解答さん 其の5


「あ…」


玄関から顔をのぞかせた少女は安心したような表情を見せる。


「よかった、無事だったんだ…」


それを見て情報提供者である彼女も安堵する。


「ニッシーも…」

「何か力になれることがあるかもしれないと思ってね…よければ詳しく聞かせて貰えるだろうか?」

「うん…入って」


促されて彼女の家にお邪魔する。

もう日はとっくに落ちているというのに電気もつけておらず、家の中は闇に包まれていた。


「電気をつけても?」

「あ、はい、なんか…1人だと怖くて…電気つけてたら家の中にいるのがバレるんじゃないかって…」

「わかるー」

「まぁ我々といれば大丈夫であるよ!ははは!」


不安がらせないように精一杯虚勢を張るも、どれほどの効果があったのかは不明である。


「あ…お茶でも…」

「いいっていいって!もー」

「そうであるな、そんな事よりも何があったか…」

「あの……私が一緒に用意しましょうか?」


千影君がそっと声をかける。


「少し何かをして気を紛らわせるのもいいのでは?」

「……うむ、ならお願いしよう、千影君の淹れるお茶は絶品であるからな!」

「では参りましょう」

「あ…はい」

「あ!!あーしも行くー!」


なるほど、いきなり見ず知らずの人間に話をするよりも多少なり打ち解けたほうが話もし易かろう。

こういった些細な気配りというか、気遣いが私には欠けているように思う。


「千影さんさすがですね」


どうやら景君も同じ感想らしかった。



数分後、彼女らがお盆に人数分のお茶とお茶菓子を乗せて戻ってくる。


「そうなんですよー」

「あら、ふふふ」

「もーそれは言わないっていったのに」


キャッキャと話しながら戻ってきた彼女らはスッカリ打ち解けているように見えた。

この数分で何があったのかは不明だが、当事者の彼女もいくらかリラックスできているようだ。

周りに人がいるというのはそれだけで心強いというのがよく分かる。


「ズズ…」


置かれた熱いお茶を人啜りすると、緊張もほぐれるような気がする。


「さて、それでは…思い出したくないかもしれないが詳しく聞かせて貰えるだろうか?」

「…うん」


ポツリポツリと彼女は先程起こった出来事を語ってくれた。


「解答さんが急に回線に入ってきて、私に質問は何か?って聞いてきたんです…」

「……ちなみに、その解答さんの声というのは覚えているかね?男性なのか女性なのかとか…」

「声というか…機械音声って言うのかな?動画サイトなんかでよく使われてるやつでした」

「機械音声…ふむ…おっとすまないね、話の腰を折ってしまった、続けてくれたまえ」

「…その時はまさか本当に解答さんが来るとは思ってなかったから…とっさに私のその…」


モゴモゴと口淀む。


「…結婚する日時は?……って」

「可愛いじゃないですか」

「女性はそういうの好きですよねー」

「わかるー」

「まぁまぁ…それで?それに対する返答は?」

「9年後の8月24日だって…」

「ほう…」

「それでその後…解答さんから質問があって…」

「その内容は…?」

「『貴女の前に切り替え可能な線路があり、暴走した列車が突き進んでいます。片方の線路には1人、もう片方の線路には5人の人間がいますがどちらも列車には気付いていません。貴女が何もしなければ、このまま列車は5人の元に突っ込み5人は死んでしまうでしょう。貴女が線路を切り替えれば、1人が死ぬでしょう。さあ貴女はどうしますか?尚、貴女の声は届かず、線路を切り替える事しか出来ないものとします。』………って」

「それって…」

「ふむ…トロッコ問題というやつだね…有名な倫理観を問いかける質問である…」

「でも私…どっちを選んだらいいかわかんなくて…でも死んじゃうなら1人だけのほうがマシかなって…」

「……ふむ、それで切り替えると答えたわけだね?」

「うん……」

「じゃあ答えてんじゃん質問には」

「そうですね」

「そうなんだけど…その後は『不正解、不幸が訪れる』って…それだけ言われて切れちゃって…それでおしまい…」

「不正解…」

「なんか…色々とひっかかる話ですね」


まったくである。


「不幸が訪れるっていうのも…なんていうかボンヤリしてますし…」

「死んじゃうんですか…私?」

「そんなこと…」

「…ないな」

「え?」


私は断言する。


「死ぬ事など無い」


これは断じて虚勢や慰め等ではない。


「ただしその身に危険が迫っていることは間違いないであろうからな、対策が必要だ!」

「え?え?」

「対策可能な状況ですかね?」

「恐らくはね、急ぐ必要はあるだろうが」

「何とかなるの?ニッシー…」

「勿論である、おっと、だが1つ質問があるのだが…」

「な…何…?」


「君はムキムキの男性は好きかね?」


そう訪ねた。


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