エイプリルフールが起こした奇跡は記憶継承者によって語り継がれる
光影
プロローグ~語り継がれる伝説とスカーレット・リンベル<記憶継承者>の出会い~
第1話 語り継がれる伝説
西暦XXXX年。
人類は魔術を行使する時代。
空気中に浮遊する魔素粒子を発見した人類は時代の流れと共に魔術が使えるようになった。簡単に説明するなら魔素粒子で構成される魔力を利用した超常現象を意図的に起こす力である。世の歴史には、こんな噂がある。
幻想の魔術師伝説――ファントム・オブ・マジシャン伝説。
その内容は――オーランド国最強にして当時の女王陛下の懐刀として後世に名を残した伝説の魔術師。
その正体は千年前敵国(エルフ種・精霊種)から襲い掛かる幾万の魔術師兵を単騎で無力化し、世界三大魔術師に名を刻んだ者。そしてオーランド国独立に最も貢献した魔術師である。
■■■
そんな魔術師になりたいと日々精進する若人たちがオーランド国には沢山いる。
なにより幻想の魔術師の名を魔術学校に通う者で知らない者はいない。
「ふぁ~。今夜は月が綺麗だな」
十代後半の少年は肩まで伸びた髪をボサボサと掻いて月明かりが照らす舞台の上を一人歩く。
一歩一歩足を進める度に草が折れる音が聞こえる。
肌を刺激する風は少し肌寒い。
4月1日と言えば
嘘を付いても許される日である。
そんな日だからだろうか。
嘘吐き少年の前に人影が見えた。
薄暗い視線の先では長い髪の毛を揺らして走っている若い少女が一人いる。
少女は慌てているのか何かを確認するようにして何度も後ろを振り返りながら、息を乱しながらも一生懸命走っている。
少年がしばらくその光景を見ていると、少女は追われているのだと気づく。
月明かりが照らす舞台に追加で二人の登場人物。
一人は茶色のロングヘアーが特徴的で顔は良く見えないが小柄な少女。
もう一人は少女を追いかける草原を生息地としているウッドマンと呼ばれる木の魔獣。
魔力素粒子を大量に吸収した大木が魔獣として目覚め自我を持った物だ。
樹齢百年ほどの幹を身体として授かったウッドマンは少女の何倍もの背丈を持ち移動速度も中々に速い。
もし少女が一瞬でも足を緩めれば、巨体から伸びる枝に貫かれて死ぬだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ、……誰か……」
少女は一心不乱に生に執着する。
「ここの草原は普段誰も寄り付かない秘密の場所だったんだが、これも何かの縁かもしれないな」
少年はこちらに気づかない少女とウッドマンに向かって走り始める。
ウッドマンが少女を仕留めるための射程圏内まで後少し。
だけど――それでは遅すぎる。
少年は僅か二秒で百メートルの距離を進み、少女の身体を自身の腕で包み込んで優しく抱きしめる。
「動かないで、アイツの座標がズレるから」
視線はウッドマンに向けたまま、小声で囁く少年はニコッと微笑む。
「えっ!?」
驚いて必死に逃げようとする少女をしっかりと抱きしめて離さない少年は小さく深呼吸をして口を開く。
「
次の瞬間。
タイムラグコンマ一秒足らずで魔術が発動しウッドマンが二人の前で燃え尽きてこの世から消えた。火すら使わず、燃えた? 違う分解された? それも表現としては違う、ウッドマンは塵の一つも残さず消滅した。その事実だけが唯一少女が理解できることだった。魔術師それは人知を超えた存在ではない。所詮は人間であり神ではない。なのに、少女は理解に苦しんでいた。目の前にいる少年は……一体なにをしたと言うのだろうか……と。そんな戸惑いに満ちた少女の顔を見て少年は笑顔で答える。
「僕は幻想魔術の使い手エレン。まぁ信じるも信じないも君の自由だ。今夜は月が綺麗で夜散歩日和だけど魔物も結構騒がしいから気を付けて帰ってね」
そう言い残したエレンは少女の名前すら聞かずに一瞬で姿を消した。
まるで嘘の塊。
そう思わずには居られない少女――リンは唖然とした。
「うそ……ありえない……でも……そんな……ほ、ほんとうに幻想の魔術師?」
幻想魔術――それは歴史上たった一人の魔術師しか会得出来なかった会得難易度最高クラスの固有魔術。認識した物を幻想化させこの世に最初から存在しない物として存在自体を消滅させると言われている伝説級の魔術それが幻想魔術。そしてエレンという名は千年前世界三大魔術師に名を刻んだオーランド国の大英雄の名でもある。
既にこの世には存在しないはずの魔術師に助けられたリンはこの日エイプリルフールが起こした奇跡に魅せられた。
世界がエイプリルフールのために彼の魂をこの世に呼び戻したのかは誰にもわからない。ただ一つ言えることは、これは夢でも幻でもなく現実であることだけ。
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