第6話 夜空

 海岸で焚き木をしている。高槻と及川は闇に家をオーダーして、そこで寝ている。成瀬は図書室に戻った。俺と横峯が、明るい火を囲んでいた。

「こうやってるとさぁ」

 横峯がぽつんと呟く。

「立花と世界で二人きりだって感じがする」

「俺もそれ思った」

 横峯がはにかむ。

「……ずっとこのままでもいいかも」

 俺がそう言うと、横峯は海を見ながら静かに言った。

「でも、いつかは帰らないとね」

「さっきと意見が逆になってるな」

「そうだね」

「なんでだろうな」

「僕は、最初は夢中になるんだけど、すって現実に戻りやすいんだよ。立花は逆。最初は馴染まないんだけど、気がついたら虜になってる」

 潮騒が静かに心を揺らす。

「危ういものに惹かれやすいからな、立花は」

「やばいじゃん、それ」

「だから僕が見といてあげるって」

 ずっとね、と聞こえた気がした。愛されている。

「……もしかしたらさ」

 横峯が言う。

「俺、帰りたくないのに『帰りたい』って言ったから、現象化されなかったのかも」

「……その可能性はあるな」

「今も、帰らないととは思うけど、帰りたいとはやっぱり思わない」

「……俺もだよ」

「やばいじゃん二人とも」

 からからと横峯が笑う。衝動的にその口を唇で塞いだ。

「……!」

 横峯は驚いた表情でこちらを見ていたが、拒絶はされなかった。

「……びっくりした」

「ごめん」

 今更恥ずかしさがぐわっと腹の中で暴れた。

「なんか、つい……」

「自分からはじめといて恥ずかしがるやつ」

 と言いながら、横峯は怒った表情でひっついてきた。

「これだけ?」

「待ってくれ、ちと早くないか」

「立花の弱虫ー」

 ちう、と頬に口づけられる。小鳥かな? 抱きしめて口づけた。ふと横峯の瞳を見ると、熱と潤みと秋波が見えた。少し横峯のことが分かった気がした。でも、まだ分からない。知りたい。俺は横峯のネクタイに手をかけた。

 ばしゃり、と水音がして、俺達はぎょっとして後ろを向いた。そこにはスカートをたくし上げた及川がいた。

「うぁ……ごめん、邪魔するつもりはなかったんだけど……成瀬のとこ行こうかと思って……」

「それは……いってらっしゃい……」

 微妙な空気になって俺はこほんと咳をした。横峯が頬を赤らめたまま、横を向いている。

「ここですることじゃなかったな……」

 頭を冷やすために砂浜に横になった。空には満天の星が輝いている。

「あれも作り物なのかな」

「そうかもね」

「なのに、綺麗だ」

「実体があるよね。暗闇ってなんなんだろう」

「この世界のバックヤードに繋がっちゃったとか?」

「だといいよね。どうする? 最後に代償を要求されたら」

「悪魔の力か」

 ふふ、と横峯は笑った。

「僕ちょっと思ったんだけどさ」

「なに?」

「放課後の教室で、期待してないみたいな話したじゃん」

「ああ」

「だから強制的に日常から切り離されたんじゃないかって」

「お前のせい説?」

 思わず笑ってしまう。

「だったら面白いな」

「面白かないよ」

「なんでもいいよ……こんないいところで遊べたんだもん」

 夜空に手を伸ばす。

「ありがとう、横峯」

「俺のせいになってる」

 むくれてる。頬をつついて、笑った。

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