解答さん 其の7


「あ…ありがとうございました」

「いやいや、すまないね…囮捜査のような真似をさせてしまって…」

「のような…と言うかモロに囮捜査でしたけど」

「う…うむ」

「てかニッシー…顔凄い事になってるよ…マジで」

「殴られ慣れてるとは言え…さすがにきつかったな…」

「部長…二度とああいう真似はしないでください」

「いや、でもカッコ良かったですよ」

「お!景君が今いい事言った!」

「部長!!」


無事全てが終わった後、皆でコンビニに寄り祝杯をあげる。


「ラグビー部の皆も誠にありがとう、か弱き女子が守られたのは君等のおかげだ」

「いや…役に立てたか俺達?」


ムキムキのでかい男達がどことなく申し訳無さそうに尋ねる。


「当然だ、君等がいてくれたから彼を追い詰める事ができたし、君等がいると分かっていたから私も彼の前に立つ事ができたのだ!」

「…そういうもんかねぇ?」

「彼が観念したのも君等の存在によるものが大きかったしな!我々だけなら強行突破されていたであろう」

「ならまぁ…よしとするか」

「だから安心したまえ!ムキムキ好きの女子との合コン!!必ずセッティングしようじゃないかね!!」

「そこはあーしにお任せ!!本当にありがとうね!オニーサン達!!」

「おおおおおおぉぉぉ!!」


色めき立つ男達に、千影君の呆れたような視線が突き刺さる。


「都市伝説ではなかったが…」

「そうですね、これはこれで」

「解決して本当に良かったです」

「ところで部長」

「ん?何かね?」

「何で分かったんです?人間の仕業だって」

「んー…なんだろうね…やはり…お粗末すぎたように感じたのだよ」

「お粗末ですか…」

「特に感じたのがトロッコ問題であるか…」

「あぁ…あの倫理問題ですね」

「うむ、仮にも都市伝説があのような既存の問題を出すであろうか?あまつさえ明確な解答のない問題に対して不正解などと…」

「そうですね、出題者の気分次第でどうとでもなります」

「そうだね、そこからは今までの情報が繋がっていった感じであるかな、不必要なまでに個人情報と連結するアプリ、死亡情報はないが引っ越していった以前の被害者、その被害者も女性であった事…」

「…なるほど」

「まぁ…都市伝説も理不尽な物は多くあるからね…最後までひょっとしたら…とは思っていたが」

「なりほどなぁー」

「ふはは、少しは見直したかね?」

「今日は無茶をしたのでプラマイゼロですが」

「千影君は厳しいなぁ…」



さて、帰路につきながらではあるが今回の事件を少々振り返るとしよう。



私が被害者の彼女の話を聞き、1つの結論…つまりは相手が人間であり、更には悪事を目論んでいるという結論に辿り着いた後の事である。

警察が直ちに動いてくれない事は分かっていた。

そこで、彼女に危険を承知で協力を仰いだのだ。

勿論、彼女の安全確保を最優先に考えなければならない、言っている事は非常に矛盾に満ちているのだが…


「故に彼らだ」


私は早急に同大学のラグビー部の彼等に協力を求める。

報酬は女子との合コン、彼等は一も二もなく引き受けてくれた。全くもって分かり易い。


相手が人間である事は予想していたが、何人いるのか、どんな人間なのかまでは分からない。

そこで彼女にSNSで嘘の情報を流してもらい、待ち受ける事にしたのだ。


『気分転換に近くの公園を散歩ー♪』


なんていう投稿をしてもらい実際に公園を散歩。

夜になるとあまり人も寄り付かない場所なのも幸いした。

そして我々は周りに身を潜ませて全員で待機。

彼女に近付く人間がいないか目を光らせる。

数日は続けるつもりではあったが、その必要は無かった。

目深に帽子をかぶった1人の男が現れ、キョロキョロと辺りの様子を窺い、慎重に彼女に接近する。


「大人しくしろ、死にたくなければ言う事を聞けよ…」


手にはスタンガンのような物を持っているのが視認できた。

彼女はコクコクと頷き、大人しく従うフリをして男について行く。

男が1人である事を確認できるまでは我々も一定距離を保ったままついて行く。

そして男が公園を出ようとした瞬間…


「おい、その娘はアンタの知り合いか?」


ラグビー部員の1人が男に声をかけた。


「ん?ああ、そうだよ、俺の友達なんだが…アンタは?」


男はヘラヘラとした笑みを浮かべながらそう答える。


「俺か?俺はその娘の…うがぁっ!!!」


バチンッ!!という何かが爆ぜるような音と、ラグビー部員の悲鳴が同時に響く。

わずかな隙をついて男がスタンガンを使用したのだ。

更に男は彼女をラグビー部員に向かって押し、2人が転んでいる間に、逆方向に向かって走り出した。

近くにいた私は、2人の無事を確認し、すぐに男の後を追う。


「…で、なんとか先回りをして路地裏で追い詰めたというわけだ」


あそこにいたメンバーの中で最も体力のない私が追いついたのは僥倖と言えよう。


「何にせよ…皆が無事でよかった」

「無事ですか?その顔…」

「顔ボッコボコですよ」

「いいんだよ、名誉の負傷というやつだ」

「…あの男、部長に復讐しに来るんでしょうか?」

「どうだろうか…まぁその時はその時であるなぁ…」

「執念深そうでしたもんね」

「執念深そうといえば…」

「?」

「男が去り際に私に教えてくれた事があってね…」

「なんですか?」

「男の作成したアプリの名前なんだが」

「『SaI』でしたよね?」

「うむ、それは『Search and Impair』の頭文字を取ったそうだ」

「サーチ アンド…なんです?」

「Search and Impair…探し出して、傷つけるといったところだね」

「…はは…」

「…ふはは」

「いえ笑えません…」



無事に解決した『解答さん』事件であったはずだが、我々の帰る足取りはなんだか重たく感じられたのであった。

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