出会い 其の1

「休みの日数が足りなくなってしまった」


そうなのだ、くねくね騒動で思いの外時間を使いすぎてしまったのだ。

大学の事もあるので、残念ながら俺の故郷への帰省は延期という形になってしまった。


「景君…すみません」

「いえ、仕方無いですよ、それに都市伝説は実在する事が分かったんですから!」

「確かに、今回のくねくねは間違いなく常識の範囲を遥かに超えた出来事だったんじゃなかろうか」


ガタゴトと帰りの電車に揺られながら今回の事を振り返る。


「部長の言ったように科学的にも解釈できそうですが…」

「電気信号の話かい?あんなものは後付けで何とでも言えるさ、大事なのはこの身で体験した事だよ」

「そうですか?」

「無論!1の経験は100の知識に勝る!というやつだ!」

「いい言葉ですね、誰の名言なんですか?」

「私だ!!」

「………」

「イギリスの諺(ことわざ)に『学問なき経験は経験なき学問に勝る』というものが、他にもアルベルト・アインシュタインが『何かを学ぶのに、自分自身で経験する以上に良い方法はない』という名言を残しておられます」

「千影君!私はパクってない!パクったわけではないぞ!!」


ガタンゴトン…ガタンゴトンと電車の音だけが響く。


「ところで…こいつどうしましょうか?」


カバンからタオルで巻いたそれを取り出す。

割れないように慎重に扱うそれは、先の大蛇の卵だ。


「部室で飼うというのが安全かもしれんな、ただのアオダイショウだとは思うが」

「産まれて異常がなければどこかの山にでも離してやりますか?」

「そうだな、千影君も爬虫類は大丈夫だったかな?」

「はい、ただ餌やりは…少し…」

「そういや何食べるんでしたっけ?」

「マウスだ」

「マウス…」

「いや!と言っても冷凍のやつが売っているから!大丈夫!!」

「大丈夫………ですかそれ?」

「冷凍の……マウス……」


俺も餌やりは辞退させてもらうことにしよう。


「ずっと気になってたんですが…」

「はい?」

「部長と千影さんって昔からの知り合いとかなんですか?」

「昔からというわけでもないが…どうしてかね?」

「いや…なんか息もピッタリですし…千影さんがこんな怪しげなサークルに入った理由って…聞いてもいいんでしょうか?」

「ふむ…」


話してもいいのかね?と言った表情で部長が千影さんを見やる。


「構いませんよ、私にとってはいい思い出ですから」

「ふむ…なら…あれは私が大学2年の時だな、千影君が入学してすぐくらいの事だったか…」


ガタンゴトンガタンゴトン電車は揺れる。

ガタン…ゴトン…

ガタン………ゴトン………




私は西 東吾、この大学に通うごくごく普通の男子である。

すまない、アニメ等で見かけるこの導入に憧れがあってだな。

この学校は特に優秀というわけでもないが社会学や民俗学があり、私のようなオカルト好きには様々な側面を学ぶ事ができるので悪くない環境なのだ。

勿論サークルにも所属している、オカ研…オカルト研究部というやつだ。

部員はと言うと…先輩が卒業してしまい私だけになってしまったが。


「今日はいい天気であるな」


次の講義まで時間がある。

部室で時間でも潰そうかと清涼飲料水を一本買い、欠伸をしながら構内を歩く。

友達がいないわけではないので誤解はしないでくれたまえ!

まぁ親友と呼べる程の人間はここにはいないが私だって探せば友達の一人や二人…ん?


「新入生?可愛いねーサークルとか決まってるのかな?」

「いえ、入るつもりはありませんから」

「まぁまぁ話だけでも、ね?」


サークルの勧誘をしているチャラついた男と可愛らしい女性の姿が目に映る。


「飲み会も頻繁にあるから楽しいよー!」

「興味ありませんから…」

「そう邪険にするなよ」

「あの…本当に…」

「な?いいよな?見学だけでも」


全くもって嘆かわしい。

何も飲み会を否定したいわけではないが、嫌がっている人間を無理矢理誘うのはいただけない。


「そのへんにしときたまえ、嫌がってるではないか」

「…あ?なんだお前」

「強引な勧誘は禁止されているだろう?ほら、君はもう行きたまえ」

「あ、ありがとうございます…」

「こらこらこら、何勝手なことしてんだ、おい」

「婦女子に凄むものではないぞ、みっともな…」

「いいカッコしてんなよ!デブオタクが!」


言うが早いか、そのチャラついた男に殴られてしまう。

私は見た目は頑丈そうであるが、めっぽう痛みには弱いときている。


「あい!!いっだ!やめ!やめたまえ!!暴力反対!!」

「うるせえんだよ!」


数発殴られた所で人が集まってくる。

チャラついた男にとって悪い噂は天敵なのだろう、人目を気にしてか捨て台詞を吐いてそのまま去っていく。


「次邪魔したら容赦しねえぞ」

「次が無いことを祈るばかりだ…」


集まってきた人々も殴られていたのが私と分かると、特に興味もなさそうに解散していく。

なんともはや…世の無情をここまで感じる事ができるとは…ありがたくて涙が出るね。


「うちも飲み会などすれば部員が増えるだろうか…」


殴られた頬を擦(さす)りながら、今日の講義をサボる事にした私はトボトボと帰路につくのであった…。



それから数日後。

私はどうもいらぬトラブルに首を突っ込んでしまう悪い癖があるようだ。

今日も電車の順番を割り込みした男性に注意した所、また激高させてしまい、ポカリとやられてしまった…

あげく周りの乗客らから「余計な事するなよ、遅くなるだけだろうが」なんて野次が飛んできて…


「はぁーーーーーー」


全くもって損な性分である…


「あの…」


大きなため息をついていると声をかけられる。


「いや、申し訳無い、いらぬお節介だったようで…」

「いえ、そうじゃなくて…」


そこには先日チャラついた男から助けた女性がいた。


「覚えていますか?この前はありがとうございます」

「ああ、サークル勧誘の!何、気にしないでくれたまえ」

「でも…殴られてまで…」

「ふはは、柔らかくなってちょうど良かった!」

「………」

「え…あ…いや…お肉は叩くと柔らかくなるから…あれ?」

「…なんですかそれ…ふふ…変なの」


私と千影君が初めて声を交わしたのはこの時であった。

それは彼女の笑顔を初めて見た日にもなったわけだが。


「変だとはよく言われる」

「ふふ」


けれどこれがまた余計なトラブルを招いてしまうとは思わなかったのだ。

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