解答さん 其の2

「少々よろしいか?」


遠慮ぎみに制服姿の女子に声をかける。

見ようによっては非常に危険な光景かもしれない。


「何ー?ナンパー?」

「ごめんねーアタシらそういうの必要ないんでー」

「いやいや!違う違う!!」

「じゃあなんなの?パパ活とかもしてないんですけどー?」

「違うと言ってるだろう!誤解されるような事を大声で言わないでくれたまえ!」

「なんなのコイツー」


確かに私のような男に声をかけられたら警戒もするだろうが…

それにしてももう少し配慮というものをだな…


「……いや、盗み聞きした訳ではないのだが…今『解答さん』と言わなかったかな?」

「してんじゃん盗み聞き」

「ぐぬぬ…聞こえてきたんだよ!大声で話していたから!」

「あははームキにならなくていいってー」


ヒラヒラと目の前で手を振る女子はケラケラ楽しそうに笑いながら応じてくれた。


「おじさんも興味あんのー?」

「おじ!?いや私はまだ君達と2〜3歳しか違わないであろう!?」

「じゃあおじさんでいいじゃん」

「最近の若者は………」


この台詞がおじさん臭いとは思うもののこの際気にしない事にしよう。

彼女らとの会話にいちいち腹を立てていては大人として示しがつかない。


「ゴホン……よければその『解答さん』について聞かせてもらえないだろうか?」

「どうするー?」

「アタシ別にいいよー」

「私もー」

「それは助かる、ここでは何だから外で…」

「おじさーん、アタシ、パンとミルクティーね」

「私はアメリカンドッグとカフェオレ」

「あーしは唐揚げとおにぎりとお茶」

「みんなで食べるお菓子もいるっしょ」

「いるいるー!あ!じゃあ雑誌も買ってくるー!」

「………ぐぬぬ」


まぁタダでは申し訳ないとは思っていたが…

なかなかに不遠慮なお嬢さん達である。




「それで?」


少々イライラしながら声をかける。


「えー何がーー?」


近くの公園に移動してからかれこれ30分、彼女達はコスメがどうだ、彼ピがどうだの話に花を咲かせ一向に『解答さん』の話に行き着かない。


「あーー、忘れてたー」

「おじさんまだいたんだ?」

「いるに決まっているだろう!!何も聞いてないのに君らに昼飯だけ奢る奴がいるかね!?」

「パパ活じゃん」

「うわっ引くわー」

「……返金を要求する!!」

「ジョーダン!ジョーダンじゃん!」

「カルシウム足りてない系じゃん!!」


もう大人としてだとか言ってる余裕は消え失せていた。


「なんかね、アタシ達の学校で『解答さん』って噂が流れ始めたの」

「うむ」

「アタシ達のグループじゃないんだけど、それを実行したってコ達がいてさ、実際に『解答さん

』に繋がったんだって」

「ちなみに『解答さん』と繋がる手順は知っておられるか?」

「えとね、一応アタシも入れてるんだけど…これこれ、この『SaI』ってアプリ」

「ふむ、ストアには見当たらないな…野良アプリというやつだね…」


野良アプリとは、公式のアプリケーションストアから提供されていないアプリの通称である。

単純に料金システムの都合でストアを通せないなんて物から、いかにも妖しげで危険そうなアプリまで多種多様に渡る。


「これで3人以上で通話して、最初に皆で『解答さんお出ましください』って言うんだって」

「解答さんお出ましください………と」

「それで30分以上通話してると、知らない人が急にその部屋に入ってくんの、パスワードとかかかってんのに!」

「……ふむ」

「それが『解答さん』で何でも一つ質問に答えてくれるんだってさ」

「なるほど」

「だけど最後に逆に『解答さん』から質問されて、それに答えられないと殺されちゃうらしいよ」

「殺されちゃう…随分と過激な…」

「それでね、その繋がったコがミキって言うんだけど、質問に答えられなかったらしくて…殺されちゃったんだって…」

「本当にお亡くなりに?」

「多分…お葬式とかはなかったけど…誰にも何も言わず居なくなっちゃって…家族も引っ越したみたいで…」

「繋がったコと言っていたが…他の2人はどうなったのだろう?」

「なんかね、繋がった時点で他の2人は接続切れちゃって、スピーカーもオンにできなかったんだって」

「ふむ…」

「だから質問の内容とかはアタシ達も知らないし、その2人も知らないんじゃないかな」

「その2人と連絡はつくかね?」

「ううん、『解答さん』のコトで責任感じちゃったのか2人とも学校来なくなっちゃって…んで親もそれはマズイって事で引っ越しちゃったらしいよ?」

「らしいとは?」

「アタシらあんまり親しくなかったんだけど、連絡先知ってるコとかも連絡できなくなったとか言ってたから…まぁ学校来てもヒソヒソされっしね、居づらかったんじゃない?」

「真相は闇の中か…」


情報をメモしながらまとめていると、彼女達は予定があるらしく、またキャッキャと騒ぎながら行ってしまった。

去り際に連絡先を交換したのでまぁよしとしよう。

少々出費はあったものの興味深い情報を得る事ができた、本人に確認できたらよかったのだが…

死んでしまったというのは話半分だとしても…何かが起こった事は間違いなさそうである。


「やはり実際にやってみなければ…という結論になってしまうか…」


教えて貰った野良アプリ『SaI』をインストールしながら検索サイトで同じく『SaI』と調べてみる。


「あるにはあるが…『解答さん』関連はヒットせず…か…」


これだけの噂になっているにも関わらずSNSにすら『解答さん』関連の情報は上がっていなかった。

こんな事がありうるのだろうか…?

ここ最近の恐ろしい出来事を思い出し身震いする。


「皆に相談してみるか」


駅までの道を振り返ると、広大な更地が目に入る。

伊賀医院の跡地から冷たい風が吹いているような気がした。


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