第4話 ギフト

 目を覚ますと、暗闇があった。あの後しばらく談笑した後、腕時計が24時になったところで全員で眠りについたのだ。時計が動くのはありがたいが、そのうちソーラーの充電が切れるかもしれない。それまでには太陽の下に行きたかった。

「何時だろう……」

 スマホがないので手元に光がない。十分寝た気がしたので、思い切って手探りで教室の電気をつけようとした。

「うぎゃっ」

「え! あ、ごめん」

 どうやら横峯の足先を踏んでしまったらしい。

「ちょお寝てたのに〜」

「ごめんて。何時か分かる?」

「ん〜ちょっと待って、スマホ見るから」

 スマホ持ってるのか。ぱっと光が灯り、7時と表示されているのが見えた。

「7時か、ありがとう」

「もう起きたほうがいいな」

 横峯はさっさと体を起こして、スマホの光を頼りに教室の電気をつけた。さすが、朝に強いタイプである。

「ひゃっ」

「おはようみんな」

「おは〜……眠いよぉ」

「おはよう。……7時だったのね」

「おはようございます」

 全員思い思いに体を起こした。

「ここ、家庭科室だったらよかったのになぁ。そしたら顔洗えるのに」

 及川がそう言って、高槻が頷いた。

「ほんとにそうね。飲み水も確保できるし。水がほしいわ」

 そう高槻が言った瞬間、ちょろちょろと水音がした。なんだ?

「……なんか水の音しない?」

「するわね」

 高槻が耳を澄ます仕草をして、ドアとは反対の窓の方に歩いていった。そして、がらりとガラス窓を開けた。

「岩だわ……」

「岩?」

 高槻の側に行き、窓の外を見ると、そこには黒い岩肌が出現しており、その破れ目から絶え間なく水らしきものが流れていた。

「なんだこれ……」

「安全な液体かしら」

 高槻が体を乗り出して、岩肌に顔を近づけた。

「無臭だわ」

「気をつけて」

 高槻はすっと手を伸ばして、液体を受けた。そして、ぱしゃりと顔にそれを浴びせた。ハンカチを差し出すと、高槻は微笑んだ。

「ありがとう」

 顔を拭き、そのままじっとしている。

「……うん、大丈夫よ、異変はない」

 横峯といい高槻といい、なんでこんなに勇者なんだ。怖いよもう。俺も液体に近づき、両手で受けて口に含んだ。無味無臭だ。たぶんこれは水だ。柔らかく乾きを癒やしてくれた。

「大丈夫だと思う」

 俺がそう言うと、不安げなみんなの様子が緩んだ。

「試してくれてありがとう。私も顔洗いたい」

「ありがとうございます。高槻さんの水筒に詰めときませんか?」

 各人ひとしきり水のお世話になってから、人心地つく。

「お水美味しいねぇ」

「でも不思議だよな。今までこんなことなかったのに」

「突然だったよね」

 突然。そうだったか? 俺は違和感を感じた。しかしその違和感の正体が分からない。

「しっかし、この闇の中を進むなんて気が進まないな〜。懐中電灯の一つや二つあればね〜」

 そう横峯がぼやいたその時。かつん、と音がして、皆がそちらのほうを凝視した。

「なに」

 そこには懐中電灯が落ちていた。丁度、水を汲むために開いた窓から。

「どういうこと」

「何かをほしいって口にしたら、丁度それが暗闇から出てくるな」

「そういうことか!」

 皆が俺を見つめる。やめてくれ。

「なんで?」

「横峯、それを聞いてくれるな。そこまではさすがに分からない」

「そりゃそうか」

 俺達は黙り込んだ。障害だと思っていた暗闇が、なぜかこちらの願いを叶えてくれるというコペルニクス的転回に、俺達ははっきりと戸惑っていた。

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