弱さ

 実験を引き受けた日から、既に何日経過したのだろうか?


 そんな言葉が、私の脳内を満たしていく。

 何日も何日も繰り返されるそれは、私の心を日に日に摩耗させていく。

 周りの社会人が業務に励む中、私はずっと同じことを繰り返している。


 昔は良かったと語る人々を昔テレビで見たことがある。彼らはみんな、平成世代だった。世代のことを知らない人々が、昔のことを好む。それを不思議に思っていたことがあった。なぜ、経験したことがないことに興味を持ってしまうのか、わからなかった。


 ただ、ここ最近になってわかった気がする。


 その理由は、私がこれに参加することを決意した内容と同じだ。


 私は、ただ単純にあこがれていたのだ。


 何も話さず、何も苦労せず、ただただ惰性の日々を送り、生活する。人間失格と第三者から言われそうな退廃的生活を私は好んでいたのだ。


 それがどれだけ私に苦行を与えるのかも知らず、実態不透明のまま私は行動に移してしまったのである。どれだけ辛くても、どれだけ苦しくても、助けてくれる人はどこにもいない。


 私はここで初めて、私自身がどれだけ弱かったかを知った。蜜だけを求め、楽に走った結果得たのは私自身が絶望するという結末だけだったのだ。


 私は、弱かった。誰よりも弱い人間だった。

 お金を見て理性を失い、人生で得られるはずだった給与すら失った。

 もう、生きていくことすらできないのだろう。


 誰か、助けてくれよ。

 誰でもいい。誰でもいいから、私を救ってくれ。


 私は拳を床にたたきつけながら、喚き散らした。

 そんな時だった。


 一人の男が、部屋に入ってきた。


****


 桜吹雪く四月。新入社員が社内説明を受け、業務の方法を学んでいく頃。一人の男が、足利未来研究所に足を踏み入れていた。頭を坊主に丸めた、気だるい印象を抱かせる男である。男が扉を開くと、すぐさま煙草の匂いが鼻を刺激する。あまり心地よくない匂いだった。男は席に腰掛ける。業務用のパソコンの電源をつけると、IDやパスワードの入力画面が表示された。適当に入力を行いログインをした後、勤務表に記述を行ったうえで業務を始める。キーボードをたたく音だけが、オフィスに響く。カタカタと叩くたび、進んでいく業務を見つめながら男はため息をついていた。


 聞いていた話よりも、業務は単調であった。ただただこなせと指示が与えられたものを、こなしていく。そこに人の意思はない。コミュニケーションもなければ、考えすらない。上から与えられた命令をこなすだけの傀儡でしかなかった。


 しかし、男に逃げる選択肢は存在していなかった。ここで逃げてしまえば路頭に迷うことが目に見えていたからである。それ故に、男は使われるだけの人間になった。

 男の人生は、そこで終わった。

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