解答さん 其の3


「これがそのアプリですか…」


自身のスマホをマジマジと見ながら景君がそう呟く。


「どうかね?私もなかなかにやるだろう?」

「さすがです部長」

「どちらでこの情報を?」

「ん?…まぁあれだ、私にもそれなりに知人がだな…」

「………」

「………」


口淀む私を見て、二人が同情的な視線を向ける。


「なんだい!!」

「何も言ってないじゃないですか!」

「むぅ……まぁいいが…」

「確かな情報なのですか?」

「いや…半信半疑といった所だな、けれど試す価値はあるように思う」


先程会ったお嬢さん方の話を二人に話すと、なにやら千影君の視線が厳しくなったような気がする…


「連絡先を交換…ですか」

「いやいや!!誤解しないでくれたまえ!!やましい気持ちなど一切ないぞ!!あくまでも!情報提供についてであって!!」

「部長も隅に置けませんねー」

「景君!!煽るのはやめてくれないか!?」

「不潔です」

「何もしてないのに!!」

「ちなみに千影さん、未成年との淫行は…?」

「都道府県によって違いはありますが、東京の青少年健全育成条例では2年以下の…」

「いい!いい!もういい!大丈夫だから!!必要ないからその情報!!」


千影君の言葉を遮って私は叫ぶ。

気を抜くとすぐ犯罪者にされてしまうのがここの怖いところだ。


「では気を取り直して……」


アプリを起動すると、電話番号からの紐付けで景君と千影君が表示される。

その他にもIDやSNS連携からでも相手を検索できるようで、分かりやすく便利な仕様になっているようだ。

更に、位置情報で近くの友達を探せるといったサービスもあるようだが、ここまで色々できるものは珍しいとは景君の談。

ちなみに今では当たり前になった、SNSとは、ソーシャルネットワーキングサービスの略で、日本語で「会員制交流サイト」を意味している。

私も登録はしているものの専(もっぱ)ら他人の呟きを見るだけなので投稿した事はない。

景君はそれなりに使っているようだが、千影君に至ってはインストールすらしていない。


「これで準備はOKですね、えーと…3人以上で通話して…解答さんお出まし下さいって言って…30分以上通話すればいいんですよね?」

「うむ、それでも解答さんが現れる可能性は半々だそうだが…」

「本当に大丈夫なんでしょうか…?」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずというやつだ」


千影君が不安そうにしているので少々躊躇してしまう。

実際、くねくねの時も千影君がいなければただでは済まなかったであろう。


「解答さんが現れたら何でも質問に答えてくれる…」

「けれどその後に逆に聞かれる質問に答えられなければ大変な目に合う…」

「そう、それがルールであり対処法であるな」

「いきますよ…?」


最終確認の後

我々は通話ボタンをタップした。




「最初に解答さんお出ましください!だったな…」

「解答さんお出ましください」

「解答さんお出ましください」


私に倣って二人も唱和する。


「それからは…あーもしもし」

「はいはい」

「私ですが」

「そうですね」

「………」

「今日はお日柄もよく…」

「これ30分はきつくないですか?」

「とはいえ…それがルールであるからなぁ…」

「普通こんなふうに顔を見合わせながら使う物じゃないでしょうからね」


眼の前に相手がいるのに電話で話すというのは如何せん照れくささがあるもので…


「雑談といこう」

「そうですね、テーマは何にしましょうか」

「あ!部長の恋愛経験とか聞きたいですね!」


景君がサラリととんでもない事をぶち込んでく

る。


「ん!?わ…私のかい?」

「そうですそうです!俺は姉の事もあるんでなかなかそういう事もなかったんですけど」

「………」


何やら千影君までもが興味津々な目でこちらを見てくる。


「そ…そうであるな…私も今でこそ孤高を貫いてはいるがそりゃもう昔は…」

「友達が少ないとか言ってるのも彼女を優先しすぎたからとかでしょ!」

「ん?…まぁ…そんなところであるな!ははは!」


これを嫌味じゃなく言ってくるのが景君の怖いところである。

そんなわけあるかと叫びたい気持ちを抑え、私はいかにうまくこの状況を打破するのか思案する。


「あれは私が小学生の時であるな…」

「おお…早熟ですね…」

「シッ!!お静かに!」

「学級新聞というものを作ろうという話になり、私は4コマ漫画を描く担当を引き受けたのだが…」

「ほうほう…」

「それが思いの外好評でね!次からも是非私に描いてほしいとの声が多数あがったわけだ」

「なるほど…」

「それがクラス替えまでずっと続いた…というのが初めての体験であったな…うんうん」

「……」

「……?」


二人共が何言ってんだ?といった顔でこちらを見ている。

視線が痛いが私は自分を信じて最後の言葉を絞り出した。


「これが私の初の連載経験であるな!ははは!」


どうであろうか、 れんあい と れんさい これを掛けた見事な切り抜け方法は!


「………」

「はぁ…」

「聞かない方がマシでした」

「ガッカリです…」


こちらがビックリするほどの冷淡なリアクションが待っていたのであった。



そこからは好きな食べ物の話や、郷土料理といえばなんて話になり、気が付けば割りとあっさりと30分が経過しようとしていた。


「さあ、そろそろだがどうなるであろうか…」


時計をチラリと見やりながらそう呟く。


「………何も…起こらないですね」

「きっちり30分じゃないんでしょうか?」

「ふむ…一応もう30分程繋げてみようか」


しかしそれから30分経ってもアプリには何の変化もないまま時間だけが過ぎていったのであった。

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