第2話 食料探し

「高槻……久しぶり」

 横峯が気まずそうな笑顔を貼り付けて高槻に挨拶した。

「久しぶりね、横峯君」

 クールな視線を横峯に投げかける高槻。これが高嶺の花か。よく分からないが。

「なんか雰囲気変わったね」

「色々あったもの」

 高槻は一瞬、じっと横峯を見つめた。それからさらりと髪をかきあげた。

「とにかく、元に戻らなきゃならないわ。何か案がある人、いる?」

「えっと」

 成瀬が手を挙げる。

「成瀬くん、どうぞ」

「知り合いなんだ」

「同じクラスなのよ」

「へぇ」

「意見言っていい? とりあえず、この教室から出ることが危険なら、当面の食料を確保しといたほうがいいと思うんだけど」

「そうよね」

 各人ポケットに手をつっこみ、めぼしいものを探す。

「あ、溶けかけのキャラメル出てきた」

「うわっいつのだよ……俺はガムだな」

「ガムって腹の足しにならないじゃん」

「私なんも入ってなーい」

「僕も入ってないなぁ……」

「高槻は?」

 高槻は無言で図書室のカウンターに戻ると、カントリーマアムを出してきた。

「放課後、誰も来ないからね。よくこれ食べてるんだ」

 なんて奴だ。しかしありがたい。

「これでカロリーは摂取できるね」

 高槻によって分配されるカントリーマアム。

「ありがとう〜」

 皆口々に礼を言ってカントリーマアムを押し頂く。及川はその場で食べ始めた。

「いいの? 今食べて」

「だってお腹空いてたんだよ〜」

「でも、これだけなんだよね……」

 横峯がそう言って、重苦しい空気が垂れ込めた。

「横峯君、そう簡単に絶望しちゃだめよ」

 高槻が言った。

「私、図書準備室行ってくる。もしかしたら何かあるかも」

「俺も行くよ。入ってもいい?」

「もちろんよ」

「あたしも行く!」

「じゃあ俺も」

「僕も行くよ」

 なんだかんだで全員ぞろぞろと図書準備室に入ることになった。手分けして戸棚や机の中を開けていく。

「なんかあったー?」

「今んとこないなー」

「あ!」

 及川が声を上げる。

「なんか箱入ってる!」

「開けてみて」

「なんか和菓子みたい」

「いつのなんだ?」

「うんとねー、まだ賞味期限来てないよ!」

 及川が戦利品を図書室に持って帰った。どやどやと箱を囲む俺達。ぴらぴらと及川が包装紙を解く。

「最中だねー」

「とりあえず、今夜はこれでしのぐか」

「そうね。問題は明日からよ」

「ずっとここにいたら餓死するってことか」

「そうね」

「それもまた運命ってことか」

 横峯がぽつんと言った。

「諦めちゃだめよ」

 高槻が横峯のほうを見た。

「横峯君は周りに期待しないのがいいところだけど、そんな無欲だとすぐ命尽きるわよ」

「確かになぁ」

 思わず口にしてしまった。横峯ははっとした顔をしたあと、ぽりぽりと頭を掻いた。

「……みーちゃんの言うとおりだよ」

 高槻は虚を突かれた顔をして、それから言った。

「……その呼び方、久しぶりね」

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