へんたいな

 圧倒的土下座を決めた僕を見て、彼女は口を開いた。


「べつに、謝って欲しいわけじゃない」


「いやマジですみませんほんとに私は人間のクズですごめんなさいすみません」


空は暗くなってもう雨すら降りそうな感じがする。なんでや!!なんでや!!なんでバレてるんや!!!!


 てかやばい、死にたい、死にたい、切実に死にたい。終わった、人生終わった。嫌われてるってコレ。死んだマジで助けてどうしよ詰んだ詰んだ詰んだ。まじでなんで分かったの、どうして、誰にも悟られないように影でニチャニチャしてたのがバレたのか、?



「顔、あげて」


 ああ。もう、うん!考えるのやめた!やーーーめた!!!



「ほんっとにすみませんでしたッ」


 勢いをつけて顔を上げると、そこには白がいた。嗚呼、そんな感嘆が口から零れる。世界の絶景を集めたとしてもこれ以上の物は無い、そうとも思った。いや、誇張抜きで。


真っ黒だった空は一気に青空へと変わる。光り輝きすぎたそら今にも天使を呼び出しそうである。


 ぼけーっと時間が過ぎて約3秒。


 なにかに気づいたかのように彼女は顔を朱に染めて、右手でそっと神聖なるスカートを抑えた。


 あぁ、、、。


 あぁ。


「ん…」


 彼女はじとーっとした目でこちらを見つめている。


 大切なものを失った虚脱感に身を委ねていた僕は、絶体絶命な現在の状況を思い出してしまった。


「…へんたい」



「違うんです、!!!!!!!!誤解なんですよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」



 うーん、無理だこりゃ。言い逃れできない。死ぬ前にこの世の美を知れてよかった。世界ってこんなに美しかったんだ。


「ふふ…へんたいは冗談。恥ずかしかったけど、わたしの不注意のせいだったから。ごめん」


「いやいやそんな!謝らないでください!!僕みたいなカスでゴミなクズに対してそんな!」


 え、笑ってた今、?反射的に返事したけど、絶対零度が僕の前で笑みを見せたのか、?おい、これはもう。。。なぁ。。結婚だろこれは。。


「…さっきの話なんだけど」


「あ、、あぁ、!さっきの、、、さっきの話、!」


 僕の下心についての話だろうか。多少冷静になった今考えると、僕の下心が透けていた理由が皆目見当もつかない。僕のポーカーフェイスは一流のはず。


「わたし、心読めるの」


「ん?」


 ふと頭に過ぎる、存在しない記憶。そう、この世界は誰しもがの心を読める世界。そういう俺も心が読めるのだ。今、氷華さんは俺のことが好きと考えている。ああ、間違いない。




うん、現実逃避やめるね。




「ちなみにきみ、全然ポーカーフェイスじゃないよ。いまもへんなかおしてる」


あれれぇ?僕ポーカーフェイスじゃないんだ。あれれ、完璧だと思ってたんだけどな…。もしかして「あのオタクにちゃにちゃしてるよ、キモッ」とかギャルに言われたりしてたんだろうか。うん、ギャルならありだな。


「あーー。えっとつまり、、僕の気持ちの悪い妄想が全部筒抜けで、それに対してしびれを聞かせて問い詰めに来たと、?」


 いやでもそんなことがあるのか、?そんな人の心を読むなんて物語の中みたいな能力。。いやでも今実際にポーカーフェイスについて考えたらそれに対して言及したよな…



「ん、、まだ信じてない?」


「いやあの、非現実的っていうか…」


「わかった、じゃあこれで信じてもらう」


いやだって、普通信じれます?うん、無理だね、無理だよ。信じれるけない。


 でも、彼女はなにか秘策があるらしい。お互い無言で10秒程度の時間が流れる。無の中に覚悟を若干滲ませたような表情だった彼女は、意を決したかのように動きだした。



 彼女は手を頭に当てて、猫耳を作るかのようなポーズをした。真っ白な肌が朱に染まっている様子を尻目に、すこし身長の低い彼女が生み出す上目遣いという圧倒的破壊力を前に、僕の目は吸い寄せられていた。漆黒に濡れた瞳は僕の視線だけでなく、僕の存在自体を飲み込んでしまうような感覚を覚えさせる。血色のいいピンク色のふっくらとした唇から、言葉が紡がれる。






「…にゃーん」











 うわあああああああああああああああーーーーーーーーーーーー。

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