純な実力だけで言えばオーランド国直属精鋭魔術騎士団の一般魔術兵より上とされている。


 幾ら優秀な教育者を集めたとしてもその存在が決して埋もれることがない校長は今日も我が道を歩きその背中で五千人を超える生徒と三百人を超える教師陣を導くのであった。


 ――――それから形式上の入学式兼始業式は無事に終わった。


 と、思ったのだが。


「ではこれより在校生と新入生のデモンストレーションマッチに移る。生徒たちは担当の先生の指示に従い速やかに移動すること。以上!」


 突然の出来事にリンは驚いてパニック状態になってしまった。

 今日入学したばかりのリンには友達が少なく、その友達とは距離があるため話すことができない。先生の指示に従って列を乱さないように気をつけてながら案内に従う。手元にあるしおりを読み返しても何処にもそんなことは書いていない。

 魔術戦闘科に入学したリンには実はコンプレックスがある。

 それは魔術師としては致命傷とも呼べる自信の喪失。これにより心の安定化が難しく繊細な魔力操作と複雑な魔術式を必要とする魔術行使が上手くできない。

 そうなった理由は入学前魔獣に襲われた日にある。あの日自分の魔術が通用しなかったことと助けがなければ間違いなく殺されていたこと。この二つの事実がトラウマとなり歯止めがかかってしまった。そこに追い打ちをかけたのが中学時代は学校一の魔術師だとチヤホヤされていたリンだが入学式前に通達された魔術戦闘科入学試験の実力順位では下位の成績だったこと。その事実に少なからずショックを受けたリン今自分でもわかるぐらいに実力が低迷していた。


「……私はでませんように」


 小声で自分に言い聞かせるリンではあったが、案内された演習場所に到着すると。


「今から同じ学科の先輩たちとレクリエーションマッチを行う」


 先生の声が聞こえ、


「アリスと麗華前へ!」


 今年度学科主席と次席が呼ばれ代表の先輩が待つ先週会場の真ん中へと向かって歩き始める。そして――。


「リン! お前も行け」


 と、三人目に選ばれてしまった。

 最初の二人は選ばれた理由がすぐにわかる。

 だけどリンが選ばれた理由は誰にもわからない。

 ひそひそ話が聞こえる中、渋々先輩たちが待つ演習会場へ観客席から向かう。


「なんでアイツ?」


「たしか入学式前に開示された成績順位は下だったよな?」


 周囲からの疑問の声は正にリンの疑問でもあった。

 そんなリンに先生はリンだけに聞こえるように「期待している」と声を掛け、そっと背中を押すのであった。


「えっ?」


 抑えきれない不安を知ってか知らずか小さく微笑む先生の顔をチラチラと見ながら歩く少女の背中に先生は「ウッドマンを倒した噂の真偽がこれでわかる」と小さく呟くのであった。


 担任が持つ出場者リストの三人目にはカズマの名があった。

 だけど学生レベルでは倒すことが難しいとされるウッドマンを倒した噂を聞いた教師陣は予定を変更しこの場を急遽設けた。

 だから――三月の時点で作成され新入生に配布されたしおりには一切書かれていなかった。


 今年の一年生に大物がいる、と言われた二年生たちは三人に対して戦闘の意志を早くも見せている。金色の長い髪が似合い綺麗な顔立ちが特徴的なアリスと黒髪ショートヘアーに赤いヘアピンを付け大きな瞳が特徴的な麗華は歩を進める度に気を引き締め先輩たちが放つ圧に蹴落とされるどころか戦う意志を見せていた。魔術師としての格が早くも見て取れる。対して一人だけこの演習会場では異例の挙動不審の行動を見せるリンは早くも悪い意味で目立っていた。しかし「油断するな、あいつはウッドマンを先日倒した」と聞かされている在校生はこれは自分たちを油断させるための高度な演技だと判断し尚警戒心を強めるのであった。



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