第3話 告白
うっ。なんかいい雰囲気ではないか。俺は内心穏やかではない。
「……ここから出たほうがいいかもしれないわね」
そう高槻は言った。
椅子を輪に並べて皆で最中とカントリーマアムを食す。
「美味しいよ」
「うん旨いうまい」
「これが最後の晩餐かも」
「それ笑える。最後が最中とカントリーマアムって」
「いや笑えねぇよ」
緊急事態だというのに、場はなぜか和気あいあいとしている。
「そういえば、横峯さんと高槻さんはかつてお付き合いされていたんですよね」
成瀬が爆弾を放り込んだ。
「そうよ」
高槻さんがすました表情でお茶を飲む。
「どうしてお別れしたんですか」
成瀬は奥ゆかしいように見えて直截に物を言う奴である。
「僕が悪いんだよ」
横峯が片膝を立てて最中を頬張りながら言った。こういういわゆるお行儀の悪い仕草をしながら、どこか品があるのが横峯のいいところである。
「高槻のこと大事にしきれなかったから」
「そうなんですね」
「あら、私が悪いのよ。横峯君の理想には足りなかったの」
「それって窮屈じゃないですか?」
「そんなことないわよ。私、横峯君のためならなんだってできるもの。でも、もっと上手にそれができる人とお付き合いしてほしかったから、私から振ったのよ」
「へぇ……」
高槻は過去形にしなかった。もしかしたら今も、横峯のことが好きなのかもしれない。
「……高槻。俺、言ってないことがあるんだよ」
「なぁに?」
「俺、女の子は元々だめなんだ」
ここで言うのか横峯。
「自分を偽って君と付き合ったんだよ。だから謝るべきは俺なんだ。本当にごめん」
高槻は大きい眼をぱちりと瞬きさせた。
「……あら、そうだったの。早く言ってよ、それ。私あんな悩んでたのよ」
「ごめんな」
「別にいいけど。私、女でいる私が気に入ってるから、男の子になるのは土台無理な話」
「うん。もちろん」
横峯は頷いた。
「……俺今、好きな人がいるんだ」
「そうなんだ。よかったわね。立花君でしょ」
……ぅえ!?!? 突然核弾頭がッ!?
「だって横峯君が仲良くしてるの立花君くらいじゃない」
「……おみそれしました」
成瀬と及川はなぜか無反応で最中を食べている。俺が二人を見ると、きょとんと顔を上げて言った。
「僕? 知ってるけど???」
「だって立花君の横峯君への溺愛ぶりなんて見てたら分かるわよねぇ」
なんなんだこれ。知らないと思ってたの俺と横峯だけか。
しかし、高槻の心の中が気にかかる。すました表情をしているが、何かを封じ込めてやいなしないか。
「やっと失恋できたって気持ちだわ」
そう高槻は言った。俺は出過ぎた心配をしたと反省した。
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