くねくね 其の3

「…ふぅー…参ったな」

「どうしたんですか急に」

「景君はくねくねはご存知ありませんか?」

「すいません、ちょっと聞き覚えは無いです」


無事部屋に戻り着き、俺は先程の不気味な存在について尋ねる。


「ふむ…くねくねの話の前に、まずは都市伝説について少し話そうか」

「はい」

「勿体ぶっている訳ではないからな!誤解しないでくれたまえよ!」

「わかってますって!」

「勿体ぶっているんですけどね」

「千影君!」


ゴホンと咳払い。


「さて…ではまず、都市伝説がインターネットの無かった時代になぜあそこまで爆発的に広がっていったのか?」

「そう言えばそうですね」

「都市伝説には対処法があるというのが大きな要因だ」

「対処法…」

「まずAという人物がいたとする…そしてその人物はBという人物に…例えば口裂け女の話をするわけだ」

「はい」

「面白いものでこういった話をする時に、人は優位に立とうとするのだ」

「優位にですか?」

「そう、なぞなぞの答えを知っている者が回答を焦らすのと同じ心理かもしれないね、都市伝説で言うとその回答に当たるのが対処法だ」

「なるほど…」

「AはBに対し口裂け女の話をする、ただし対処法を隠して…そうするとBは対処法を知ろうとあちこちでその対処法のわからない不完全な話をするようになる…」

「……」

「Bからその話を聞いた者達もまた、同じ様にあちこちでその話をし、対処法を探ろうとする…」

「ウイルスみたいですね」

「言い得て妙であるね、とにかく、爆発的に都市伝説が広がったのにはそういった理由があるのだよ」

「対処法を探るためですか…」


ウム、と大きく頷きながら部長は続ける。


「厳密に言えば、時代背景等の様々な要素があるのだが…大きな要因はそれであるな」

「それで…都市伝説の広がった理由がどうしたんですか?」

「他の怪談と違い、都市伝説には対処法が存在する!故に人から人へ伝わりやすい!」

「はい」

「大事なのはまさにその「都市伝説には対処法が存在する」といった部分なのだよ!」

「?」

「口裂け女で言うならばポマードやベッコウ飴だな、我々はそこを誤ってはいけない!なぜなら対処法を誤った場合、ほとんどのケースで最悪の結末が待っているからだ」

「まぁ…そうですね…」

「逆に言えば、対処法を誤りさえしなければ今度も都市伝説と対等に渡り合えると言う事に他ならない!!」

「!!」

「いいかね?これは都市伝説におけるルールのようなものだ、ルールを守れば戦える、破れば手痛いペナルティだ」

「なるほど…知識が武器になるわけですね…」

「そう言う事だ!……ではここでようやく先程のくねくねについて話を戻そう…」

「お願いします」



兄弟がいた。

夏休みに田舎に遊びに来た幼い二人だ。

けれど田舎は所詮は田舎、虫採りも飽きてしまったし持ってきたゲームもやり尽くしてしまった。

やる事もなく二人、縁側で外を眺めながら甘いスイカにかぶりつく。

そんな時、兄が何かを見つける。

遠くに何やらくねくねと動く白い影見えるのだ。

「あれは何だろう?」「よく見えないね」二人で目を凝らすもよくわからない。

ただそれはずっとくねくねくねくねと動いていた。

「そういえば僕双眼鏡持ってる!」兄がそう言ってバタバタと双眼鏡を持ってくる。

弟が見たがるが当然先に見るのはお兄ちゃんの特権だ、「後で見せてやるから」なんて言いながら双眼鏡を覗き込む。

「何?あれ何ー?」弟が急かすも、兄は途端に黙り込み何も喋らない…

「お兄ちゃん?」明らかに様子のおかしい兄から双眼鏡を奪おうとすると…


「分からないほうがいい…」


兄はそう言って縁側から去ってしまう。

弟は訝しがりながらも、兄が気がかりでその場を後にする。

けれど兄はその日のうちに精神に異常を来(きた)し狂ってしまう。

一体兄は何を見て、何を理解してしまったのだろうか…………?



「これがくねくねの概要だ」

「………」

「祖父母が弟を止めるパターンや、弟が最後にその何かを間近で見てしまう…なんてパターンもある」

「弟はどうなるんですか?」

「話はそこで終わるから何も判明しない、創作ではよくあるパターンだ」

「これって…対処法…」

「それだよ景君!!」


ビシっと指を差す。


「先程言ったように、正しい知識、対処法を知っていれば都市伝説と戦える!だが…ことくねくねに関しては対処法と呼ばれるものが無いのだよ」

「対処法が無い…」

「というよりは…「くねくねが何か理解しようとしない」「くねくねが見えない所に避難する」これが対処法と言えるわけだが…」

「逃げるしかないって事ですか?」

「そういう事だ、「関わらない」これが最大の対処法なのだよ…」

「そんな…」


明らかに異常な事が起こっている。

にも関わらずそれに触れる事は許されない…

まさに理不尽の権化のような都市伝説である。


「人の姿が無いのも説明がつきますね…」

「ああ、遭遇してしまえばそこでおしまいだからね」

「案山子にはどんな意味があるのでしょう…?」

「そういえばそうですね…」

「とにかく朝を待とう、今日は外を見るのも控えたほうがいい…」

「窓の外に張り付いてたらと思うと…ゾッとしますね…」

「景君…やめてください」


千影さんに怒られてしまった。


「朝、奴がいた所を再調査であるな、無論、最大限に警戒しながらの作業になるが」

「そうです…ね」

「今日は逃げ帰れてよかったとしましょう…」

「そうだな、千影君の言う通りだ、皆が無事でよかった」


それは全くもってその通りだ。

だが果たしてくねくねと対決はできるのだろうか?

そしてこのくねくねは都市伝説で語られる怪異なのだろうか?

皆疲れていたのだろう、考えもまとまらないまま、すぐに深い眠りにつくのであった。

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